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異世界小説家  作者: キクメン


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17:新しい槍

 いよいよ私は最初のイエロースライム部屋の報酬アイテムで手に入れた新しい本物の槍を試してみることにした。


 もちろんいきなりバランスボール大のイエロースライムに試すことなどはせず、まずはしっかりとこの新しい本物の槍の感触を確かめることにした。


 お粗末な作りではあるが今となっては愛着のある自作の槍とは異なり、この本物の槍は持ち構えた瞬間から明らかに別物だということが分かった。


 長さは自作の槍よりも少し長い3メートル程で、ステンレス製物干し竿よりも軽かった。強度がどの程度あるのかはまだ分からない。先端には何かの革で作られた丈夫な鞘がついており、少しきつめに密着している鞘をギュッと抜いてみると諸刃の美しい剣が現れた。長さは短剣よりも短いが30センチ程はあり、反対側の先端にはこぶし大の硬そうな球がついていた。


 そして何より両手で持ってしっかり構えた時のしっくりくる感じがまるで違った。私は槍使いなどという大層なスキルを持っているが、槍など習ったことがないのでクルクルと格好良く回転させることなどは出来ず、ただ前に突くだけと器用に操って薪割りが出来るくらいだ。


 そんな腕前の私だが、それでも一応槍使いっぽく素振りをしてみることにした。


 左手を前に右手を後ろに、左足を前に右足を後ろに、半身の構えの位置からグッと右足を踏み込んで左足を大きく前に出し、ダンッと左足を着地させると同時に足の力を背中へ、背中の力を両腕へと伝達し、身体ごと腕を伸ばして槍を突き出した。


 そこで驚くべきことが起きた。なんと槍が伸びたのだ。


 私は思わず「何ィッ!?」と声を上げてしまった。スライムが音に反応して近寄ってくるモンスターじゃなくて良かった。


 もう一度同じ動作を繰り返したところやはり間違いなく槍は伸びた。大体1メートルは伸びたんじゃないだろうか。


 私は槍の柄をまざまざと見て手で引っ張ったりしたのだが伸びることはなく何の仕掛けもなく手触りとしては完全に何かの金属としか思えなかった。高専に通っていた私はふと「形状記憶合金か?」とつぶやいた。


 ともあれ、これはちょっととんでもないものを手に入れたぞと嬉しい興奮状態になり、何度も素振りをしてニヤニヤしてしまった。いよいよ私も槍使いの道に踏み入れたのだろうか。


 何度も素振りしているうちに、少しサービスし過ぎじゃないかとすら思えてきた。どう考えてもバランスブレイカー並みの性能ではないか。これなら圧倒的優位な位置でいとも簡単にイエロースライムを倒せてしまうと思う。


 それを確かめるべくいよいよ私はバランスボール大のイエロースライムに対して新しい本物の槍の威力を確かめることにした。


 サイズが大きくなった分中心核も大きくなっているので今や手の延長と同じように槍を扱える私にとってはそれを狙うことなどいとも容易く、何ならイエロースライムが移動中だとしても当てられる自信がある。


 とはいえ、まだイエロースライムの耐久性が分からないので安全策でイエロースライムが動きを止めた時を狙うことにした。


 私は完全に安全圏内である4メートルの位置に立って槍を構えて待ち続け、イエロースライムが移動した直後を狙って変に力むことなくいつも通りの力加減で槍を突き出した。


 ごく軽くサクッという手応えを感じたと思ったら、ベチャリとすぐにスライムは潰れて消滅した。


「おいおいホントにバランスブレイカーだろこれ」


 あまりにもあっけなく倒してしまったので自分は嬉しいと感じるよりも呆れてしまった。


 どうしたものかと考えた挙句、私はいったん後ろに下がって、槍の先に鞘を被せて、今度は後端についている何かの金属製の球で攻撃することにした。


 やはりいきなり本番で試すのではなく、まずは素振りを開始したのだが、なんと反対側では槍は伸びなかった。これは予想外で、先に素振りをしていて良かったと思った。


 何度か素振りして間合いも確認したので、今度はイエロースライムと対峙することにした。


 安全圏内の4メートルよりもさらに近づき槍の長さよりもわずかに遠い距離で私は槍を構え、イエロースライムが移動するのを待ち続け、イエロースライムが移動した直後にすかさず中心核めがけて金属製の球を叩き込んだ。


 ブニュン!という鈍い手応えの後に槍は勢いよく弾き返されてしまい、私は思わず後ずさり無様に尻餅をついてしまった。恐らく中心核には届いていなかったように思えた。これが合戦場なら私は他の兵によって殺されているところだ。


 槍の穂先とこんなにも差があるのかと私は驚き、さらにイエロースライムの防御力にも驚いた。


 以前私はバランスボール程の大きさのブルースライムに対してステンレス製物干し竿のゴム製のカバーがついた方でひたすら2時間以上打突し続けて、疲労困憊(ひろうこんぱい)の末に撃破したが、このイエロースライム相手に対してそれをやろうとは到底思わなかった。これはひとえに武器と相手との相性もあるだろうと私は自分を納得させることにした。


 あっという間に倒してしまってはその後が退屈でしょうがないのだが、まぁ今日はお爺さんの面会にも行くことだし、私は開き直ってイエロースライムをまさしくサクッとすぐに倒した。


 足元に注目すると、やはり前よりも濃い黄色のスライムゼリーが出現し、手に持って鼻に近づけるとさらに濃厚なコーンスープのような実に良い香りがした。


 とりあえず私は戦利品のスライムゼリーと素晴らしい性能の槍に大満足して家へと戻った。まだ朝の7時前だった。


 家に戻ってからはこれまで短い間だったがとても世話になった愛用の槍を本来の正しい使用用途である物干し竿に戻すことにした。ところがかなりきつく短剣の柄をはめ込んでしまったためになかなか抜けず短剣の鍔に足をひっかけて何度も勢いをつけて力いっぱい引っぱってようやく引っこ抜くことが出来た。


 ともあれ無事にひん曲がることもなくほんの少しだけ片方の先端が切り落とされて両端ともゴムカバーのないステンレス製物干し竿は本来あるべき物干し台の上に戻った。


 同じく短剣も本来あるべき短剣の鞘に納まった。しかし恐らく出番はそうそうないだろう。


 その後せっかく物干し竿が復活したので、ここ数日使ってない布団を干すことにした。


 お爺さんの面会に行く時間までネットで槍について色々と調べて時間を潰し、幾つかの動画を参考に見よう見まねで自分なりに練習してみた。


 その後お爺さんの原付バイクでそれほど遠くない距離にある高齢者介護施設に行き、お爺さんに面会した。施設の人に大福とどら焼きを渡したところ大層喜ばれた。


 いつものように「若いのに偉いわねぇ」などと言われたが、実の所無職の身なので結構肩身が狭かったが、今日はそれに加えて「なんだか随分ガッシリしたみたいね、あと大分日に焼けて健康そうに見えるわ」と言われた。


 お爺さんにも同じようなことを言われ、前腕を触ってきて「おう随分鍛えとるのう」と目じりの皺を深くして嬉しそうに微笑んでくれた。


 私は最近庭の雑草処理や物置小屋の雑木林を綺麗にしていたことを話すと、より一層皺を深くして喜んでくれた。お爺さんは「気が向いたらでええから畑もやってみてくれ、ワシのノートに色々書き込んどる」と言い、私は真剣にそれもいいかもしれないと思って「うん、考えてみる」と答えると、お爺さんはウンウンと頷いてますます嬉しそうだった。


 私はそこで古墳の洞穴について何気なく話しをふってみた。


「おう、ワシも小さい頃中に入ってみたことがある、雪国のかまくらのようで面白かった」という答えが返ってきただけで、お爺さんの表情からもそれ以上は何もない雰囲気だった。


 そうして私は夕方になる前に面会を終えて帰宅した。

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