レイカとタイジ
今日は珍しく二人だけで待ち合わせ。デートみたいだけれど、デートに誘われたわけではないのが残念なところ。
学校の階段にいるという妖怪をおびき寄せるためにあえて、人の少ない土曜日を狙って登校した。男女二人が仲睦まじく歩いていると出てくるという階段の妖怪は嫌がらせをしてくるらしい。実際、学校内で付き合っているという若い先生カップルが襲われたという話をひかり先生が言っていた。ひかり先生に夜神先生と二人で歩いていたらおびき寄せられるんじゃないかと提案したけれど、夜神先生にはこの話は秘密にしろと言われてしまう。その代わり妖怪カウンセリングを私たちにお願いしたいという話だった。
私とタイジが歩いていたら、カップルのように見えるのだろうか? まずそこが疑問だが、今の札の持ち主が一番札を使うことができるのでお願いしたいという話だった。
まず私たちは仲睦まじいというほどの近い距離ではないし、どこかよそよそしい。これでは妖怪は出てこないかもしれない。
「もう少し近づいて歩かない? そうしないと仲睦まじくは見えないと思うの」
「たしかに、そうかもな」
少し肩が近づくけれど、会話が途切れる。普段より、仲が悪く見えそうじゃない? ぎこちない私たちの距離は縮まらない。
「あのさ、夜神先生ってひかり先生のことどう思っているんだろうね?」
私がとりあえず何か話題を切り出す。身近な恋愛ネタをとりあえず口にする。こういったときはなかなか気が利いた話題は思いつかない。
「わからないなぁ。きっと感謝とかそういった気持ちはあるんじゃないのか?」
たしかに、夜神先生の心は読みにくいし、ケガの治療や古書で調べてもらった感謝はあると思う。
「それ以上の感情という意味だよ」
「うーん。夜神って御年何百歳とかだろ。そもそも恋愛感情があるのかどうかもわからないよな」
「たしかに、見た目が若いけれど、仙人みたいな感じだったらこんな話題にもならないのかも。でも、ひかり先生は夜神先生に対して特別な感情を持っている気がする」
「そうか?」
恋愛音痴のタイジにはそういう気持ちを読む力がかけている。
私たちは襲われやすいといわれる屋上に上がる階段あたりに座りこんで様子を見る。でも、何も感じない。
「もう少し距離を縮めて話そうか」
恥ずかしいけれど、妖怪をおびき寄せるために肩と肩が触れ合うあたりに位置する。でも、会話が何も出てこないし、これじゃ仲がよさそうに見えないよね。
少し沈黙が続くと、妖気を感じる。
「何か、近づいてきているな」
戦闘モードのタイジは頼れる男の子だ。
「うらやましいかな。うらやましいかな」
突如現れた妖怪は若い女性の妖怪のようだ。
「幽霊かな」
「きっと幽霊が現代妖怪になったタイプだろう」
「幽霊から進化ってするの?」
「彼女はうらやましくて仕方がない怨念に満ち溢れているな。生前、恋に恋しているまま成仏できずってところか。現代妖怪としてこの世界に残る者が増えているらしいからな」
「タイジって妖怪が絡むと途端に恋愛にも敏感なコメントするのね。普段は恋愛音痴なのに」
「恋愛ってよくわかんないからさ」
「お前たちは付き合っているのか?」
髪の長い妖怪が羨ましそうに聞いてくる。
「現代妖怪なのか?」
タイジは確認する。
「我は現代妖怪浦山しいだ」
「うらやましいって名前なのかよ」
「生前の名前が浦山っていう名字だったのだが、死んでからはうらやましいという言葉を発するようになってな。そのまま名前にしてしまったのだ。命名権は名乗ったもの勝ちだからな」
「実にシンプルでわかりやすいな。お前は恋愛というものに憧れているのか?」
「憧れている。我は少女漫画を読むのが好きであこがれていたのだが、恋をする前に死んでしまったのだ」
「好きな人はいないの?」
「片思いすら経験することなく死んだのだ」
「それは残念ね」
「じゃあ、俺たちあやかし相談所がマッチングしてやろうか」
「婚活みたいに、いい霊を探してあげるってことね。そのかわり、いたずらして襲ったりすることはやめてよ」
「我は襲うような真似はしない。羨ましいといいながら、現れるだけで人は驚いてしまう。他に何もしていない」
「まぁ、たしかに人間は写真や動画に人ならぬものが写っただけで騒ぐからな」
「あやかしを見ると、私たちは敏感になるのかもしれないね」
「じゃあ、あやかし相談所に何かあったら来い。とりあえずいい男の妖怪を探してやる」
「本当? でも、我の理想は高いのよね」
「まぁ、気長に探そうか」
今回はお札で消滅させることもなく、カウンセリングで解決した。そういった案件は珍しい。そして、用事が終わり、帰るだけとなった。
「今日は解決が思った以上に早かったよね。悪い妖怪じゃなかったし」
「悪い妖怪ばかりじゃないんだよな。せっかく学校に来たのに、帰るっていうのも手持無沙汰な感じだな」
「じゃあ、これから街中へ行ってみない? タイジと行ってみたいと思っていた場所があるんだ。夕方になると夜景がとってもきれいなビルがあるの」
「そこに妖怪でもいるってことか?」
「違うよ。ただ、一緒に行ってみたいと思って」
「まぁ、どうせ暇だしな。行ってみるか」
こんな土曜の午後も悪くない。モフモフたちは気を使ったのか、いつのまにかいなくなっている。私たちは一緒に歩き出す。いつまで一緒に歩けるのかもわからないけれど、あとから思い出すと、きっと一緒にいたということを思い出せるだろう。あの時、楽しかったと思える時間を作って共有できたらうれしいな。