106:靴屋
魔法の町にある魔法力を回復するという美味しいマナ料理を出す店にて、私はその美味しさと効果を存分に体験していた。
心地良い汗をかきながら完食すると、味も量も魔法力の回復効果も実に素晴らしいと十分に満足いくものだった。
するとどんどん客が入って来て混み始めたので、店を出ることにした。イフリルはそのまま出て行こうとするので「勘定は?」と聞いた所「財布を持って来ていないからツケにしといてもらう」と、何を言ってるんだこの人は?と我が耳を疑うようなことを言ったので慌てて自分が払うことにした。
二人分で1400デンだったが、あの内容でこの値段はかなり良心的だと思った。この店もリピート確定だ。
「なんだタダノ、お前さんが払ったのか?払わなくてもツケでいいのに」
「えっ、いや・・・その、授業料・・・にはならないですかね?」
「ハッハッハ!それは協会からもらってるからいいんだよ、でもま、ご馳走になっておく」
それからイフリルに連れられて靴屋へと行った。そういえば始まりの町では防具屋で靴を買ったからこの世界での靴屋は初めてだ。
「いらっしゃいませイフリルさん」
「おう、昼時に悪いな」
「いえいえ、まだちょっと昼には早いので問題ないですよ、今日は靴底ですか?」
「ああ、そろそろ替えとこうと思ってな、それとタダノの靴も見てくれ、火の飛行魔法を教えているから靴底をアタイと同じものにしてくれ」
「タダノさん・・・ですか、見たところ冒険者の方とお見受けしますが、魔法使いなのですね」
「ああ、タダノは強いぞ、あのワイバルンやロックゴレムを一人で倒したし、アタイも今日一本取られたぞ」
「えっ!イフリルさんがですか!?」
「ああ、爺さんと戦った時以来だ」
「なるほど、始まりの町との交易が再開したと聞きましたが、あのワイバルンやロックゴレムを倒したのはその方でしたのね」
「初めまして、多田野 仁と申します、この町には魔法の留学のために来ました、これからよろしくお願いします」
「まぁこれはご丁寧に有難う御座います、靴屋を営んでおりますアマルトと申します」
アマルトと名乗った中年女性は椅子を持ってきたので、それに腰かけてブーツを渡した。
「おや、面白いものが縫い付けられていますわね、これは魔法石ですか?」
「はい、足が速くなる移動の魔法が込められた魔法石が埋められています、ザラの足という名前です」
「あら、ザラの足ですのね、なるほどこれは面白いアイディアですね、そういえば最近早ルマの足というのが開発されたようですのよ」
「えっ、そんなのがあるんですか?」
「ええ、良質な黒水晶が入ってきたおかげで、風魔法使いの方がさらに威力を強めた移動魔法を封じることに成功したそうで、早ルマの足と名付けたそうです」
「へぇブーツに縫い付けているのか、これもある意味発明だな、アタイも付けたいところだが、この形はちょっとなぁ・・・もう少し目立たなく出来ればいいのだが」
すると奥の部屋から中年男性と年老いた男性が出てきた。
「おやイフリルさんいらっしゃい」
「おうイフリルか、ソールの交換に来たかね」
「おう爺さん、元気か」
「おかげさんで元気だ」
「ところでその冒険者は誰だね」
「こいつはタダノだ、アタイが魔法を教えることになった」
「えっ!イフリルさんが教えるんですか!?」
「ああ、タダノは強いぞ、アタイが一本取られたくらいだからな」
「あっ!あのワイバルンを倒したとかいう冒険者がこの方なんですか!?」
「ああ、ロックゴレムも一人で倒して、傷一つ付いていない魔法宝石を持ってきたのもタダノだ」
こうしてまた同じ説明をした後で、ブーツを見てもらい、またしてもザラの足について同じ説明をした後で、靴底を取り替えてもらった。どうやら家族経営をしているようで、職人は旦那さんとお爺さんと、他に職人が数人いるとのことだった。
私のブーツや革靴もイフリルのブーツも現実世界で言うところのグッドイヤーウェルト式製法で作られているので、縫い糸をほどけば靴底を交換することが出来るため、交換にはそれほど時間がかからなかった。
「タダノさんのブーツには大分良い革が使われていますね、これは結構したでしょう」
「はい、防具屋さんで一番良いものを出してもらいました」
「そうでしたか、それに職人の腕もかなりのものです、なかなかここまでのものを作れる職人はいないですよ」
私は靴に関する専門知識はないので、なんとなく作りが良くてとても高級そうだくらいにしか思っていなかったのだが、やはり専門家から見ても相当良いものだったようで嬉しくなった。
せっかくなのでソール交換の作業を見て行くということで私は一緒に奥の作業場へと行き、イフリルは残って店の番をしている妻と一緒にお茶を飲んで世間話をした。
1時間もかからず交換は終了し、幾らですかと聞いた所5千デンでイフリルの分も同じ値段だったので、二足分支払った。私的には相当安いと感じた。
「アタイの分まで払うのか?ツケときゃいいのにタダノは金持ちだなぁ」
この人は何を言っているんだ?いつの人だ?昔の時代に生まれた飲んだくれか?やはりダメな人だ。
「えぇと、イフリルさんはいつもこんな感じですか?」
少し小声で店の番をしている中年女性に聞いた。
「ええ、いつもツケです、商売で大魔法協会にはちょくちょく行くので月末に請求しています」
「ああ、アタイは財布を持ち歩かないからな、払いは全部協会に任せている」
「・・・そうですか」
この人は他の町では生きていけないな、いや、ゴリ押しで他の町でも協会に請求してくれとか言いそうだ。
それはさておきソールが新しくしかも結構丈夫そうなものに変わったので早速情報で確認してみた。
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ブーツ(希少)
防御力:3
素早さ:5
耐久性:5
損耗率:0%
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わっ!耐久性が一つ上昇している!やった!
「なんだタダノ、嬉しそうだな」
「はい、前よりも丈夫になって嬉しいです」
「ホウ、さすが冒険者さんだ、分かるかね」
「はい!有難う御座います!」
「靴底以外でも気になるところがあれば、いつでも来ておくれ、大抵のことは出来る」
「はいそうします、有難う御座いました」
そうして私達は靴屋を後にした。
「タダノは礼儀正しい奴だな、とても凄腕冒険者のようには見えないな」
「えっと・・・私が生まれ育った村では礼儀とか思いやりとかが大事にされてきました」
まぁそもそも普通の一般市民ですから。
「そういや、東方出身の人間は大抵そうだとか聞いたような気がする」
ううむ、やはり私と同じように異世界に来ている日本人はいるのかもしれない。
「さて、飯も食ったし、靴底も取り替えてもらったことだし、練習を再開するか」
「そうですね、お願いします」
「よし、じゃあ手本を見せてやる、いや、足だから足本か?アハハハ!タダノ両手を繋いでくれ」
イフリルと向かい合って両手をつないだ。
「それじゃ行くぞ、タダノもいけるようだったら火の玉を出してみてくれ」
「分かりました」
どうやらこのまま二人でランデブー飛行をするようだ。
「先にも言ったがぶっ飛ばすだけなら初級魔法使いでも出来る、この魔法で一番大事なのはまず死なずに着陸することと、ちゃんと行きたい方向に行けることなんだ、高度とか速度は二の次だ、それじゃあ行くぞ、今回はアタイがしっかり誘導するから、思いっきりぶっ飛ばしてみてもいいぞ」
「思いっきりですか?」
「ああ、アタイが掴んでるからぶっ飛ばしても明後日の方向に行かないようにするし、着陸はアタイがいるから大丈夫だ」
「分かりました、靴底も取り替えたことですし、思いっきりやります!」
「おう!いつでもこい!」
「行きます!」
ゴォウッ!
「うわっ!やった!やりましたよ!スゴイ!ほら町があんなに小さ・・・あっ・・・」
目の前にいたはずのイフリルはいなかった。速過ぎて掴んでいた手がすっぽ抜けたようだった。墜落死という言葉が脳裏をよぎった。




