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夜神先生の事情

 最近、ちょくちょくケガをした夜神が保健室で手当てに来ることが増えた。

 自分で傷の手当てをするために来ているらしい。ここには消毒液や包帯などがたくさんあるので、まるで自分の部屋のように勝手に使っている。今日も夜神は腕にかすり傷を負っていた。


 妖怪と事情があって戦っているらしく、比較的軽傷だ。しかも、彼の回復力はとんでもなく早い。この回復の秘密を人間に応用したいと考えるのは養護教諭のひかりだった。


 ひかりの実家は病院を経営していて、兄は大学で医学を研究している。回復の秘密を応用できれば、きっと人類の役に立つだろう。闇の神を利用したいと思っていた。


 しかし、夜神という男は元は人体模型のジンをしもべにしているが、それ以外の人間とは距離を置いている。他の教員ともあまり仲良くなろうとはしないし、生徒とも距離がある。保健室の常連となっているが彼の目的がいまいちつかめない。


「光と影の交差する場所について、うちに古い文献がたくさんあるから、見たいなら見に来なさいよ」

 思わぬ誘いに、夜神が少し驚いた顔をした。彼はあまり表情を変えない。心を読まれることを嫌っているのかもしれない。


「人間界と妖魔界がつながったら困るだろう? そんなことを手伝う気なのか?」

「あなた、何年前からこの世界にいるの?」


 少し黙った夜神だったのだが――

「1年くらい前かな」

 ぼそっとした声で答えた。


「黙っていても仕方ないから話すが――僕は1年ほど前に人間界に追放されたんだ。神々とうまくいかずに、あいつらにはめられた。奴らが勝手に人間界への穴を一時的に作ったらしい。僕はそこから人間界に来た。しかし、穴はふさがれ、戻れなくなった。僕は故郷に戻りたい。だから、妖怪から妖力を死なない程度にもらって、ある程度たまったら人間界と妖魔界に穴をあけて戻るつもりだ」


「その穴っていうのは相当強力な妖力がたまらないとあけられないんじゃないの? ずっと二つの世界がつながるほどの妖気はここでは集められないでしょうね」


「そのために数々の妖怪から妖力を集めて、このネックレスに封印している。しかし、奴らから逆恨みされたり、妖力をもらおうとすると返り討ちにあったりしてケガばかりだ。人間界に長くいることによって、僕の妖力が落ちているのかもしれない」


「闇の神様なんでしょ。だからジンのことも人間に見えるようにできたんだし。ただ戻りたいだけなら協力するよ。人間界に悪い影響がないのだから。でも、妖魔界に戻って、あなたは幸せなのかな?」 


 その言葉に夜神は黙って下を向いたままだった。


「私の先祖の太陽の神は人間と結婚して混血人間を作ったけど、人間界で生きるというのも幸せなのかもしれないよ。先祖はもう死んでいないから、太陽の神に聞くことはできないけれど。うちに残された古い書物から調べれば、何かわかるかもしれない」

「古書を読ませてほしい、太陽の神の子孫」

「ひかりって呼んでよ、そんな長い呼び方は慣れないし」


 ひかりはサバサバした性格だから、どんな相手にもひるまない。

 協力者として、監視する目的もあったのだが。


「僕のそばは危険だ。ジンにボディーガードさせて、貴様のうちにむかう」

「貴様じゃなくて、ひかりですけど」

 腕組みしたひかり先生は勇ましく、りりしい顔をしていた。怖いものは何もないかのようだ。


「……ひかり」

「よろしい、夜神、そろそろ定時だからあがろうか」

「俺らも協力するけど」

 保健室に現れたのは、タイジとレイカとジンだった。

 ジンのかすり傷は絶えず、腕のあちこちに傷のあとがあった。


「私たちも微力ながら協力しますよ」

 モフスケとモフミも肩に乗っている。


「最近ケガの多いジンに聞いたのよ、夜神先生の事情っていうのを」

「お前ら……」

 夜神がさらに驚いた顔をした。


「事情があるなら仕方ないって。一時的に妖魔界とつながってもすぐ穴を埋めればいいんだろ」

「妖力が必要なら私たちも協力するし、妖魔界の入り口も探してあげるから」

「内申点、あげてくれるなら、ボディーガードしてやってもいいけどな」

 タイジは相変わらずちゃっかりした考えを持っている。


「素敵な仲間ができてよかったじゃない、夜神」

 ひかり先生が大人っぽい瞳でほほ笑んだ。


 早速、ひかり先生の家へボディーガード兼古書を調べるために行くことにした。ひかり先生の家は歩いて行ける距離にあって、私たちはぞろぞろ遠足のように夕方の歩道を歩く。日が長いので、まだまだ外は明るい。


 ひかり先生の実家は大きな病院を経営していて、お父さんは医院長をしているらしい。その病院の近くに実家があり、そこには大学で医学の研究をしている助教授の兄と父と母がいるということだ。


 ちなみに母は占い師をしているらしく、健康に関する占いが病院の患者に人気があるらしい。高齢化社会において、健康は大きな問題だ。病院に頼ることはもちろんだが、占いに頼りたくもなる。占い師のお母さんは占いによって、人々の心に寄り添う大きな支えとなっているのだろう。


 実家はかなり大きな建物で、古書が入っている倉庫や客が泊まることができる部屋も完備している。豪邸の一室を夜神とジンが借りるというわけだ。


「いらっしゃい。来ることは占いでわかっていたわよ」

 ひかり先生の母親が出迎えてくれた。


「倉庫で調べ物があるから、使うね」

「不思議な香りのするお客さんね」

 夜神を見て母親がほほ笑んだ。


「矢樫中学で教師をしている夜神です。事情があって、こちらのうちに今晩お世話になることになりました。よろしくお願いします」

 意外と礼儀正しい。


「まぁ、暗黒のオーラに包まれた先生ね。うちとは正反対のオーラだわ」

 オーラが見えるらしい。


「闇野ジンです」

「あなたもわけありね。いいわ、お部屋使ってちょうだい」

 全てをわかっているかのような対応で、すんなりうけいれたひかりの母。


「おじゃまします、矢樫中学の1年生、有瀬レイカです」

「同じく妖牙タイジです」


 軽く会釈をして、私たちはひかり先生の豪邸に足を踏み入れた。

 素敵な豪邸の一番奥の部屋に倉庫があり、照野家に伝わる由緒正しい古書が保管されているらしい。


「こっちよ。入って」

 薄暗く古書の香りのする一室に足を踏み入れた。ここには、お父さんやお兄さんが勉強のために使う医学書やたくさんの本が置いてある。


 一番奥の一番上の棚に古書が何冊かあった。しかし、文字は薄く小さいため読みにくい。しかも、昔書かれた文章なので、読解できない。


 夜神が本を手に取った。

 するとひかりがあるページを指さした。

「このあたりのページにそれらしきことが書かれているのよね」

 

「私の先祖がこの世界に来たときのことが書かれているの。太陽が隠れてしまった時代があって、作物が育たなくなって、こちらの世界にきたらしいのだけど……帰るならば光と闇が交差しなければ帰れない。闇の神がいなければ帰れないと書いてあるような気がするのよね」

 たしかに、文字が薄いうえ、かすれているが、そんなことが書いてあった。


「あのときか……」

 夜神が思い出したようにつぶやく。


「何百年も前だが、たしかに太陽の神が人間界に降りたのだが、戻ってこなかったことがあった。戻れなかったのか。太陽の神は強大な力を持っていたから、自力で戻れると思っていたのだが」

「あんた、そんなに前から生きてたの?」

 ひかり先生が驚いている。


「生きていたさ。妖魔界は時間の流れが遅いのだ。しかし、こちらに来ればこちらの時間の流れの通り、我々は人間と同じように歳も取るし、死ぬのだ」

「ものすごい仙人みたいなじーさんなんじゃないのか、夜神って」

 タイジがつっこむ。

 目の前の20代男性が御年何百歳かの仙人、少し笑ってしまった。


 闇の神はいても、太陽の神はいない。人間界で死んでいる。

 ひかり先生は混血だ。神の子孫だけれど、神様じゃない。


「諦めるしかないようだな。妖力をためても、太陽の神がいなければ難しい」


 頭にてのひらを当てながら、夜神は絶望した。

 この人間界で人間として生きていかなければいけない事実に向き合うのには少し時間がかかるようだった。


「僕の力は徐々に弱まっている。この世界にいれば、人間と変わらない寿命になるし、力もなくなる」

 「妖魔界に戻っても、嫌われているなら人間界のほうがいいんじゃないの?」

 ひかり先生はあいかわらず前向きで太陽のような人だった。


「少しこの本を読ませてほしい」

 夜神は古書が普通に読めるらしく、真剣に読み始めた。


「俺、本の記憶を読むことができるんだけど」

 タイジが言った。

 そうだ、タイジは映像でその当時を見ることができる力がある。


「本当か?」

 夜神がタイジの肩をつかんで歩み寄った。


「俺の体に触れていれば、ここにいる全員が本の記憶を見ることができるけど、やってみるか?」

「頼む!」

 夜神が珍しく下手にでた。


「みんな俺の肩につかまれ」


 みんなが肩に触れる。タイジは、古書に触れた。

 すると、みんなの前に映画館のように映像が飛び出した。まるで3D映画を見ているようで、立体的に見ることができた。画質はきれいだった。本当にタイジの特殊能力は役に立つ。


 今回の主人公はこの世界にやってきた太陽の女神だ。髪は腰くらいまであり、草で作られた草の輪を頭につけた西洋の神という雰囲気だった。おっとりしていて優しそうな若い女性だ。白いワンピースが似合う。


「太陽が当たらなくなったこの世界が心配になって、1人で、赤と青の札を持ってやってきちゃった。でも、帰るときどうしよう? いざとなったら神界と通信すればいいのだから。まずは人間界の問題を解決しなきゃね」


「でも、この二枚の札を使って妖魔界の入り口を開くには、闇の神がいないとだめだとか、妖力が集まる場所でないと入り口が開かないとか……先代の太陽神から聞いたような……まあいっか、なんとかなるなる」

 ひとりごとをつぶやく太陽の女神。しかし、この神様なんとも適当である。のんびりした楽天家だった。


「この札、神界から勝手に持って行ったのは太陽の神だったのか、何も言わずに持って行ったけれど、この札は本来は闇と太陽の神の持ち物だ」

 夜神が新たな発見をしたようだ。レイカとタイジが持っている札は、神の世界から持ってきたもので、神界に戻るには、光の神と闇の神がいないといけないということだった。


「よし、太陽の神の力でこの世界に光をとりもどすぞ!!」

 女神は手を空に掲げて太陽の神は太陽をよんだ。この暗闇の世界から光を取り戻すべく。この世界は夜しかない世界になっていた。それは、歴史から消えた事実。おそらく太陽の神が夜しかない時期は、なかったことに操ったのかもしれない。


「思ったより妖力を使うわね」

 少し疲れが見える。若いけれど、妖力を使って体力がなくなってしまったのかもしれない。それでも、女神は一生懸命神としての仕事をした。何時間もかけて、女神はようやく光を呼ぶことができた。


「だいぶ妖力が落ちて、神界と通信できる力もなくなってしまったわ」

 そう言うと彼女はそのまま倒れてしまった。


「音信不通になったのは、こういうことだったのか……」

 夜神がつぶやいた。

「僕が人間界に追放されたのは、太陽の神を見捨てたという、勝手な噂が広がって、もう何百年とあいつらと口も利かなくなってしまった。他の神と関係が悪くなったのが原因なんだ」


「別に夜神が悪くないじゃん」

 タイジが言った。

「そうだよね、太陽の神が何も言わずに、人間界に行ったのが悪いんだよね」

 レイカが納得した。


 スライドには、倒れた女性の元に若い男性が助けに来ている様子が映し出された。そして、意識がなくなりつつある女性を抱えて、青年は歩いて行った。青年のうちに運ばれたのだった。そこは、大家族で父親が医者のようなことをしている一家だった。


 そして、人間としてここの生活に慣れてゆく女神。神の力は体力が戻っても以前ほどには戻ってはいなかった。札を持って、時々天に向かって神と交信しようとしても、全くダメだったのだ。


 次第に女神は落ち込んだ。神の世界に戻ることができなくなったのだ。この世界に妖怪は少なく、今の女神の妖力だけでは何もできない。助けも呼べない。人間としてここで暮らさなければいけないという現実が女神をおそう。


 女神は人間界では歳を取るということに気づいた。あちらの世界では変わらないのだが、こちらでは外見も少しずつ変わっていった。


 彼女は普通の人より色々な能力を持っているので、祈祷師として、占いや、残された神の力を全部使った。祈祷師の仕事は、みんなの病気を救ったり、村のために力を尽くした。女神の能力は村のみんなのために使われたのだ。


 それを支えていたのが、最初に助けた青年だった。年月が経ち、立派な大人になった青年は女神に結婚を申し込んだ。

 女神はすっかり人間として生活していたので、こころよく結婚を受け入れた。やがて、子供が生まれ、女神も歳を取った。それでも、一定の神の力はなくならなかった。彼女がなくなった後、神社に札を預けたというストーリーだった。


 太陽の女神の生涯は優しく楽しく、悔いのないものだったのだろう。みんなに慕われて、愛されて、神界に戻るよりもずっと充実した毎日だった。それは、命が長ければいいということではない。短い命でも、どう生きるのか、ということを教えてくれる話となっていた。


 女神は孫も生まれ、すっかり歳を取っていた。死ぬ前に、紙に筆で書き記した。それは、女神が書いていた日記の一部になっていた。女神は神の世界について、妖魔界についても、1冊の本になるほどたくさんのことを書き残していた。


『光と闇が交差する場所に妖魔界の入り口が開く。妖力を集め、太陽の神と闇の神が札を使うと、そのとき、神界にたどりつくだろう』


 太陽の女神の子孫であるひかり、札をたくされた神社の子孫がタイジ。

 これは、不思議な偶然だ。


「今は太陽の神っていないのか?」

 タイジが夜神に聞いた。それはみんな気になるところだった。


「太陽の神が消えたということになり、新しい神が今はちゃんといるよ。僕がいなくなれば、新しい闇の神が誕生するということだ」

 神にも、あとつぎがいるという事実を知った人間たちだった。


 スライドショーが終わるとタイジが確認した。

「夜神が戻るためには集めた妖力と札と二人の神が必要ってことだよな」

「妖力は1年かけてだいぶ集めた。太陽の神と闇の神がいれば、大丈夫ということだろう」

 夜神が答えた。


「でも、現在の太陽の神は神界にいるのでしょう?」

 ひかり先生が確認した。


「ひかりさんは太陽の神の血を引いています。しかも、霊感魔女。モフモフ二匹の結論では、この札を使いこなせるはずだと結論にいたりました」

 モフモフが同時に同じ言葉を発する。


「本当に?」

 ひかり先生が目をまあるくした。


「札を持ってみてください。札に認められない人が、その札を持つことはできません」

 モフスケが言った。


「どういうこと?」

 レイカが質問した。


「札に触ると、札が逃げるのです」

 モフミが解説する。


「まさかぁ」

 ジンが馬鹿にしたように言った。


「ジン、触ってみてください」

 モフスケが言った。


「触るのなんて簡単だろ」

 ジンがさわろうとすると、札は逃げたのだ。不思議なのだが、気持ちを持っている札なのだ。意思がある、本当に不思議だ。


「ひかり先生、触ってください」

 モフミが言った。


「じゃあ……」

 触ると、札は逃げない。ひかり先生の指の間におとなしく収まった。


「夜神、あなたも触れてみてください」

 夜神のほうに札から寄ってきた。持ち主は夜神だったということか。


「でも、どこに行けばいいの?」

 ひかりがモフモフたちに向かって質問ぜめだ。


「二人が札を持てばどこでもいいのです。できれば、人目のないところがいいと思いますが」

 モフモフが同時に言う。同時に同じ言葉を発するなんて普通はできない。モフモフはやはり普通ではないのだろう。


「俺の家の神社の境内だったら平気だと思うぞ。人も普段いないし妖気を高められるからな」

 タイジが提案した。


「今日は暗いから、明日、夕方神社の境内に集合しましょう。夜神とジンは今日はここにとまっていきなさい。ケガをしてるんだし、神界に戻る前に妖怪におそわれたら大変よ」

「俺、夜神がいなくなったら、どうなるんだろう?」

 ジンは自分の今後に不安を感じているようだった。ジンはうつむいて黙ってしまった。


 ひかり先生の占い師のお母さんが、夕食を作ってくれたようだ。

「あなたたちが好きなメニューを占ってちゃんと作ったから、おいしく食べてよね」

 そこには、レストランで作ったようなおいしそうな洋食メニューが並んでいた。

「レイカちゃんとタイジ君も食べていってね」


 おいしいハンバーグとエビフライとサラダと共に。またまたレイカはすごい勢いで食べてしまった。一口一口表情豊かに。その様子を見て、タイジが笑う。それにつられて、ひかり先生のお母さんもひかり先生も笑う。笑いがある食卓がそこにはあって。夜神とジンを囲んだ奇妙な夕食会は、笑いの中で幕を閉じた。


 私とタイジが帰った後、ひかり先生は夜神とジンに命令した。

「お風呂に入って今日は早く寝なさいよ。これ、お兄ちゃんのTシャツとスウェット。二人とも使ってね。スーツや制服で寝ると疲れもとれないよ」

 そういって浴室に置いていった。


 二人は順に風呂に入り、スウェットとTシャツというなんともラフな格好で寝室となる部屋へ案内された。二人の髪はまだ完全に乾いていない状態で、いつもとは雰囲気が別人だった。


「夜神って黒いスーツのイメージしかないから、貴重な格好かも。闇の神のプライベートってそうそう見れるものじゃないし」

 いたずらな笑顔でひかりは笑った。

 少し照れた顔で夜神は寝室に向かった。


 家族みんなが寝静まった後、ひかりは仕事があり、リビングでパソコンに向かっていた。

 夜の12時をまわろうとしていた頃、夜神がやってきた。


「水、もらうぞ」

「冷蔵庫にミネラルウォーターが入っているから、飲んでよ」

「こんな時間まで仕事か?」

「養護教諭も大変なのよ。事務仕事がわりとあるんだから。こんな時間になっちゃった」

 ひかりはあくびをしながら、腕を伸ばして伸びをした。

「眠れないの?」

「別に……」

 夜神はあまり自分を見せない。

 夜神の水を飲む姿は、まるで映画のワンシーンのように美しい。やはりこの世のヒトではないオーラがあった。


「教師の仕事は楽しいのか? 太陽の神の子孫」

「ひかりでいいってば。すごくやりがいはあるよ。あんたももう少し教師続けてみたらいいのに。どうせ神の世界で嫌われているんでしょ?」

「うるさい」

 少しむっとした顔をする夜神。夜神が表情に出すのは珍しい。


「人間という生き物は、面白いな。しかし、ここは結界が張ってあるから、妖怪におそわれる心配もないしな」

「久々にゆっくり眠って、考えてみなさいよ。人間界も悪くないよ」

「……本当は、妖魔界と人間界をつなげてしまえば面白いと思って妖力を集めていたんだ。神界のやつらへの当てつけにもなるしな。でも、ずっとつなげられるほどの強力な力は集まらなかった。僕は自分のいるべき場所に帰る、それがさだめだ」


 夜神は妖力を閉じ込めたネックレスを見つめながら、吐き捨てたように言った。夜神は部屋に戻り、窓から月をながめながら、なにかを考えているようだった。


 太陽の神の末えいの家には、結界が張ってあり、妖怪におそわれることはない。久しぶりに静かな夜を迎えた夜神とジン。ジンは熟睡していた。

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