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恋と魔法少女とあやかし使いと

 有瀬レイカは鏡で全身を映して身だしなみのチェックをする。制服姿も板についてきた今日この頃。少しばかり満足げな顔をしながら今日も矢樫やかし中学に向かう。桜の花びらも散って、通学路の若葉が広がる景色がまぶしい季節になった。光と新緑の香りを感じながらの深呼吸が心地いい。


  

 実は、同じクラスに気になっている男子がいるのだ。名前は妖牙ようがタイジ。あまり同級生と一緒にいることは少なく孤独を感じさせる不思議な雰囲気の男子だ。大人びた冷静な性格と成績の良さは特別感がある。


 彼は図書委員をしていて、趣味で図書室にいることが多い。彼が図書委員になると知って、勇気を振り絞って立候補した。委員会という特権を通じて仲良くなろうと思ったのだけれど、まだあまり話せていない。


 ごく普通の中学1年生の有瀬レイカだが、ひみつが2つある。

 ひとつは霊感があること。しかし、こんな能力は正直不要だ。みんなには見えないものが見えるという不可解な現象がとても辛い。

「あそこにだれかいる」って言っても嘘だと言われてしまうのは幼少のころからだ。嘘はついていないのでいつも心の中はもやっとしていた。


 ふたつめは、魔法が少し使えること。

 これは、祖母の血で、魔法が使える家系らしい。

 とはいっても、今使える魔法は時間を1分止めること。壊れたものをもとにもどすこと。それくらいで、魔法少女の中では地味なほうだと思う。大昔はもっと強力な魔法を使える魔女だった先祖もいたらしいが、今はだいぶ魔力の弱い魔法少女となった。霊感と魔法のことは同級生には秘密だ。特に魔法少女だということは誰にも知られてはいけないと言われている。



 思い切って妖牙君に告白してみよう。そうは思いながらも、やっぱりもう少し仲良くなってからがいいかもしれないとか、断られたら嫌だとか自問自答の日々だ。


 放課後の図書室は閑散としていて当番の時は二人きりのことが多い。告白のチャンスだ。図書室の利用者が少ないので、話しかけるのに都合がいい。


 いつも彼のそばにいる私はドキドキしていて、心臓の音が聞こえていないか心配ばかりだ。ぎこちない会話で私の気持ちがばれないのか、心配しながらの委員会活動をしている。


「妖牙くん」

 彼が振り向いた。


「おまえ、見えているだろ?」

 え……? 何? 何が見えているの? もしかしてスカートが短いから太ももが見えているとか、制服のブラウスがめくれてお腹がみえているとか?


「妖怪や霊だよ」


「―――え??」


 なんで私の霊感のこと、わかるのだろう?


「俺は神社の家系だからそういった能力は遺伝的にあるんだけど、おまえは珍しいな。突然変異か?」


 愛の告白をしようと思っている相手に霊感について告白しなければいけないなんて、災難もいいところだ。


「生まれつき、霊感が強いみたい。家族の中で霊感があるのは、祖母と私だけなんだよね」


「実は、お前に前々から頼みたいことがあるんだ」


 一瞬、胸がどきっとする。

 もしかして―――付き合ってほしいとか、私のことが前から好きだったとか? 自意識過剰かもしれないが、憧れの人に頼みたいと言われると都合のいいように解釈してしまう。


「俺のパートナーにならないか?」


 ええええ? もしかして結婚の申し込み??

 まさか12歳にしてプロポーズ? まだ13歳にもなっていないのに。

 まさか中学一年の私、人生決定? 私の中でこれからの未来がぐるぐる回る。


 それにしては、妖牙君は冷静だ。彼の瞳はまっすぐ私を見たままぶれない。


「実はあやかしカウンセラーをやっているんだけどな。人手不足なんだ」

「あやかしカウンセラー? 妖怪退治じゃなくて? 何、それ?」

「元々俺の家は代々妖怪退治を担っていたらしいのだけれど、俺は退治したいわけではないから、悩みを聞いて解決する主義だ。ちなみに俺は大昔の先祖に妖怪がいると聞いている。人間と妖怪の混血らしい」


「ハーフ? クオーターでもないね。もっと昔の先祖なのかな? でも、いくら混血だとしても、危険な妖怪や霊っているでしょ」


「一応、お払いの技術は一通りマスターしている。実際、妖怪と闘おうと思えば、それなりの妖力は持っているつもりだ。しかし、最近は話を聞くことで和解するタイプの妖怪の類が増えているんだ。実際、俺の持っているお札に触れると妖怪は消滅してしまうから、それを避けるために妖怪は言うことを聞くというケースも多いんだけどな」


「でも、私、お払いの技術なんてないから、相棒なんて無理だよ」


「実はあやかし使いの我が家に伝わるお札は赤と青、二つある。赤いお札をお前に渡すから、危険な時はその札を妖怪に貼り付けろ」

 妖牙君は赤い札を差し出した。


「私、相棒をやるなんて言ってないんだけど……」

「俺の相棒がお前しかいないって、うるさくってな。出てこい、相棒」


 すると、見たこともないかわいい生き物が私の前に現れた。

 ふわふわした生き物が二匹だ。

 水色とピンクの淡い色合いで、かわいい。


 モフモフした毛並みのかわいい動物。

 猫でもなく、犬でもないけれど、妖牙君の肩にとまっている。


「かわいい、はじめてみる動物だね」

「これ、普通の人には見えないから。つまり妖怪」

「こんなにかわいいのに、妖怪??」

「初めまして、私はモフモフと申します」

「しゃべった!! 名前は見たままなんだ!!」

 驚いて見つめてしまった。


「妖怪だから普通に会話もできるけど、他人には見えないし、聞こえないから、独り言を言っている怪しい人だと思われないようにしろよな」


「モフモフさん、はじめまして。有瀬レイカです」

 お辞儀を丁寧にする。


「あなたはタイジと一緒にこの町のあやかしたちのカウンセラーになれる人材だと確信しています」


「モフモフが言ったんだ。私の100年以上生きた経験から、有瀬がパートナーとしてお勧めだと」

 妖牙がいきさつを説明する。


「ええええ? 100年以上生きているの? 実はおじいさんとかおばあさんとか?」

 私は驚いて大きな声を出してしまう。


「見た目は歳を取らないのです」

 二匹そろって同時に同じセリフを言う。


「長生きですね。年長者は大切にって祖母に言われているので」

「このピンクのモフモフは今日からおまえの守護妖怪だ」

「え……? うちは生き物かうの禁止だよ」

「大丈夫だよ、見えないし、世話も特に必要ないから」

「はじめましてモフミです」

 私の肩に乗っている。重くはないし、違和感もない。


「私はモフスケです」

 水色の生き物が言う。


「もしかして、兄妹とか?」

「そうですね。一応性別は男女の兄妹です」


 かわいいモフモフ仲間ができた。ペットを飼ったことがない私は、うれしい気持ちになっていた。


「おまえ、何か俺に話がありそうだったけど、気づいていたのか?」

「気づいていたって……?」

 まさか私が妖牙君を好きだったということを―――?


「トイレの華絵さんだよ」

「花子さんじゃなくて?」

「日本全国にたくさんの学校があってたくさんのトイレがあれば、名前が違うのは当然だろ。ひとくくりに花子さんってのもどうかと思うけどな。本当の名前はノリコだったり、ひとみだったり、色々あるんだぞ」


 なるほど……彼の言うことには説得力がある。意外と物知りなんだと、ちょっと尊敬する。


「たしかに気配はあったけど、華絵さんってあまり姿を見せようとしないから」

「彼女は恥ずかしがり屋で、好きな男にも告白できないでいるからな」

「女子同士のほうがいいだろ。だから、女子のパートナーが必要だったんだけどな。俺、女子トイレには入れないし」


 何それ、私ってただの妖怪パートナーとしてしか見られてないってこと?

 しかも、女子トイレに入れないから? 私を必要としているの?

 さっきまで告白するタイミングを計っていたレイカだったが、少し気持ちが冷めてしまった。あまりにも、私を女子として意識もしていない目の前の男子にちょっとがっかりしていた。


 でも、霊感があるという二人だけの共通の秘密ができたのだ。これから、関係がスタートするきっかけができた。

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