33:村
異世界と現実世界とで時間の流れが違うということを知った私は、例えば異世界で何十年も過ごして老人になって現実世界に戻っても、現実世界では数年程度しか経っていない可能性を考え、これじゃ逆浦島太郎みたいだと思った。
でも果たしてそうなのだろうか?異世界で何十年も過ごしたら私はやはり老人になるのだろうか?さすがにちょっと恐ろしい気がしたのであまり試したくはないというか考えたくもなかった。
ただ現実世界で何十年も過ごせば私は確実に老人になるのは間違いないだろうから、その後異世界に戻ったらわずか数年しか経過していないのはほぼ確実のような気がした。
ただ、どちらもあまり気持ちの良い話しではないので、今は深く考えないようにした。そもそもポータルゲートがあるので、一度も家に戻らず何十年もの間異世界に居続けるようなことはないだろう。それになるべく交互に同程度の時間を消費すればバランスが取れるような気もする。
そんなわけで、今日もひたすら丸一日ランニングというおよそ普通の人間では成し得ない1日を開始した。
空腹になるまでひたすら走り続けると、ちょうど異世界では太陽が頭の真上に差しかかる辺りになったので、私はいったん家に戻って現実世界での夕方4時過ぎに昼食を作って食べた。
食事休憩の後異世界に戻る前にふと気が付き、ブーツのソールを確認したところ、まったく摩耗してすり減っていないことにとても安堵した。一応「情報」で調べてみると次のように表示された。
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ブーツ(希少)
素早さ:10
耐久性:10
損耗率:1%
【特殊能力】
水上歩行
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損耗率1%という数値に大いに満足し、まだまだ気にする程のものじゃないのでそのまま履き続けることにして異世界へと移動し、そこでようやく地図を拡大して確認してみた。すると・・・
目の前に映し出された大きな地図の最も上の右側に非常に気になるアイコンのようなものが表示されていた。そのアイコンは小さな家のようなものが三つ程重なって周囲に柵のような輪が描かれていた。
「村だ!きっと村のマークだ!」
私は大いに喜び早速駆け足で向かおうとしたが、すぐに自分に待ったをかけた。何の知識もないままこのままノコノコと村を訪れるのは非常に危険な気がしたのだ。
まず私は村までどの程度の距離があるのか調べることにした。そのため今拡大表示したままの地図に対して「左にずらして表示」と念じてみると大きさは変わらず目の前の視界の邪魔にならないように左に移動したので、そのままの状態で少し走ることにした。
10分程駆け足で軽く走ってみたところで停止し、地図を確認してみたところ、さっきまで一番上の右側に映っていた村アイコンがほんの僅かに下に移動したのが分かった。
それ程近いというわけではないが、かといって遥か遠くでもないことが分かって少しホッとし、私は走るのをやめて歩きながら考えることにした。
頭の中で真っ先に双眼鏡が思い浮かび、以前ヒマで仕方がなくて時間つぶしに家の物の整理整頓をした時に確かあったことを思い出した。
異世界人が非常に目が良いとか、何かしらの特殊能力で遠視が出来る人とかいたらどうしようかと思ったが、身の危険を感じたらすぐに離れて、ポータルゲートで逃げようと思った。
その後2時間程軽い駆け足で移動し、地図を出して確認したところ、村のアイコンは結構真ん中にまで近づいているのが分かった。ただ横の位置は変わらずまだ右側にあるので、恐らく今の駆け足で4時間程の距離といったところだった。私は村に接近することに決めてまた走り出した。
さらに3時間程走ったところで地図を確認し、上下位置では私のいる地点と同じで、左右の位置もかなり右に近づいていた。そこで私はいったん家に戻って双眼鏡を持ってくることにした。
双眼鏡は結構年代物で大きくてズシリと重たかったが、作りはかなり良さそうに思え、これは当時相当高級なものだったのじゃないかと思った。そして倍率は10倍と書かれていた。
すぐに異世界に戻ってまた走り出し、30分程走ったところで双眼鏡を取り出して見ると、かすかに何か建物のようなものが集まっているのが見えた。
そこからは早足で歩み寄っては双眼鏡を覗くのを繰り返し、どこか身を隠せて村の様子を観察出来そうな場所がないか探した。しかし村の近くには小さな岩はあるが身を隠せそうな大きな岩はなかった。
辺りはそろそろ夕日が沈む程に暗くなってきており、そこで私はアイディアが閃き、いったん家に戻って黒い防寒ジャケットをアイテム格納バッグに入れてツルハシを手にして異世界に戻り、地面に対して思いっきりツルハシを振り下ろしてみた。すると実にあっけなくツルハシは硬そうに見える岩盤を砕いてくれた。私は頷き夜が来るまで待った。
夜になったので私は黒い防寒ジャケットを着て活動を再開し、双眼鏡で村の様子が確認出来る位置まで近づき、ツルハシで地面を砕いて穴を掘った。穴はそんなに深くしなくてもしゃがんで隠れられれば良い程度の深さに掘った。
出来た穴に入って双眼鏡で覗いてみたところ、今は夜なのでほとんど分からないが、日が昇ればそこそこ様子を窺うことが出来そうだということで、いったん穴から出てかなり村から離れたところまで駆け足で走り、それからポータルゲートを出して家に帰った。
現実世界では午後4時過ぎだが、結構空腹と疲労が溜まっており、インスタントラーメンを取り出して野菜炒め用のパック野菜と豚バラ肉をさっと炒めて具材にし、肉野菜ラーメンを作って食べて、シャワーを浴びてすぐに寝た。その後午後10時過ぎに起きて朝食を食べ、装備を整えて異世界へと戻り穴の中で仮眠して夜明けが来るのを待った。
強い朝日が昇ってくるのを感じて目を覚まし、双眼鏡を構えて村の方を覗いてみた。簡素な平屋の小屋が立ち並ぶ小さな村で、周りに柵はないが堀のようなものがあるように見えた。それほど高くない見張り台があり、人が立っているのが分かった。
しばらくするとキノコ頭の一団が現われて「何だアレは!人間か?」とギョッとしてよく見てみたところ、恐らく日傘を被っているように見えた。そして何より最も目についたのがその一団が手にしているものだった。
彼等は明らかに槍と思われる長い棒を手にしていたのだ。先端が光を反射してキラリと光ったから間違いなく槍だと確信した。
私は身を乗り出すようにして、彼等の恰好を良く見た。服装はやはり現代日本人の服装とはかなり異なり、なんというか古い騎馬民族のような感じで、頭に日傘を被っているので髪の毛の色までは分からなかった。私は服の上に浴衣でも羽織って、頭には麦わら帽子でも被れば誤魔化せないかと考えた。
その後、その一団は何やら大きな板を倒して村を出た。恐らく堀の上に渡り橋を乗せたのだろう。全員橋を渡ってそのまま向かって右の方向に歩いて行き、その後別の何人かで渡り橋を戻していた。
そこまで確認してから、私はいったん穴から出て身体を低くして村から離れていき、ある程度離れたところで駆け足でさらに離れて家に戻り、プロテクターを脱いでアイテム格納バッグにしまい、お爺さんの浴衣を羽織って同じくお爺さんの麦わら帽子を被ってから愛用の槍を持って異世界へと戻った。
早歩きで村に近付き、目視で村が確認出来る程にまで近づいてから通常の歩く速度に落として村へと近づいた。緊張で心臓の鼓動は早まり、どうかトラブルが起きませんようにと祈りながら村へと近づいていった。




