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音楽室のアイドル系幽霊 

 学校の七不思議のひとつにあげられるのが、音楽室の怪だ。

 7つ全部言える人ってなかなかいないのが七不思議だったりする。そして、意外と学校によって7つの内容が違ったりする。

 夜中に誰もいないのにピアノの音が鳴り響くとか、肖像画の眼が動くとかいう話を聞いたことはある。誰も夜中の学校に行ったこともないのに、よくこんなに全国にメジャーになったものだと思う。それはきっと人間の恐怖心が生み出したものなのかもしれない。動かないはずのものが動くという恐怖的な想像から生まれているのだろう。


 あんなにたくさんの小学校、中学校、高校があって、すべてにあやかしがいたら、相当の数ではないだろうか。


 でも、私の中学校「矢樫中学校」には特別あやかしの類が多いらしい。これは、相談所のリーダーとなった妖牙くんも城山先生も言っていた。


 妖牙君はパソコンに詳しい。

 発足後、早速、あやかし相談所のホームページをたちあげ、相談をメールで受け取ることができるシステムを作った。書き込み用の掲示板も作成した。


 さっそく書き込みがあった。

「矢樫中学校の音楽室からピアノの音が聞こえます。誰もいないはずなのに……」


 書き込みの主は特定できなかった。

 個人情報を重視して、匿名でも書き込みができるということもウリの一つだ。そのあたりが、さすが、妖牙君だなぁなんて感心してしまう。


 放課後「音楽室に行くか?」と誘われた。

 最近、一人ぼっちだった妖牙君が私と話していることが多く、ちょっと嬉しい誤解を招くかもしれない。そんなことを思ってしまう。

 そして、彼の肩の上にはモフモフがいて、見ているだけで癒される。

 私の肩にもモフモフがいる。なんだか同じでくすぐったい。


「でも、夜中にしか現れないという可能性もあるよね」

「それは、幻想だよ。昼からあやかしはいる。俺たちには霊感がある。だから、昼でも見えるし、聞こえるんだよ」

「霊感がない人は、夜にしか聞こえないけれど、見えないから怖いってことですよ」モフモフが説明した。


「そうか、見えないけれど聞こえるから怖いのか。しかも夜にしか普通の人には聞こえない」

 それが学校の怪談の原点に違いないと思った。


「夜は一般人でも霊力が高まるんだ。暗闇の力なのかもしれないな」

「やっぱり、詳しいよね。妖牙君」

「妖牙家はみんなこの程度の霊力がありますからね」モフスケが説明する。

「さて、音楽室のあやかしよ、出てこい」


 妖牙君は怖いもの知らずだ。

 体は細いし、一見強そうには見えないが、態度は大きい。

 簡単に言うと、自分に自信があり実力があるのだろう。


「来てくれたのですか?」

 若い女性の声がした。


「来てやったよ」

 妖牙君は相変わらず偉そうな態度である。


 すっと目の前に現れたのは、中学生くらいの女の子だ。一瞬、空気が冷えた。温度が下がったような気がする。


 かわいい顔立ちで、背は低いが、アイドル顔だった。うちの中学校の制服を着ている。まさか、普通の生徒じゃないよね?  足はちゃんとあることを確認する。


「ここの地縛霊ってやつか」

「はい。私、ピアノを弾くことが大好きだったのですが、うちは貧乏で習うこともできませんでした。だから、死んだ後もここで弾かせていただいていますわ」

「死んだ原因は、病気っていうパターンか?」

「そうです。幽霊あるあるですわね」

「そういえば何年か前にそのような話がうわさになっていたな」


 妖牙君って冷静だ。こんな悲しい話を聞いたら涙が出るものじゃない?


「そんな悲しい過去があったのですか」

 私は涙を流しながらアイドル系幽霊に話しかけた。


「おまえ、泣いているのか?」

 妖牙君はびっくりした顔で私の顔をのぞき込んだ。


「だって、悲しいじゃない」

 涙が瞳からあふれる私。結構泣き上戸なのだ。


「私は優菜と申しますわ。愛情に飢えていました。しかし、妖牙タイジ君、あなたはいつも私に優しく接してくれていました」

「優しく接した覚えはないけどな」

「すれ違ったときにぶつかりそうになって、謝ってくれましたわ」

「普通の生徒だと思って……俺は幽霊の姿も見えるからな」

「優しくってそれだけ?」

 私の目は点になった。


「いえ、私が音楽室に一人でいると、次は体育の時間だよって話しかけてくれたのです」

「だから、俺、クラスメイトの顔を覚えていなくて、同じクラスの生徒だと思っただけだって」

「それだけ?」

 私の涙は止まっていた。どうもこの霊は、思い込みがすごい。


「私、タイジ君のことが大好きですわ。一緒に居させてくださいませ」

「無理」

 即効断る妖牙君。まさに鬼だ。同情などひとかけらもないようだ。

 なんとなく、自分がこの人に告白をしても同じ答えが返ってきたような気がした。だから、告白しなくてよかったと思えた。やっぱり傷つくのは嫌だから。


 でも、この優菜っていう霊は食い下がらない。

「でも、とっても大好きなのですわ。顔も性格も」


「性格? こんな冷たい男の性格が好きなの?」

 つい本音を言ってしまった。

 自分がこんなに好きな人に、冷たくあしらわれたらたまったものではない。


「おい、軽く俺をけなしたよな」

 妖牙君が私をにらむ。


 優菜はそれを気にも留めず

「はい、幽霊にはほんとうのやさしさがみえますから。タイジ君は優しいのです」

「いきなりタイジ君よびかよ」


 たしかに、私ですら、名字呼びなのに、下の名前呼びとは、勇気のある霊である。


「除霊したほうがいいのかな?」

 強力な恋のライバルが登場したので同情したことも忘れて、妖牙君に聞いてみた。


「俺は、基本人間に危害を加えない限りは自然に成仏してもらうって考えだ。だから、除霊はしないが……もし、しつこくつきまとったら除霊するぞ」

「またまた、心にもないことをおっしゃいますわね」

「ホームページの掲示板に書き込みしたのはお前か?」

「はい、あなたに会いに来てほしくて」

 妖牙君はため息をついた。


「おまえも、あやかし相談所の一員になるか? この世で何かを成し遂げて、満足したら自然に成仏できるんじゃないかと思って」

「誘ってくれるのね、うれしいですわ」

 あくまで前向きな優菜。


「成仏のためだ」

「タイジくんって優しいのですわね」


 ラブラブモードに入ろうとする優菜を横目に、自分がいかに素直ではないのかが悔しくなってしまう。自分もあのくらい積極的に自分の気持ちを伝えられたらいいのに。


 そして、一人また相談所のメンバーが増えた。ピアノが好きなアイドル系幽霊の優菜だ。

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