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一人で生きていくためには 3

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(とはいっても、わたし、あんまり器用じゃないのよね……)


 たしなみとして音楽も刺繍も習ったけれど、せいぜい中の下というくらいの腕前で、自慢できるようなものではない。

 学問も、最低限の教養は身に着けたけれど、誰かに教えられるほど賢いわけでもない。


(困ったわ……)


 貴族女性の働き口で考えられるのは、家庭教師か、どこかの家の侍女。しかし、前述したとおり学問もイマイチで、器用でないレナには、家庭教師も侍女も無理がある。


(貴族女性の働き口って、どうしてこう少ないのかしら……)


 レナはとぼとぼと城下町を歩きながら、はーっと息を吐きだした。

 求人を求めて城下町を歩いているが、見つけたのはパン屋の看板娘の求人だけだった。伯爵令嬢がパン屋の看板娘の求人に応募したら、店主を大いに困らせることになる。


(身分問わずできる仕事ってないものかしら?)


 伯母のベティはレナが仕事をするのに反対だし、ベティから話を聞いた父も同じように反対している。だから仕事探しに二人の協力は得られない。


(あーもう! 気晴らしに美術館にでも行きましょう!)


 いくら歩き回ったところで求人は見つからないので、レナは美術館へ足を向けることにした。

 レナは昔から絵を描くのが好きで、同時に絵を見るのも好きだった。この美術館は常時展示されている絵のほかに、若手作家の絵を月替わりで展示しているため、いつ来ても楽しめる。


 石階段を上り、アーチをえがく玄関をくぐれば、中は少しひんやりとしている。高い天井の上の方に作られている窓から光が差し込んでいて、赤い絨毯をぼんやりと照らしていた。


 レナは受付で入館料を払うと、ゆっくりと絵を見て回る。若手作家の絵は出口近くに展示されているので、まずは何度も見た巨匠の作品を楽しむことにした。何度見ても心にぐっとくるものを感じるのは、さすが巨匠といった感じだ。


(画材も結構高いから、最近は木炭画しか描いてないのよね……)


 絵の具も、絵を描く用のキャンバスも、クレイモラン伯爵家では好きに買えるような値段ではない。そのため、絵の具やキャンバスを買ってもらえるのは、年に一度、レナの誕生日のときだけだったが、今年はどうしようかと考えている。いつか家を出るときのため、誕生日プレゼントのお金をそのままもらって貯めておいた方がいいような気もしているのだ。


(でも、描きたい絵が決まっているのよね……)


 去年からじっくりと構想を練っていた絵を描きたいという欲求もあり、レナは腕を組んでうーんと唸った。


(絵具とキャンバスを買ってもらうべきか、お金をもらっておくべきか……)


 父のほかにベティもプレゼントをくれるが、彼女の場合、毎年必ずドレスと決まっていて、ほかのものを頼んだところで無駄なことはわかりきっていた。

 ゆっくりと絵を見て回って、出口近くの若手作家の展示にたどり着いた時、レナはふと、壁に一枚の張り紙がしてあるのを見つけた。


「なにかしら……?」


 来月の展示品の紹介だろうかとふらふらと近づいて行くと、それは絵の募集だった。


「なになに……、新人作家募集? コンテスト? ……絵の展示と賞金⁉」


 張り紙には、来月ここで展示をする作品を募集するコンテストをすると書かれていた。入賞すると賞金も出るらしい。

 それを読んだ瞬間、レナの頭に天啓がひらめいた。


(これだわ!)


 家庭教師も侍女もだめ。それならば画家としてデビューすればいいのだ。


(そうと決まれば、お父様に誕生日プレゼントを前借しないと!)


 絵の提出期限は二週間後。急いで描けば間に合う。

 レナはさっそく出口でコンテストのエントリー用紙に名前を書くと、ルンルンと鼻歌を歌いながら家に帰った。



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