103:挨拶代りの殺し合い
魔法の町の火の魔法使い達がいる区画にある集会所の玄関にて、なるべく穏便に事を済ませようと必死に言動には注意しようと思っていた私に対して、出会ったばかりの火の魔法使いイフリルは私と殺し合おうと言ってきた。
「ヤレヤレ・・・まったくお前さんときたら、相変わらずだのう・・・」
「そうですわ、タダノさんが呆れておりますわよ」
いえ、困惑の極みです。出来れば助けていただきたいのですが・・・
「そうか?そっちはヤルキマンマンの恰好だぜ?」
すいませんでした、今すぐ脱ぎますから殺し合いはやめましょう、殺し合いは・・・
「タダノは冒険者だ、遠い東の出身で魔法についての知識がない故にこのような恰好をしておる」
「だからこそ闘ってみるのが本人にとっても一番分かりやすいだろうとアタイなりに考えたんだがね」
「仕方がない、そういうのならやってみるがよい」
「そうですわね、やはり私達が来て正解でした」
いや、そこは止めて下さいよ!アンタ会長さんでしょう!ウェイルーさんまで肯定しないで!
「火力演習場ならいくら暴れても大丈夫だ、そこでやろう、ついてこい」
「えっと・・・これってもう闘わないとダメな状況です?」
「ウム、すまんのうタダノ」
「私達がおりますので、大事には至らぬよう努めます」
私は少し顔を背けて思いっきり目を閉じかなり苦虫を噛み潰したような顔をした。どうしてこうなった・・・
これから処刑場に向かうかのような足取りで、私は魔法使いの人達の後をガックリしながらついて行った。
程なくして周りを分厚い壁に覆われた屋根のない闘技場のような場所が見えてきて、入り口から中に入るとかなり広い平らな円形闘技場に到着した。
「どうした、ホラ、来いよ、そこにいたら爺さん達が危ないだろう」
危ないのはアンタでしょう!・・・と、言いたいところだが、言えずに「ハイ」と今にも消えそうな声で闘技場の真ん中へと進んでいった。
「まぁそう心配すんなって、死んでも爺さんがいるから治してくれるって、それにウェイルーもいるから焼け死んでも水をぶっかけてくれるって」
「そうですか」
そうですかじゃない!そういう問題じゃない!
「おいどうした?槍の鞘は抜かないのか?」
「人を刺すのは嫌なのでこっちでやります、それでも骨が砕け散るので嫌なんですが・・・」
どうにも闘いが避けられない状況なので、やむを得ず自分は石突の方を上にした。それからリュックの中からヘルメットを取り出して被った。
「準備はいいかい?」
「あっ、リュックを置いてきてもいいですか?」
「いいとも」
そうしてハルケンロルグ達のいる所にリュックを持っていって地面に置き、闘技場の中央に戻った。
「準備はいいか?」
「・・・いつでもどうぞ」
いいわけないでしょ!
「ようし、まずアタイは挨拶代わりに火の玉をぶっ飛ばす、その一発でおしまいってのだけは勘弁してくれよ」
「分かりました」
私の方こそ勘弁なんですが。
「んじゃ行くぞ」
ボウッ!
すぐに自分の背丈よりも大きなファイヤーボールが凄い速度で飛んできた。レッドボススライムのファイヤーボールよりも大きくて速い。死にそう。
自分はすかさず横にステップ移動したが、イフリルの姿は前方にはなく、上空にもおらず、どこだと思った瞬間、なんとイフリルは自分が放った大きなファイヤーボールの後ろにいて自分のすぐ近くに接近していた。
気付いたのと同時に二発目のファイヤーボールが至近距離から発射され「うわぁっ!」と声を上げる間もなく被弾する直前に自分もすかさずファイヤーボールを発射してぶつけた。
ボウンッ!!
大きさはイフリルの方が何倍も大きいが、私のファイヤーボールの方が貫通した。
しかしまたもやイフリルの姿はどこにもなく、ハッと影に気づいたときには三発目のファイヤーボールが頭上から発射された。
私はダメ元で前方にダイブした。「熱ッ!」という感覚があったが無視して前方にダイブした後、着地と同時にさらに脱兎のごとく動きを止めることなく逃げ出し、反転することなく円を描いて動き続けた。
後方ではボウン!ボウン!と地面に爆弾が着弾しているかのような音が聞こえ、動き続けて正解だったこと、すぐに反転しなくて正解だったことを確認し、このままではすぐに未来予測攻撃で被弾するだろうし、かといって止まったり逆方向に移動しようものならその瞬間で被弾しそうだと思ったので、ベルトに手をやり投げナイフを当てずっぽうに投擲してけん制した。
その瞬間にようやくそちらの方向に目を向けて対象を確認すると、空中でナイフを避けているのが見えたので、すかさずファイヤーボールを発射し、自分もファイヤーボールの後を追いかけて走って助走をつけてジャンプして、ファイヤーボールの後ろからイフリルに接近した。
イフリルはジェットの炎を発射して横に避けて移動したが自分は身体をねじってさらにファイヤーボールを発射して、さらにその左横に石突を前にして槍を投擲した。
一か八かの賭けにも近い攻撃だったが、ゴツッ!とイフリルの左肩に命中し、イフリルは左に回転したがその回転を利用して右手を前方に突き出してファイヤーボールを発射してきた。
運良く落下していたので全身にファイヤーボールを浴びることはなかったが頭頂部を掠めて熱風がヘルメットの中に入ってきてさすがに「熱ッ!」と叫んだ。地面に激突してヘルメットを脱ぎ捨てると同時に水をぶっかけられた。
イフリルの方を見るとハルケンロルグがやってきていて左肩に回復魔法をかけていた。顔面に当たっていなくて本当に良かったと安堵した。
ゆっくり近づいていくとハルケンロルグがこちらにもやってきて、軽く火傷をしているようだと言って私にも回復魔法をかけてくれた。アフロヘアーになっていなければよいが・・・
ウェイルーが槍を拾って持って来てくれたので、感謝を述べつつ受け取った。
「やるなぁお前!タダノ!三発目を避けられたのはお前が初めてだし、アタイが攻撃を食らったのは爺さんに引導を渡した時依頼だぜ!」
「全くだ、お前さんのおかげでやりたくもない会長なんぞに追いやられてしまった」
「ハッハッハッ!仕方ないだろう、戦闘火魔法に関して言えばこっちの方が上だったんだからよ」
「今の時代、戦闘魔法なんぞ磨いて何になる、強さを誇る時代はもう終わったのだ」
「だが、魔法は強さを求めてナンボだろ?とりわけ火魔法は他と違って特にそうだ、殺し合いでこそ火魔法はより強くなるんだ」
「戦い以外でも魔法を強くする方法はあるでしょうに」
「しょうがねぇだろ、それがアタイや歴代の火の名人達の性分なんだからよ」
「例外もいるでしょう、生涯戦いを好まなかった第四代名人のフレイミルグ様とか」
「いや、アタイが聞いた話しではフレイミルグ名人も若い時は北方の魔族国境線で相当な数の魔族人類を燃やし殺したって聞いたぜ」
この人達はいつまで物騒な話をし続けるんだろうか。よければ私はもう寄宿舎に帰って、明日からは平和に回復魔法を学びたい・・・いや、もういっそのこと始まりの町に帰りたいんですが。
「おっと、すまねぇなタダノ、お前さんいいな!気に入った!合格だ!技はまだまだだが、魔法力はかなり練られているようだ、さすが冒険者として斬った貼ったの修羅場をくぐり抜けてきただけのことはあるな」
「いやぁ、ハハハ、そうですか・・・」
いえ、不合格でいいです、もう帰っていいでしょうか?
「どうかね?もうワシらは戻っても大丈夫かね?」
「ああ、大丈夫だ、すまねぇな、世話をかけた、もう今日の所は殺し合いはナシだ」
何故「今日の所は」とか言うかなこの人は。この人はかなりダメな人だ。もうヤだ。帰りたい。助けてポルル。
「まったく・・・いいですか、こういう事をする場合は事前に伝書鳥を寄こしてくださいよ、タダノさんに何かあったら、今後始まりの町との交易に支障が出るんですからね」
「分かった分かった、ホラ、もう行ってくれ、授業の邪魔だ」
「タダノさん、何かあったらすぐに私共に言ってくださいね」
「ハ、ハァ・・・」
今すぐにでも始まりの町に帰らせていただきますと言いたいところだった・・・




