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妖牙君の自宅へ

 はじめてお邪魔する妖牙君の自宅。お部屋ものぞいてみたいし、どんな本があるのか、何が置いてあるのか、全てが気になる。妖牙君のプライベート空間に足を踏み入れるのだ。歩きながら胸が高鳴る。


 妖牙君の自宅は和風の建物で、敷地面積は広い。お金持ちという雰囲気の造りをしている。木のにおいがする。まわりが木々に囲まれているというのもあるが、こだわりの設計住宅のような感じだ。


「お邪魔します。わりと新しいおうちなんですね」

 妖牙君のお母さんに話しかけてみる。

 先程、本の記憶で見た女性が大人になって目の前にいる。テレビの中の女優にあったような気持ちになる。女優さながらの美人でかわいらしいお母さんは、笑顔が優しい。気さくに何でも話せるお姉さんのような感じがする。


 妖牙君が美少女あやかしに出会っても全く動揺しないのは、このお母さんが美人過ぎるからかもしれないと思った。美人過ぎるお母さんが普通だと思っている目の前の男子は、相当理想が高いのかもしれない。


 これは、結構ピンチかもしれない。私は美人でも学校一のモテ女でもない。とりあえず、この関係を保って仲良くしたいなぁ。今のところ一番の友達になりつつある私と妖牙君。


 美人のお母さんが、できたてのおいしい肉じゃがやみそ汁を運んできてくれた。ほくほくのじゃがいもと湯気とつやがますます食欲をそそる。よだれがでそうなくらい、おいしいにおいが私を誘う。


 普通の家庭料理をおいしく作ることができる人は、これ以上ない、いいお母さんのような気がする。また、妖牙君の理想像のハードルが高いことに気づく。全員が料理が上手という思い込みは家庭的ではない女子には辛いものがある。


 いいお母さんになってみたい。そんな気持ちがレイカのばくぜんとした目標となっていた。あたたかい夕食をふるまう家庭の一場面が私の中に浮かんだ。もちろん、そこには妖牙君がいて、子供がいて……。当たり前の家族の姿を思い描いていた。映像で見た少女が美人母となって、私に微笑んでくれるなんて、テレビの向こう側の人に会えた時のような不思議な感覚があった。


 ひとくち口にすると、みそ汁の味わいがしょっぱすぎず薄すぎず、これぞおふくろの味という味わいだった。妖牙君は無表情でおかずを口に運ぶ。私ときたら、一口一口食べるごとにいちいち表情を変えるので、妖牙君のお母さんが笑いながら言った。


「そんなにあわてて食べなくてもなくならないわよ。それにしても、表情豊かだわ。作ったかいがあったというものだわ」

 上品なたたずまいのお母様がお上品にほほ笑む。


 妖牙君も表情豊かな私の顔を見て思わず吹き出しそうになっていた。

「飢えた野獣のようだな」

 笑いながらも冷静な男だ。

 普通の顔をしているつもりなのだが、どうやら私は笑える存在のようだ。


 よりによって好きな人に飢えた野獣と表現されてしまうとは、不覚だ。

 たしかにお腹が空いていたのだけれど、本当においしいから、つい顔に出ただけなのに。


「お客さんか?」

 妖牙君そっくりのイケメンお父さんがやってきた。

 気に入られたいけど、やっぱり私のような女の子では相手にされないのは目に見えている。この一家色々な意味でハイスペックすぎるんだもの。


 妖牙君のお父さんは顔立ちが似ていて、きっと妖牙君も大人になったらこういった感じになるのかなという想像が容易にできる。

 背はすごく高いわけではないが、きゃしゃな体型で身軽そうな感じが似ている。背格好も涼しげな目元もそっくりだ。


 美男美女の夫婦がここにいる。私の父と母は美男美女というわけでもなく、普通の夫婦だ。どこにでもいそうな一般的な親だ。雑誌に出てきそうな香りのするこの一家と私がここにいること自体場違いだと思う。


「はじめまして、息子がいつもお世話になっています。君が赤い札に選ばれた女の子ですか」

 紳士的な美形お父様が優しく語りかけた。


「有瀬レイカです。よろしくおねがいします」

 私は立ち上がり、ぎこちないおじぎをした。


 お父さんの物腰はやわらかい。そして、クールな雰囲気は妖牙君そっくりだ。

 先程、絵本の中でラブストーリーを見せてくれた少年が大人になっているという事実は私の心をくすぐった。恋が実って一緒になったあこがれの二人がここにいる。あんなにクールな少年がお父さんになっている。お母さんが美人だから納得だけれど……女は顔ではないはず、だよね。


 妖牙君が顔では選ばないということを信じながら食事の続きを始めた。


「最近闇の妖気を感じるんだ。この神社の近くで何かが起こるかもしれない」

 妖牙父が真面目な顔で話し始めた。


「君の力が必要になる。赤い札に選ばれた霊感魔法少女なんだからな」

「魔法と言ってもそんなにすごい力は使えませんよ」

「この町に君が生まれて、生きている意味は絶対にあると思うよ」

「でも、お父さんもお母さんも霊感があって、お父さんは妖力もあるのだから、私なんかより重要な存在ですよ」


 お父さん、お母さんと妖牙君の両親を呼ぶこと自体、反則技を使っているようでなんだか照れくさい。結婚したわけでも何でもないのに。


「たしかに妖力はあるけれど、札を使える年齢っていうのがあって、10代から20代前半くらいまでは使えるかな。20代後半になると徐々に札に触れられなくなってしまうんだ」

「触れられなくなるんですか?」

「だから、タイジが10歳になるくらいまでは札は使えないので、保管してあったんだよ。今は、僕と妻は使うことができない。札は使い手を選ぶから」

「選ばれたんですかね? 私」

 認められたことが、ちょっとうれしいような不思議な感覚だ。


「この町で霊感魔法使いって、そうそういないしな」

 妖牙君が冷めた目でもっともなことを言った。妖牙君も認めてくれているのかな?


「赤い札に選ばれた人と青い札を持つ人は結婚するジンクスもあるしね」

 お母さんがにこっとひやかす。


 私たちはそういったことに敏感な年頃だから、目線をそらす。早々に妖牙君が食事を終えた。4人での食事の空間が息苦しくなったのかもしれない。両親の好奇心にあふれたまなざしや私の存在が。


 なんだか申し訳なくなって、いそいで完食した私は、帰宅の準備を始めた。

「そろそろ帰らないと、親も待っているので」

「城山真先生にもよろしくね、私の親戚だから」

 お母さんが手土産を手渡した。

「これ、神社のお守りなんだけど、プレゼントするわ」


 両手のてのひらに乗せたお守りは今まで見た中で一番かわいいお守りだった。ピンク色で柄もかわいい。お守りというよりはストラップみたいだ。

「これ、私がデザインしたのよ」

 にこやかに妖牙君のお母さんが言う。


「これ、かわいいですよね」

「実は私、デザイナー志望で美術系の大学で勉強していたの。だから、今は神社のグッズをデザインしてネット販売もしているのよ」

 おっとりしているようにみえるが、実は事業家で、デザイナーだという意外な一面を見た。


「今は神社に嫁いだ妻も色々な形でビジネスにつなげる時代だから」

 全てが完璧にこなせる女性を目の前にしたような気がして、私は憧れと尊敬のまなざしでお母様を見つめてしまった。


「タイジ、送っていきなさい」

 さりげなくお父さんが言った。


「大丈夫です」

 申し訳ないので、断った。


「暗くなったから女の子一人じゃ危ないでしょ。これから大事な人になるのよ」

 お母さんも妖牙君に送らせようと半ば強制している。


「わかったよ、行くぞ」

 しぶしぶ妖牙君がポケットに手を突っ込んだまま歩きだした。


「ありがとうございました。おいしかったです」

「また来てね」

 おちゃめな妖牙君のお母さんは片目をウインクする。

 私は妖牙君と肩をならべて、でも少し距離を保ちつつ歩いていた。

 なんだか、将来一緒になるみたいなことを言われると恥ずかしいし、なんといったらいいのかもわからない。


「闇の力って夜神が関係しているのかな?」

 妖牙君の関心は私と違って闇の力についてだった。意識していたのは自分だけだったのかと思うとちょっと恥ずかしい。


「どうなのかな、光と闇が交差する場所もわからなかったね。また来て一緒に探してもいいかな?」

「それは助かる」

 妖牙君が嫌がらなかったので少しほっとしたが、意識しているのは自分だけなのかと思うと、少しせつなかった。初恋は実らないという法則は確率が高い。しかたがないのだ。


「妖牙君の部屋も見てみたかったな」

「今度来るか?」

「いいの?」

「いいけど」

 意識した様子もなく、すんなり了解を得られたのは、うれしい反面悲しい自分もいた。

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