37:冒険者ギルド
その後町に到着する前に、便意を感じて困ったぞと思っていたら、前を行くザラが止まりドルバはザラから離れていってしゃがみこんでいた。
ベルムがザラから降りてこちらに近付いてきて、何かの葉っぱを取り出して持ってきたので、なるほどと察して、私は生まれて初めて異世界の荒野で用を足した。葉っぱでお尻を拭くのも生まれて初めてだった。後で家に帰ったらウォシュレットで洗い直そう。
ベルムも離れたところで用を足して、移動を再開し、背中に暖かい朝日の光を感じる頃、とても大きな町が目の前いっぱいに広がった。
町は頑丈そうな壁に囲まれており、背後には大きな岩壁が立ちはだかっていた。まさに天然の外壁に守られた要衝といった雰囲気で、ますます異世界モノらしくなってきたと、嬉しくてたまらなかった。
やがて巨大な門の前まで近づいていくと、門の前には列を作って入門許可を待つ行商人のような人達が見てとれた。
その中には二本足の小型恐竜のような生き物数匹に中型トラック並みの荷車を牽引させてる姿もあり、私の心はもうワクワクが止まらなかった。
行商達はドルバ達を見て、手を挙げて挨拶する者がいる一方で露骨にフンと鼻を鳴らして目を逸らす人もいた。
そのうち私達の順番になると、門番の人が親し気な様子で手を挙げ声をかけてきたので、ドルバ達が顔馴染みなことがすぐに分かった。
「おお!大分いいのが獲れたなぁ!」
「おう!今日は早めに飯屋に行った方がいいぞ!」
「そうする!ハハハ!夜の番の連中が気の毒だ!」
「そっちの若い人は誰だね?」
「おう、この若者は東にあるグンマ村からきた槍使いだ、若いが相当に腕が立つ、ベルムのザラに乗せたロックワームを一撃で仕留めたほどだ」
「グンマ村?聞いたことがないなぁ」
「うむ、本人を前にして言うのも悪いが、相当な辺境の田舎村らしい」
「お前さん、なんという名だね」
「はい、私の名は多田野 仁と言います、ドルバさんの言う通り、東の辺境の片田舎にある群馬からやってきた修行の旅をしている者です、是非冒険者ギルドに入って自分の腕を試したいと思っています」
「ほう、その若さでかね」
「彼はこう見えて20歳だ、東方の人は見た目が皆若い。そして先ほどドルバが言ったように相当な腕前だ」
「なるほど、お前さん方が認める程の人物なら間違いないだろう、冒険者ギルドに入るというのなら身柄もギルドでしっかり管理されるから問題ない、分かった通ってよし」
「ありがとうございます!」
「ウム、頑張れよ!」
そうして私は全く問題なく無事に入門することが出来た。先にロックワームを売りに行くということで肉屋へと向かった。ザラに乗ったまま町の中に入っていったがザラは実に賢いことに縦一列になって道を塞がないようにして歩いた。
私は「地図」と念じて拡大地図を表示した。すると上から見下ろした町の地図が出現したが、さすがに肉屋とか武器屋とか道具屋とか宿屋などのアイコンマークは表示されなかった。
程なくして一目見て肉屋だと分かる場所に到着した。そして隣の建物が間違いなく飯屋だというのもすぐに分かった。
さらにその迎えにある建物はほぼ確実に宿屋で、宿屋の隣がどうにもギルド関連の建物じゃないだろうかという雰囲気が大いに漂っていた。
私達はザラから降りて二人がかりでロックワームを持ち運んだ。ちなみにこの重さなら問題なく私一人で運搬可能だ。
ザラを見ててくれと頼まれたので頷き、ドルバとベルムが肉屋の奥の部屋に入っていってる間、肉屋の前でザラの見張りをしつつ肉屋を覗いていたのだが、天井に吊り下げられた何かの大きな肉の塊や、何かの葉の上に乗せられた肉の塊を見て、朝食を食べていないので非常に食欲がそそられた。
程なくして先にベルムがこちらにやってきて、割と血相を変えたように見えた。
「こりゃエライことになった、お前さんの仕留めたロックワームに450万デンの値が付いたぞ、二匹合わせて750万デンもの大金が入っちまった」
「それって・・・その、大金なんですか?」
「大金も大金だ、贅沢しなけりゃ村の人間全員が10年は食っていける大金だ」
「そんなに!」
ゴドルム村の村民が何人いるのか分からないが、そんな人達が10年も暮らせるとは確かに大金だ。
その後緊張した面持ちでドルバが店の奥から出てきた。かなり大事そうに抱えているバッグが膨らんでおり肩に食い込んている様子から相当ズッシリしているように見えた。
「タダノ、大事な話がある、ギルドの中で話そう」
「わ、分かりました」
私達はザラに乗って肉屋を離れた。目の前にあるギルドだと思った建物を通り過ぎていくので、予想が外れたかな?と思ったのだが、その先にある馬小屋ならぬザラ小屋に行くのが目的だったようで、ザラ小屋の前で降りると小屋から出てきた男にベルムがお金を渡した。
それからもう一度来た道を引き返し、ギルドの建物だと思った方へと歩いて向かって行った。
簡素ではあるが石造りで頑丈そうな建物の中に入っていくとまさにこれこそ冒険者ギルドと言った感じの光景が目に飛び込んできた。
掲示板に沢山貼られた依頼書、一番奥にはカウンター、カウンターには受付の小窓と鉄格子扉があって、それは恐らく報酬費用等を管理している金庫や冒険者から引き取った貴重な品々を守るためのものだろう。さらに個室部屋と思われる扉もあった。
そして何よりもその場にいる人々のただならぬ雰囲気である。全員何かしらの武器を携行しているし、なかなかに立派な防具で身を固めている人もいる。ただ少しだけ残念だったのが獣人のような所謂亜人族がいなかったことだ。
それ以外では明らかに背が低くてずんぐりむっくりして非常に濃くて長い髭を蓄え大きな斧を持ったまさにドワーフといった人や、間違いなく魔法使いだろうというのが一目で分かるローブを着て杖を持った細身の人などがいた。しかし割合的に槍使いが一番多く、その次に片手剣と盾を持つ戦士が多く、弓使いはパッと見た限りでは一人もいなかった。
ベルムがカウンターに近寄って何やら話していると、ガチャリという音と共に鉄格子の扉が開いて、中からかなり筋骨隆々の男性が出てきた。ベルムはお辞儀をしてこちらに振り返り、手招きしてきたので、ドルバと一緒に向かって行った。その間私はほぼその場にいる全員の視線を浴びた気がした。
筋骨隆々の男性とベルムは最もカウンターに近い個室部屋に入っていき、私とドルバも後に続いた。
個室部屋に入ると、なかなか立派な調度品が揃っているのに感心した。
身長2メートルはありそうな筋骨隆々の人は、見た目通りの男らしい低く大きな声で「かけたまえ」と言った。
私達はなかなかに高級そうな革のソファーに腰かけた。
「私は当冒険者ギルドのギルド長を務めているウォルロッドという」
そこで全員の目が私を注目したので、私は自己紹介をした。
「私の名は多田野 仁、遠い東の辺境の片田舎にある群馬からやってきました。多くの国々を見て回る修行の旅をしている者です。是非冒険者ギルドに入って自分の腕を試したいと思っています」
「ウム、ベルムから簡単ないきさつは聞いた。それにしてもグンマなる村は聞いたことがない、申し訳ないがかなりの辺境の地のようだ」
「はい、そのため私はほとんどこちらの事を知りません」
「なるほど、確かに東方の者というのならばそれも頷ける、彼等は皆大抵そうだ、そしてまた腕が立つ者も多い」
私はこの時、私以外の日本人が結構この異世界に来ているのではないかと想像した。




