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太陽の神と闇の神

 保健室に体調が悪くて行ったときの話だ。そこには、スタイルが良くて美人で若い女の先生がいた。白衣からは長くて細い足が見える。話すのははじめてだ。


「体調悪いのは、満月が近づいているからだったりして」

 妙なことを言う。

「ちょっと頭痛がするので、休ませてください」

「あなた魔法少女だから、きっと月のみちかけに体調が左右されるのよ」

「――魔法少女、違いますよ、何を言っているのですか?」

「隠さなくてもいいのよ。私には、見えるのよ。私にも魔法力があるから」

「魔女ってことですか?」

 私はおどろいて反応した。


「霊感魔女とでもいうのかな。霊感が強いし、相手の能力が見えるのよ」

「能力が見えるのですか?」

「あなたのクラスには妖牙タイジという妖力使いがいる。転校生の男子はつくもがみだったってこともわかるよ」

「じゃあ、新任の夜神先生の力もわかるんですか?」

 気になっていることを聞いてみた。


「そうね、彼はずいぶんと巨大な力をもっている。だからその力は想像をはるか超えるでしょうね。闇の神様なんだから」

「闇の神様ですか?」

「闇を支配する夜の神様だと思うけど。彼がこれからどうしようとしているのか、私にはわからない……わざわいの神にならないでほしいことだけを祈っているわ」


 私は少し休もうと思っていたが、思わぬ展開となり、頭痛も忘れてベッドに腰かけながら、先生と話していた。


「自己紹介するね。私は養護教諭の照野ひかり。先祖は太陽の神だったっていうけれど……霊感と多少の魔力を持つ24歳、よろしくね」


「私、有瀬レイカです。魔法と言ってもあまり大した能力は使えません。先生ならば夜神先生と対抗できそうじゃないですか? 太陽の神様だったのでしょう?」

「でも、神だった先祖の血は薄くなって、人間の血が濃くなっているから、神だった力はないのよ。でも、夜神は現役の神でしょ、天と地の差っていうこと」


 先生はコーヒーを飲みながら、椅子に座って私と話していた。

 ブラックコーヒーというあたりが大人の女性という感じがする。

 ブラックコーヒーは、私にはまだ入り込めない領域だ。


「あなたが今日ここへ来たのも何かの導きかもしれないね」

「現在の太陽の神っていないのですか?」

「私にはわからないけれど、どこかにいるのかもしれない」

「神である夜神がこの学校になぜ来て、人体模型を手下にしているのかはわからないけれど……何もなければ、私は見なかったことにするつもりよ」

 ひかり先生は少し冷めていて大人の女性ならではの香りがする。香水の香りだろうか。


「何かあったら手伝ってください」

 私は先生に協力をおねがいした。

「でも、ここにはトイレのあやかし、幽霊、ざしきわらしもいるし、あなたの肩にもすごい妖怪がいるから、大丈夫よ」

「見えていたのですか?」

「かわいい妖怪だなって以前から気になっていたけれど、話しかけるタイミングがなくって」

 白衣の先生のコーヒーカップには真っ赤な口紅がついていて、少し憧れる。こんな余裕があるような大人になりたいと思う。


「ひかり先生、きっとあなたには目覚めていない力があります」

 モフミも会話に入ってきた。


「見えるだけしか私に力はないのよ。戦ったこともないし」

「隔世遺伝ってあるんですよ。神の力って100代後に遺伝することもありますから。必要な時に開花する力なんです」

 モフミが説明を始めた。


「だといいわね」

 神の力を持つかもしれない美人は優しく微笑んだ。


「僕も少し休ませてもらっていいですか? ひかり先生」

 うわさをすればなんとやらで、目の前に夜神がいる。

 いつも気配なく現れるので、おどろかされてばかりだ。

 もしかして、会話を聞かれていたのか? 不安になる。


「さっきまで授業をしていたのですが、昼間に弱くって、ベッドで休ませてもらえないでしょうか? 僕って夜行性だから」


「かまいませんが、太陽の光には人間に大切なものがたくさん含まれていますよ。浴びることが健康につながります」

 ひかり先生は少し突き放したように言い放った。


「僕はこの町にとても興味があるんですよ、昔から不思議な話が好きなんです」

 黒いスーツをびしっと着こなし、ベッドに腰をかけた夜神が話し始めた。


「赤と青の伝説の札がこの町の神社に古くからあるそうですね。しかも、僕が担任しているクラスの妖牙君の実家が神社だなんて、奇遇だな」


「伝説は伝説ですよ。夢みたいなことばかり言わないで、ちゃんと休んでください」

 ひかり先生は敵意むきだしだ。


「僕は、魔法少女や霊感魔女にも大変興味があります」

 丁寧な物言いだが、どこか挑戦的な話し方をする。

 この男は私たちの能力に気づいているのだろう。


「なぜこの町にそういった不思議な伝説が集まっているのか、僕なりに調べてみたのですが」

「なにかあるのですか?」

 私はつい、夜神先生の調査結果が気になって聞いてしまった。


「この町には妖魔界とつながる入口があるから、という話ですよ」


「妖魔界? なんですか?」


「妖魔界とは、あやかしのたぐいがたくさんいる世界よ」

 ひかり先生が説明してくれた。


「神界って妖魔界のたぐいなのですか?」

 ひかり先生が神様と知っているかのように聞いた。


「僕は詳しくはないけれど、妖魔界の中のある地区に、神様が生息する場所があるみたいですね」

「詳しいじゃないですか」

 いやみたっぷりに、ひかり先生は言い返した。


「僕は妖魔界と人間界がひとつになってもいいと思っているんだけれどね」

「それは、人間たちが困ります」

 私はすぐに意見した。


「そうだね、人間は弱いから」

 夜神先生は腕組みしながらまるで人間を馬鹿にしたかのように、偉そうに言い放った。


「ちょっと気になったんだけど。君のポケットから赤い紙が見えたんだけど、伝説の赤い札じゃないよね?」

 あざわらうように夜神は確認した。


 私はあわてて、ポケットを見て確認した。

 赤い紙なんか見えていない。


「私、お札なんて持ってないですよ」


「ごめん、君が伝説の札を持っているはずがないよね、僕の勘違いだよ」

 口調は礼儀正しいのだが、どこかケンカを売っているような、感情をさかなでされるような嫌な気分になる。


「少し、休んだらよくなったみたいだ、僕は戻るよ。ひかり先生もこれからもよろしくおねがいしますよ」


 そう言うと、夜神は保健室を後にした。

 黒いスーツの男の目的は闇に包まれたままだが、人間界と妖魔界をひとつにしたいという野望があるのだろうか。そして私は、妖魔界という場所に神の世界があるということを知ったのだった。

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