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学校一美少女のトイレの華絵さん

 トイレの花子さんではなく、華絵さんという妖怪が我が中学にいるらしい。

 私は、気配しか感じていないので、姿は見ていない。

 彼女は無害だ。人に何かするわけでもなく、ひっそりと学校で生活しているだけらしい。怖がる必要はないし、除霊する必要もない。


「女子トイレに入れないからって私をスカウトしたの?」

 ちょっと心にひっかかっていたことを聞いてみた。


「まぁそれもある」

「否定しないんだ」

 がーん、というがっかりした気持ちが頭の中でひびきわたる。


「トイレのあやかしの怖いところは、のぞきだよな」

 真顔で妖牙君が言う。


「妖怪に対して、のぞきが怖いって、ポイントがずれているような気がするんだけれど」

「だって、女子にトイレの最中をこっそり見られているって一番恐怖だと思う」

「妖牙君の恐怖のポイント、普通の人となんか違うよね」

「トイレの外に呼びだすこともできるから、俺一人でできないこともないんだけれど、彼女は恋をしているらしいんだ」

「トイレの華絵さんが、恋? 初耳。そんなことってあるの?」


「一応、女子だからあるんじゃないか。相手はうちの中学の人間だ。俺はそういった恋愛にはうといから、おまえのような女子がいたほうが助かるっていうのもあるな」


「私に恋愛相談にのれってこと?」


「最近、そういった悩みのあやかしの類が多くて……。恋愛カウンセラーになりつつあるんだな」

 冷静な妖牙君は、本当にそういったことが苦手らしく、まじめに悩んでいるようだった。


「恋愛相談なら任せて!!」

「4階の女子トイレの4番目にいるはずだから、声をかけてこい」

「了解」


 私は、急いで華絵さんの元へ向かった。

 幸いトイレには誰もいなかった。


「華絵さーん」

 普通に呼んでみる。


 普通の人は、ノックを何回してとかそういった手順があるらしいが、私の場合は直に見ることができるので、華絵さんに直接話しかけてみる。

 怖くないかって?

 ちいさいころから毎日あやかしの類をみてきたのだから、今更怖くない。のぞかれるのが怖いと思っている妖牙君と少し感覚は似ているように思われるかもしれないが、霊感があると普通という感覚が少しずれるのは否定できない。


 もしかしたら、霊感があることが私にとってラッキーなことなのかもしれない。だって、そのおかげで、憧れの彼とこうして一緒に居られるのだから。


「はーい」

 思ったより、すんなり返事が来た。

 少し弱々しい声だ。


「あなた、私の声が聞こえるの? じゃあ姿もみえるのかしらね」


「私、霊感強いから、見えると思う。悩みあったら相談に乗るよ。私、あやかしカウンセラーだから」


「カウンセラー? 最近、学校の生徒向けにできた制度だと思っていたけれど、妖怪向けにもカウンセラーが設置されたの?」

「まぁ、そんなところよ。恋愛で悩んでいるの?」


 すると目の前に中学生くらいのすらっとした美人が現れた。

 私の想像する花子さんは、小学生くらいで、赤いスカートで、おかっぱで――。

 全然違う。髪はロングヘアーのストレートで、白いブラウスだが、フリルがついた今時のかわいいデザインだった。さらに、スカートは膝上でチェックのプリーツの入ったデザインだった。ハイソックスも細い脚にフィットしていてモデルのようだ。背も高い。大人びている。


 美人だ!! 私なんてこの人に比べたら、底辺レベルだと思う。

 これを見たら、妖牙君はひとめぼれしてしまうかもしれない。

 だって、華絵さんは学校一レベルの美少女なのだから。


 トイレというのは、非常に不思議な空間だ。

 たくさんの人が出入りこそするが、そこは誰も見ていない、プライベートな場所で、見ることもできない空間だ。壁の隣に人がいても、それはいない人と同様だ。自分だけの部屋が学校内に唯一できるプライベート空間、一息つける場所でもある。


 そんなところに住みついた華絵さん。

 彼女は一体どんな悩みを持っているのだろうか?


「あなたは、好きな人がいるの?」

 核心をついてみた。あやかしといっても、彼女は穏やかで危害を加えるタイプではないし、どちらかと言うと病弱そうな美人だ。


「私、男子トイレにも時々遊びに行くし、学校全体を散歩してることもあるんだけれど、とても好きになった人がいて。思いを伝えたいの。でも、私は人間ではないから」

 たしかに、普通に考えてあやかしと付き合うことは無理だろう。


「やっぱり、男子トイレにも来るのか。本当にやめてくれよな、そういうのは犯罪だから」

 入口の外に立っている妖牙君がちょっと嫌そうに語りかける。

 とりあえず、今は華絵さんの気持ちを聞き出そう。


「相手は、誰? 私、恋の相談に乗ることは得意だから」

 華絵の頬が赤くなる。照れているようだ。

「恥ずかしいから秘密にしたいけれど……でも、私の場合はあなたのような人にお願いしないと気持ちを伝えられないし」

 華絵は思ったより、内向的で恥ずかしがり屋なようだ。


「誰? 協力するよ」

「城山先生」

「え……? 新任の若い理科の先生?」

「毎日、学校の花壇の手入れや校内の掃除も一生懸命で、あんな先生はこの学校ではじめてよ。ある時、私のことが見えたのか、生徒だと思って話しかけてくれたの」

「城山先生って霊感あるの?」

「普通の人よりはあるのかもしれないわ。本当に普通に挨拶をしてきたの」

「城山か……あいつは結構霊感あるぞ」


トイレの入り口の外から、妖牙君が会話に入ってきた。


「霊感があるかどうか、わかるの?」

「まぁ、俺くらいになると霊感があるかどうかすぐわかるけどな」


 いつも、得意げで上から目線の妖牙君。でも、そんなところが好きだったりする。


「城山先生に告白してみる?」

「え……? 無理だよ。告白なんて」

「じゃあ話をする機会を作ろうか?」

「でも、私があやかしだとばれたら、きっと怖がるよね」

「大丈夫。少しずつ、仲良くなろう作戦をたてるから、私に任せて!!」


「城山先生」

 恥ずかしがり屋の華絵さんのために、私が花壇の手入れをしている先生に声をかけた。私の後ろに華絵さんがいる。

 

「そういえばうしろの君、制服は? 転校生か?」

 やっぱり、見えている。

「先生は霊感はあるほうですか?」

「まぁ、昔っから見えるほうだけど。なんでわかるんだ?」

「実は、私も妖牙君も霊感が強いんですよね。見えないものが見えるというか」


 少し後ろに立っている妖牙をちらっと見る。

 彼は腕組みしながら見守っていた。

 好きな人がこんなに身近にいるとは。ドキドキが止まらない。

 でも、今は自分ではなく、華絵さんの恋だ。


「タイジは、俺の親戚だからな」


「そうなの? ってなんで黙っているのよ。教えなさいよ」


 ちらりと見ると、妖牙はすっとぼけた顔をしている。面倒なことを押し付けようとするんだから。もう!!


「じゃあ、この子、華絵さんっていうのだけれど、見えますよね」

「華絵さん? ってここの生徒じゃないってことか?」

「はい、私は学校のトイレに住むあやかしの華絵と申します」

「どうりで、制服じゃないと思った」

「先生、そこ、驚くところだよね。なんで、普通なの?」

「いや、俺には見えることってよくあることだし、彼女、生徒に溶け込んでいてわからなくって」

「彼女、先生が話しかけてくれて、とてもうれしいって。友達になってほしいって思っているの」

 彼女の気持ちをやんわりと伝えた。


「べつにいいけど」

 え? そんなものなの? もっとリアクションがあるのかと思ったけど。


「先生、彼女とか結婚予定とかあったりするのですか?」

 ズバッと聞いてみる。

「ないけど」

 先生は何で? というような不思議な顔をしてこちらを見た。

 彼女がいてもおかしくないさわやかな優しい先生だ。


「じゃあ、華絵さんを彼女にしてあげてよ」

「はぁ? なんでだよ。彼女だって選ぶ権利くらいあるだろ?」

 俺だってじゃなくて、彼女だって、なんだ。


「私は、城山先生とお付き合いしたいのです」

 小さい声だったが、華絵は告白したのだ。実にストレートな告白だ。


「あやかしと付き合うことは、想定していない事実だし、返事をすぐに出すことはできないな」

 先生は困っているようだったが、嫌がるということはなかった。そこは、もっとびっくりすると思ったのだが、彼女を否定はしなかった。


「じゃ、友達から」

「城山にも俺の助っ人お願いしたくてここに来たんだけどな」

 ちゃっかりしている妖牙君。


「例のあやかしカウンセラーってやつか?」

「ここの中学には異常なまでにカウンセリングが必要なあやかしがいるじゃないか」

「俺は、基本仕事上、生徒の面倒をみなければいけないけれど、少しくらいなら手伝ってもかまわんぞ」

「私もあやかしカウンセラーの会に入ります」

「入るって。お前自体、あやかしだろ」

 妖牙がつっこむ。


「あやかしだからこそ、できることがあると思うのです」

 華絵は実におしとやかな日本風美少女で、 妖牙が好きにならないか、それだけが心配だったが―――


「ここにあやかし相談所発足!!」

 私が一声かけると。


 なぜか城山先生が

「おう!!」と一番ノリノリな返事をするのだった。


 妖牙タイジ(中学一年)、城山真先生、華絵さん(あやかし)、私、在瀬レイカがメンバーとなって、会が発足されることになった。

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