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異世界小説家  作者: キクメン


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107:イフリルの生い立ち

 魔法の町を一望出来るほどに勢い余って勢い余り過ぎて高らかに舞い上がってしまった私は、次に待ち受けるのが墜落死という恐怖に戦慄した。


 すぐに空中停止して自由落下へと切り替わり、このまま着陸出来なければ文字通り墜落死するので、パニックになりかけた。


「こっちだタダノ!」


 下からなんとか追いついてきたイフリルが手を伸ばしてきて、一方は落下、一方は上昇という正反対の相対速度と、一方は凄い魔法使いとはいえ女性なので果たして握力腕力で支えられるだろうかと思ったが、それでも私は差し出された腕を藁をも掴む思いで手を伸ばして掴んだ。


 イフリルは垂直降下と垂直上昇という相反するベクトルではなく、円運動によってうまく力を逃がしてターンし、水平運動へとベクトル変換した。


「全く驚いたぞタダノ、そこまで飛んだ奴は初めてだ!・・・うん?大分顔が青ざめてるぞタダノ、魔力切れか?」


「・・・いえ、それより着陸方法を教えて下さい」


「まぁまぁせっかく遠くまで飛んだんだ、このまま演習場まで飛行しようじゃないか」


 その後も生きた心地がせず青ざめたまま、火力演習場まで飛んでいき、なんとか死なずに着陸した。


「いやぁ~それにしても飛んだなぁ、まさかすっぽ抜けるとは思わなかった」


 この人まさか、最初の戦闘で負けた腹いせとかしてたりしてないだろうか・・・


「とりあえず飛ぶのは問題ないから、着陸を練習しよう、もう一度アタイと手を繋いでくれ」


「分かりました」


「今度はまず自分の背丈の半分くらいの高さまで飛ぶように火加減を調整するんだ、今度はしっかり掴んでるから安心しろ」


「背丈の半分・・・半分・・・これくらい?」


ポンッ!


 やはり先程の恐怖が少しだけ後を引きずっていたようでヒザ下ぐらいまでしか飛ばなかった。


「もう少し強くてもいいな」

「ですね」


ボンッ!


「よしいいぞ、それくらいだ、まずそれを安定して出せるようになるまで練習するんだ、自分で思った通りの火加減を自分の意思で出せるようにするのが次の段階だ」


「分かりました!」


 なんかようやくまともな指導になった気がする。ちゃんと人に教えることが出来る人なんだ、少し安心した。


 その後自分の腰の位置程度の高さを断続的に出せるようになると、イフリルが2メートル程の高さまで私を持ち上げそこから手を離すので、そしたら今の高度の火加減を出すように言われてやってみると、落下の力が上昇の力によって相殺されて、タッ!と地面に着地した。


「どうだ?膝とか足首に負担を感じたか?」


「いえ!ほとんど感じませんでした!」


「よし、これが着地の基礎だ、これを何度も繰り返して、慣れてきたら少しづつ高度を上げていこう」


「お願いします!」


 そうして何度も繰り返し、大分慣れてきたところで、私はイフリルの力を借りずに集会所の屋根まで飛行してから、屋根から飛び降りてソフトランディングが出来るようになるまでを繰り返した。


 自分一人で練習出来るようになったので、その間イフリルは私のために魔法力補給用エナジードリンクのエナルを買いに行ってくれた。


 いきなり初対面で殺し合おうとか言われた時は狼狽を通り越して絶望しかけたが、こうしてしっかり教えてくれる上にちゃんと魔法力を気遣ってくれる優しさもあるので大分見直した。


 それに応えるためにも彼女が戻ってくるまでに、しっかり練習して上達した姿を見せて喜ばせてあげようと思って、自分はしっかり何度も練習した。


 だが、イフリルは戻ってこなかった。


 魔法力がほぼゼロ近くになるまで練習したおかげで、集会所の屋根から飛び降りてもフワリと着陸することが出来るようになったのだが、既に夕暮れ時になっており猛烈に空腹に襲われたのと、イフリルが心配になったので、昼食を食べたマナ料理店まで行ってみることにした。


 昼前の建物爆発事件のこともあるので、イフリルの身に何か不慮の出来事が起きていなければよいがと心配になりながらあちこち見回して何か起きていないか確認しながらマナ料理店へと向かった。


 特に何事もなく、午前中に爆発のあった建物も少しだけ壁に焦げ跡がついていたが何事もなかったかのように元通りになっており、マナ料理店へと到着して中に入ってみると、大分大きな声で笑い合っているテーブルが目につき、ひときわ大きな声で笑っている中心人物を見たところイフリルだった。


 ホッとしたのも束の間、相当出来上がっているような様子で飲んだくれており、先ほどまでの心配や見直したところが一気に吹き飛んでいった。


「おおタダノ!スマンスマン!お前さんもこっちに来て飲め!」


 やっぱりダメだ、この人。


 その後腹ペコでお腹がグーグー鳴り続ける私を見て大笑いし、人の料理に手を出し、人の酒に手を出し、人が飯を食っているのに何か面白い話しをしろと言いだし、食べる合い間に話をしていると、話を遮ってお前も飲めとか言いだす始末で、私の評価はダダ下がりの一方だった。そして挙句の果てには机に突っ伏して豪快ないびきをかいて寝始めた。


 ちなみに最初はエナルを買いに来ただけのようだったが、午前中に爆発事故を起こし、ほぼ瀕死の重傷だった三人がいたので何をしていたのか聞いところ、実験内容にイフリルが興味をもったらしく、つい熱く語り始めて酒が入ってこうなったとのことだった。


 その後爆発で吹き飛ばされたことのお詫びとして飲食代をご馳走になり、店の人にイフリルの家を教えてもらって、イフリルを背負って歩いた。


 私は今は力が相当あるので重さはまったく気にならないがリュックを胸の前にして槍を持ちながらなので非常に歩きにくかった。


 イフリルは大魔法協会が管理する宿舎に下宿しており、玄関に入るとすぐに管理人らしき中年の女性がやってきて「あらあら、すいませんねぇ」と言ってきた。


 管理人の後についてき、イフリルの部屋へと行くと案の定不用心なことに鍵はかけていないようでそのまま扉を開けて中へ入っていった。


 意外に部屋の中は綺麗で、というよりほとんど何もなく、中年女性と一緒にローブやブーツを脱がしてベッドに寝かした。


「あなたは冒険者タダノさんですか?」


「はい、そうです」


「そうですか、どうか気を悪くしないで下さいね、イフリルはタダノさんに会えることをとても喜んでいたんです、だからつい嬉しくなりすぎちゃったんですよ」


「そうなんですね」


 その後管理人室にてお茶をご馳走になり、イフリルの簡単な生い立ちを聞いた。


 イフリルは数代前の名人の家系の間に生まれた子供で、両親はイフリルがまだ小さい頃に魔石の採掘の際に事故死したとのことだった。


 その後ハルケンロルグがイフリルの才能に気付いて、火魔法での最後の弟子として育てたそうだ。小さい頃から当時の名人候補だったハルケンロルグが直接指導する程の才能だったので、イフリルはどんどん力を付けていき、やがてハルケンロルグを凌ぐほどの火魔法の使い手になった。


 基本的に面倒見が良く優しい面もあるのだが、やはり火の魔法を使う者の特徴として、燃えるような激しい部分を持ち合わせており、カッとなって人を傷つけることはなかったが、弟子入りや告白してきた男達との腕試しでは結構容赦がなく、それなりに怪我人が多発した時期があったそうだ。


 そんな中最近魔法の町でもウワサを耳にする冒険者でハルケンロルグが推薦する程の人物がやってくるということで久しぶりに教え甲斐のある人に会えることを大いに喜んでいたとのことだった。


 こうして管理人からイフリルの簡単なあらましを聞いた私は教わる側の人間なのに管理人から「イフリルをよろしくお願いしますね、根はとても優しい良い子なんですよ」と言われて宿舎を後にした。


 なんとも大分激しい1日だった。

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