29:レッドボススライム
私はとても大喜びでマントを身にまとって家路へと向かった。まるで雨の日にカッパを着てはしゃぐ小さな子供のようだった。
家に戻ってマントを脱いで、今日も手に入れた美しいルビーのようなレッドスライムゼリーを見て、ふと思った。
魔法防御力に魔法力回復・・・そういえばまだ、魔法による攻撃って自分からもだけど、スライムからも攻撃されていないなと考えた。それでもこうしたアイテムを手にしたということは、今後それが必要になる状況が来るのだろうか。
そんなことを考えながら、夕食に野菜炒めを作ってご飯を多めに食べて、その後風呂に入った。
鏡の前で胸から胃の辺りを確認したが、アザなどの打撲の痕等は全くなかった。それよりもますます細マッチョな筋肉質の身体付きを見て、我ながら少々見惚れてしまった。
翌朝、なんともタイミングの良いことに雨が降っていたので私は昨日ゲットしたばかりのマントを羽織って庭に出て見ることにした。
革のブーツは汚したくないのでお爺さんの長靴を履こうと思ったところで、以前キックの攻撃力測定で無残な姿になってしまったのを思い出したので、別の靴を履いて外に出て見た。
結構本降りのようで、マントの効果を試すにはもってこいだ。フードを被って前ボタンをかけて雨の中を歩いてみたところですぐに気付いた。
マントの表面を見ると完全に雨を弾いているのだ。それも雨はマントの表面に当たって弾かれているのではなく、空気の膜のようなものに当たって弾かれているのだ。
おかげでマントの中はまったく塗れず、水がしみ込んでくる心配もない。そもそも水に触れていないようなので乾かす必要もない、なんと傘要らずの便利なマントであろうか。
遠目から見ると空気の膜で弾かれているのは分からず、撥水加工で水を弾いてるとしか見えないので、これからは雨の日に原付バイクで出かける時はこのマントを着ていこうと思った。
今日はいよいよレッドボススライムのいる部屋に挑むということで、これまでの流れだとボススライムだけ異様に生命力と持久力が高いので長丁場になるから、お弁当持参で行かなければならない。
というわけで、炊飯ジャーのご飯が炊けたというメロディ音が聞こえたので、お弁当作りと朝ご飯を食べることにした。
かなり大きめのおにぎりを2個作って、玉子焼きとウインナーソーセージを焼いて、キウイフルーツの皮をむいてスライスして別々のタッパに入れて、おやつのバナナと氷水入り水筒とタオルも一緒にリュックの中に入れて、さらにリュックをアイテム格納バッグに入れた。
朝ご飯は久しぶりに納豆をタップリかけて、インスタント味噌汁と一緒にかきこんだ。食後のスティックカフェオレを飲んで食休みして、「ヨシッ!行くか!」と気合を入れてボススライム部屋へと向かうことにした。
大した距離ではないのに泥で汚したくないのでブーツをアイテム格納バッグに入れて、古墳の洞穴まで足早に移動し、青黒い石の回廊に入ったところでブーツを取り出して履き替えた。
ちなみに泥で少し汚れた靴はアイテム格納バッグに入れずに手で持っていくことにした。最初はそのまま出口付近の通路に置いておこうかと思ったが、ボスを攻略したら別の通路になって、この靴を回収出来ないかもしれないと思ったのだ。
そうしていつも通り5分程進み、とうとうかなり軽く感じるようになってしまった扉を開けて中の様子を確認すると、案の定20メートル四方の広さの部屋の中央に軽自動車並みの大きさのレッドスライムがしっかりどっしり佇んでいた。
私は「お邪魔しま~す」などと軽口をたたいて、槍を片手に汚れた靴を片手にいそいそと部屋の中へと入っていった。
角隅にアイテム格納バッグと汚れた靴を置いて、少し準備運動をしてから、マントを羽織ったままで私はレッドボススライムへと向かって行った。動きやすいようにフードは外し、前ボタンも首元を残して外した。フードを外しても結局フルフェイスヘルメットを被ったままなので、あまり意味はないかと考えたところで、そろそろもうフルフェイスヘルメットもヒジとヒザのプロテクターもしなくていいかなと思った。
5メートル程近づいたところで「情報」と念じてみた。さて、ボススライムの生命力は一体どれほどあるのだろうか。
-------------------
レッドスライム大(希少)
レベル:10
生命力:100
魔法力:100
持久力:100
攻撃力:10
防御力:100
素早さ:10
幸運度:0
魅力:0
魔法技能:10
異常耐性:0
【魔法】
火の玉小
火の壁小
-------------------
「何ィーーーッ!?」
思わず叫んでしまった。
なるほど生命力のみならず防御力も桁違いだ。そりゃあいくら攻撃しても効かないはずだ。そしてなにより一番最後の行だ。いよいよとうとう魔法攻撃ときた。それもお約束のファイヤーボールにファイヤーウォールじゃないか。
私は全てに合点がいって大いに頷いた。これでもう間違いなく確実に誰かの意図が作用していることが明らかになった。
一つ前の報酬がマントだったことといい、レッドスライムゼリーの効果が魔法力の回復であることといい、何か魔法に関することを匂わせる感じがしたが、なるほどここでそう来たかと思った。
となると今回の攻撃はまずは魔法が飛んでくることだろう。そして魔法が切れたら伸びる腕が飛んでくるといったところだろうか。
ともあれ、初めて見る攻撃魔法がどんなものなのか楽しみだし、マントの効力を試すのにも持ってこいだ、私は不思議と恐れるどころか楽しみな気分でレッドボススライムの前で槍を構えた。
ファイヤーボールは伸びる腕とは違って恐らくそのまま飛んでくるだろうから、バックステップは禁物でサイドステップで躱さないとダメだ。しかしマントの効果を試してみたいから受けてみたい気もする。
だが何はともあれ最初はどんなものかしっかり観察することが先決だ。まずはいつものようにステップインで対象察知圏内に素早く入ってからすぐに斜め後方にやや大き目にバックステップしてみることにした。
私は初手の攻撃は一切やらずにサッと素早く入って足が着くと同時にすぐにバックステップした。
一瞬の間があって「ボウンッ!」という音がするとバスケットボールよりも小さい、ハンドボールで使うような大きさの火球が美しい炎の軌跡残像を残しながら真っ直ぐ私の右横を通過していき、10メートル先の壁に激突して消滅した。
「ファイヤーボールスゲェーッ!」
自分を殺しにかかる攻撃なのに、私は感動感激して賞賛の声をあげた。
そして目の前上部にあるレッドボススライムのゲージを確認した。
-------------------
生命力:100
魔法力:100⇒99
持久力:100
-------------------
「おぉー燃費いいなぁ!」
またしても自分を殺しにかかっている相手を褒めるようなセリフが口から出た。
私はもう一度攻撃はせずに回避優先で同じ動きを繰り返し、レッドボススライムの魔法発動まで極僅かに間があることと、これなら槍を突き刺してからの回避も十分可能なことを確認した。
早速私は攻撃を繰り出すことにして槍を構えて、初手の一撃を加えることにした。果たしてどれくらいのダメージを与えることが出来るのだろうか。
「シッ!」
私はいつもより気持ち強めで初撃を加え、すぐに斜め後方にバックステップした。すると目の前に火の壁が出現した。
「ファイヤーウォールキタァーッ!」
またしても口に出して喜んでしまった。
レッドボススライムから4メートルの位置にちょうどボススライムが隠れる程の炎の壁が立ちはだかった。
まさに異世界、これぞ異世界、剣と魔法のファンタジー、といっても私は槍使いではあるが・・・




