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異世界小説家  作者: キクメン


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31:冒険の始まり

 「ファイヤーボール!」私は右手を開いて前に突き出し、そう叫んだ。叫ばざるを得なかった。叫びたくて仕方がなかった。


 恐らく声に出して詠唱する必要もなければ、右手を開いて前方に突き出す必要もないのだろう。


 しかし私はどうしても決めポーズと決めゼリフを言わずにはいられなかった。


ボウンッ!・・・ドシュッ・・・


 私が放った美しい火球は一直線に炎の奇跡をわずかに残しながら壁に激突して消滅した。


 私は右手を握り締めて胸の前に引き寄せ頭を少し俯けて、ジワジワと込み上げてくるマグマのような熱い感動を味わいながら、喜びマグマが頂点に達した所で一気に噴火した。


「ウォーーーッ!!」


 私は何度も雄たけびをあげて喜んだ。


 「フゥーーーッ・・・」と大きく息を吐いて気分を落ち着かせると、正面扉が開いているのに気が付いて部屋から出ようとした。


「さて、次の部屋はどんな・・・あ・・・」


 扉の先はいつもの青黒い石の通路ではなく、見たこともない風景が広がっていた。


 乾燥地帯のような乾いた土の色、見たこともない遺跡の残骸、遠くに見える岩肌の山々・・・


 そしてその山と対比して明らかに巨大すぎる鳥のような何かの生き物・・・


 私は開いた扉の前に近付き、まるでコメディ映画のコメディ役者のように見事に身体全身であたふたと慌てふためいた。


 驚き、喜び、不安、疑問、頭の中は自分でも訳が分からない程グルグル回っており、まるで収集がつかず、思わずその場に座り込んで、アイテム格納バッグからリュックを取り出し、リュックの中から氷水入りの水筒を取り出し、震える手でフタを開けてそのまま口をつけて水を飲んだが、手は震えているうえに勢い余って口の横から盛大に水がこぼれて、しかも一気に水が入り込んだものだから気管に入って盛大にむせた。


「夢じゃない、これは夢じゃない、目の前の光景は写し絵じゃない、実在する、実在するんだ」盛大にむせて咳をしたからなのか、感動感激したからなのか、私の目からは涙が溢れ出ていた。


 私は立ち上がり、部屋の中央に向かって深々と頭を下げて「ありがとうございました、いってまいります」と言ってからボススライム部屋から出ていくことにした。


 恐らくこれでチュートリアルは終了し、これからが本当の冒険の始まりなのだろう。


 扉の前で一つ深呼吸をして、「ヨシッ!」と一声気合を入れて、私は踏み出した。


 扉を出た瞬間、明るい日差しと生々しい空気の匂いを感じ、私は目を細めた。


 まずは周りを見渡してみようとゆっくり右から左へ視線を移し、そのまま背後を見た瞬間「あっ!」と声が出た。


 私の背後、すぐ目の前には縦長の楕円形の大きな全身鏡のようなものがあり、その鏡の中には元の世界が映っていたのだ。


 私はすぐに「情報ッ!」と念じた、すると・・・


-------------------

ポータルゲート(超希少)

破壊不能

運搬可能

-------------------


 「マジか!」瞬時に理解し驚きの声が出た。


 私は試しに鏡の枠のようなところを持って少し移動して、別の場所に置いてみたが元の世界はまるで写し絵のように変わらぬままだった。


 次にアイテム格納バッグを開いてポータルゲートに近付けてみたところ、ポータルゲートはバッグの中に吸い込まれるようにして入っていった。


 それから私はまた少し移動して、バッグの中にポータルゲートをイメージしながら手を入れて取り出すと、小さなミニチュア鏡が出てきて、地面に置いたところ倒れることもなく安定して直立し、すぐに元のサイズに戻った。そしてその鏡の中には先ほどと変わらず元の世界が映し出されていた。


 私は腰を落として何もない空間に向けて何度もパンチを繰り出して「マジか!マジか!マジか!」と言った後で大空に向かって大声を上げて喜んだ。


 ようやく私は少しだけ落ち着いて、まだまだ上ずった心のままではあるが、あらためてもう一度辺りを見回した。


 まず私が立っている場所は地面よりも大体1メートル程の高さの石畳の上で、ところどころ朽ちて欠けて砂のようになっている程に風化しており、同じようにかつては立派な石柱があったと思われる残骸も見て取れた。


 私が立っている部分には何か丸い模様のものが刻まれていたのではないかという形跡が判別出来た。


 そして辺りはギザギザした岩の壁で囲まれており、正面には階段があってその左右に岩の壁はなく、その壁の合間から見える先は薄茶色の乾いた荒野が広がっていた。


 私は今居る場所に何かアイテムのようなものがないかくまなく探し、特に何もないようなのでポータルゲートをバッグの中に格納して階段を降りて、目の前に広がる広大な荒野を見ようと歩き出した。


 階段を降りて乾いた硬い地面を歩き進み、やがて両サイドのギザギザの岩の壁から出て目の前に広がる風景を見た。


 今居る場所は丘陵地帯だったようで、なだらかに傾斜した広大な荒野を遠くまで一望出来た。人工的な建築物は一切なく、どこまでいっても遥か遠くまで荒野が続き、なんとなくアメリカのグランドキャニオンのような印象を抱いた。


 そこで私はもう一度バッグの中からポータルゲートを取り出して、いったん元の世界に出てみたところ、古墳の洞穴よりもほんの少しだけ家に近い場所に出てきたことを確認した。朝降っていた雨は既に止んでいた。


 すぐにまたポータルゲートをバッグにしまい、家の縁側まで歩いてからまたポータルゲートを取り出してみると、やはりグランドキャニオンのような風景が映っていて、足を踏み入れると、ポータルゲートをバッグにしまった場所に出現した。そして振り返ってみると家の縁側と奥の部屋が映っていた。私は何度も頷き喜んだ。


 そこで「地図」と念じて地図を拡大表示させた。すると自分がいる所が画面の下の方に表示され、簡易的な等高線のようなものが描かれた図面が現れたのだが、どこまで行っても荒野のような絵なので、私は「もっと遠くまでみたい」と念じてみると、地図の縮尺が変わったようになったのだが、丸い円のような範囲から先は真っ暗だった。


 私はなるほど、この先は自分で移動して確認しないと表示されないということだなと理解した。


 私はいったん元の世界に戻り、ここぞとばかりにお爺さんの原付バイクをバッグに格納し、もう一度異世界に移動してから原付バイクを取り出してエンジンをかけた。


「それじゃあ冒険と行こうじゃないか、原付バイクで!」


 私はお爺さんの原付バイクで荒野を疾走した。日本の道路交通法にのっとり時速30キロ以下で走るなどということは当然なく、時速60キロ近い速度で原付バイクのエンジンをうならせ疾走した。


「ィヤッホーーーーッ!」


 爽快、ただただ爽快の一言だった。


 といっても爽快だったのは30分程度で、徐々に地面がガレ場のように荒れ始めてきて、とても60キロはおろか30キロでも走れたものじゃなくなり、やがてこれ以上はタイヤがパンクするか転倒して大事な原付バイクを壊してしまいそうだったのでやむなく原付バイクをバッグにしまうことにした。


 ここから先は徒歩かと思って後ろを振り返ってみると、先ほどまでいた遺跡のある丘陵地帯が結構遠くに見えて、原付バイクでも飛ばせば結構遠くまで来るもんなんだなぁと感心した。


 ともあれここからは徒歩か・・・と、どこまでも続く広大な荒野を前にして若干ゲンナリする気分だった。


 それでも私にはタップリ時間はあるので、腹が減るか、疲れるか、飽きるかするまで歩いてみるとしようと思った。そこでどうせポータルゲートですぐに家に戻れるのだから、ブーツの性能を活かして出来るだけ早歩きしてみることにした。

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