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【書籍化】憧れの冷徹王弟に溺愛されています  作者: 狭山ひびき
冷徹王弟殿下の素顔

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エピローグ

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「はいはいよかったね。でも兄上、鬱陶しいから、毎日毎日僕のところにのろけに来るのはやめてくれる?」


 十歳の弟に冷たくあしらわれて、クラウスはしょんぼりとうなだれた。

 場所もわきまえずにレナに告白をしてしまったせいで、クラウスとレナの関係はあっという間に世間に知れ渡った。


 美術館のカフェで公開告白をしたと有名で、あれから三か月がたった今では、あのカフェは「恋人たちの聖地」と言う意味不明な呼び名で呼ばれている。おかげで客入りが激増して、店長から感謝の手紙と焼き菓子の詰め合わせが頻繁に届くようになった。その焼き菓子はきまってリシャールの部屋に運ばれている。


「ここのお菓子美味しいけど、さすがに飽きてきたよ。だって毎週来るんだもん」


 もうじき訪れる秋を先取りした栗のクリームの挟まったダックワーズをもそもそと食べつつ、リシャールが食べきれないと文句を言う。

 そうは言っても、レナのもとにも同じように届けられているようなので、彼女に回すこともできない。レナはレナで、弟のアレックスに渡しているようだが、あちらもリシャールと同じように「飽きた」と言い出しているらしい。


「でもあそこのカフェ、人が入らないのは諦めていると思っていたのに、意外と商魂たくましいよね」


 リシャールが「恋人たちのクッキー」と書かれているハート型のクッキーを手にあきれ顔をした。


「これ、すっごく売れてるんでしょ?」

「らしいな」

「普通のクッキーなのに、いい商売考えたよね」

「まあ……あそこの売り上げの一部は美術館にも回るようだし、売り上げが上がるのはいいことじゃないのか?」

「レナは恥ずかしくてしょうがないみたいだったよ」

「…………ああ」


 もう二度とあの美術館には行けないとレナが嘆いていたことを思い出して、クラウスは苦笑する。幼いころから人に見られることに慣れているクラウスはあまり気にならないのだが、レナは違うようだ。


(私としては、別にフラれたわけではないから、構わないんだが……)


 むしろ自分の恋人がレナだと周知して回ってくれるようなものなので、大歓迎だ。おかげで余計な虫はつかないだろう。


「それで、今日レナが来るんでしょ? こんなところにいていいの?」

「午後からだからな」

「午後からなのに一日休みにしたの?」

「……部屋の片づけをしようと思って」

「全然散らかってないでしょ、兄上の部屋」


 レナと会うときはたいていがリシャールの部屋だが、今日はリシャール抜きで二人で会う約束をしている。執務室とは別の私室に招くのははじめてのことで、クラウスは少し緊張しているのだが、そんな兄にリシャールは冷たい。


「思春期の子供じゃあるまいし、二十八歳にもなって、なんでそんなにそわそわしているのかな」

「そわそわなんてしてない」

「してるでしょ。あまり挙動不審だと、レナにあきれられるよ?」


 それは困る。しかし、恋人同士になってからレナと二人きりになるのは、送り迎えの馬車の中を除いてはじめてのことだ。城で会うときは決まってリシャールがいて、レナの家に行こうものなら彼女の父であるクレイモラン伯爵がガチガチに緊張してそばに張り付いているので、ちっとも二人きりになれないのである。


 レナもあまり気にしないのか、二人きりになることにこだわりがない様子で、なかなか誘い出せなかった。それが今日、ようやくなのだ。……というか、はじめから部屋に招けば早かったと気づいたのがつい最近で、自分の愚かさにあきれるばかりだが。


「じゃあ、片付けついでにこれを飾りなよ」


 リシャールはダックワーズを口の中に押し込んで、部屋に置かれている絵の中から見覚えのある一枚を取り出した。


「これはレナの絵じゃないか」


 青い鳥の絵だった。ジョルジュがアンリエッタに贈るのだと駄々をこねて、一度は取り上げられた絵だ。


「実はこれ、レナが兄上にあげるために描いていたんだよね。でもその兄上がアンリエッタから奪い取って来ちゃって、言い出せなくなって持って帰るって言ってたから、僕がもらったんだ。でも、もともと兄上に上げるつもりでレナが描いていたから、兄上にあげるよ。レナもそっちのほうが喜ぶだろうし」

「そ、そうだったのか……」


 もともと可愛らしい絵だと思っていたが、レナがクラウスにプレゼントしようと思っていたと聞くと、ますます輝いて見えるから不思議だ。


「では、遠慮なく」

「うん。レナにもちゃんとお礼を言わないとだめだよ?」

「もちろんだ」


 クラウスは青い鳥の絵を大切に抱えると、リシャールに礼を言って部屋を出て行く。

 自室に戻り、一番目立つところに絵を飾ると、満足顔で頷いた。

 レナの絵をはじめて見たリシャールが、「あったかい感じがする」と言った意味が、今ならわかる気がする。

 絵に人柄が現れるのだろうか、彼女の描いた絵を見ていると、心が温かくなる気がするのだ。


(この絵は家宝にしよう)


 レナが聞いたら卒倒しそうなことを考えて、クラウスは腕まくりをすると、部屋の片づけを開始した。



     ☆



「いいか、お前はそそっかしいんだ。宰相閣下があきれるようなことだけはするなよ」


 このやりとりは、果たして何度目だろうか。

 レナが城に行くたびに、見送りに出てきた父は毎度同じ言葉をくり返す。

 三か月前、レナとクラウスが恋人同士になったと聞いた父はまず卒倒して、それから大変失礼なことに、いつかレナがクラウスにフラれると決めつけてかかった。


 とにかくレナが何かしでかすのではないかと気が気でない父は、クラウスが我が家に遊びに来るたびにレナの側に張り付いて、レナの行動を監視した。

 さすがにクラウスも、毎度毎度レナの父親に張り付かれて落ち着かないのか、最近ではめっきりクレイモラン伯爵家に遊びに来なくなってしまっている。

 このままだと、レナの行動と言うよりも父の行動のせいでクラウスにフラれそうだ。


「はいはい、気をつけますよ。じゃあ行ってきます」


 レナは父を適当にあしらって馬車に乗り込む。

 クラウスは迎えに来ると言ってくれたが、城に行くたびに彼に迎えに来させるのは忍びなく、丁重にお断りした。クラウスは忙しい宰相閣下なのだ。レナのために時間を割かせては申し訳ない。

 馬車が動き出すと、レナははーっと息を吐きだした。


(お父様ったら、心配してくれるのは嬉しいけど、フラれるって決めつけないでほしいわ。本当にフラれたらどうしてくれるのよ)


 そんなことになれば、レナは傷心のあまり生きて行けなくなるかもしれない。

 叶わぬ恋として諦めるのと、叶ってから砕け散るのではショックの大きさが違うのだ。

 馬車が城に到着すると、城の玄関の前にクラウスが立っていた。わざわざ出迎えるため待っていてくれたようだ。


「こんにちは、クラウス様。今日はいいお天気ですね!」


 いい天気と言うよりは暑すぎるくらいだが、馬車を降りてレナが微笑むと、クラウスも笑い返してくれる。こうして自然に笑顔を向けられることが、レナはこの上なく嬉しかった。


「どこにも行けないまま夏が終わるな。……来月の終わりになれば数日まとめて休みが取れそうなんだが、どこか行きたいところはあるか?」

「リシャール様が絵を描きに遠出するっておっしゃっていたあれですね! ご一緒していいんですか?」

「リシャールから聞いていたのか。もちろんだ。場所は決めていないから、君が行きたいところがあるならそこに行こう。……二人きりでなくて、申し訳ないが……」

「いえ! 一緒にいられるだけで嬉しいですから」


 廊下を歩きながら笑顔を返すと、クラウスが片手で口元を押さえてついと横を向く。目元が赤くなっていた。照れているのだ。

 普段鉄仮面みたいなひんやりとした無表情でいることが多いクラウスだが、実はそうあるように彼が心掛けて顔を作っていただけだと知ったのは最近のことだ。

 クラウスは本当はなかなか表情豊かで、特に照れるとすぐに赤くなる。

 顔を作ることに慣れているクラウスは、気を許した相手以外にその本当の顔を見せることはなく、彼の本来の表情を見ることができるのはごく限られた人間だけらしい。これはリシャールから聞いたことだ。


「絵を描くなら、紅葉の綺麗なところがいいでしょうか」

「そうだな……来月末なら、ここから少し北の渓谷のあたりなら葉が色づきはじめているかもしれないな。温泉もあるいいところだ。王家の離宮はないが、親族の別邸があるから借りられるだろう」

「温泉! いいですね!」

「ではそこにしよう。リシャールも城から離れたところの方が落ち着くだろう。……ああ、ここが私の部屋だ」


 話し込んでいて、危うく自分の部屋を通り過ぎるところだったクラウスが慌てて足を止めた。

 彼が扉を開けると、その奥にはクラウスらしい落ち着きのある部屋が広がっていた。

 黒や紺、モスグリーンなど、自己主張の少ない色でまとめられている。

 ついついきょろきょろと部屋の中を見渡してしまったレナは、壁に飾られている絵に気が付いて「あ」と声を上げた。

 クラウスも気づいて、照れたように笑う。


「勝手にすまない。リシャールから、君が私にプレゼントしてくれるはずのものだったと聞いて……、もらっても、いいだろうか?」

「は、はい。それはもちろん……渡しそびれてしまっていたので……」


 しかしなぜだろう、自分の描いたものが好きな人の部屋に飾られているというのは、くすぐったくて恥ずかしい。

 クラウスからソファをすすめられて座ると、当たり前のように彼も隣に座る。肩が触れる距離に、レナの心臓がどきどきとうるさく主張しはじめた。

 ちょん、と手がクラウスの手に触れて、彼が遠慮がちに指を絡めてくる。

 ちらりと顔を上げると、優しく微笑まれた。


「りょ、旅行、楽しみですね……!」


 恥ずかしくなって声を上ずらせてそんなことを言えば、「ああ」と頷かれる。


「数日間ずっと君といられると思うと、今から待ち遠しい」

「わ…………わたしもです」


 ぷしゅーっと頭から湯気が出そうだった。三か月たったのに、近すぎる距離にはなかなか慣れない。

 楽しみなのは間違いないが、旅行中、正気でいられるだろうかと、レナは赤い顔を俯かせながらもんもんとしたのだった。




お読みいただきありがとうございます。


第二部に矛盾点があるので修正するようにと読者の方からメッセージを頂き、

考えた結果、この後に書いていた第二部を削除させていただくことにしました。

(書籍用に改稿する際にその矛盾点は修正したのですが、書籍用に改稿したものをwebにあげられないので)

ご迷惑をおかけいたしますがどうぞよろしくお願いいたします。


なお、削除した第二部まで一迅社文庫アイリス様から発売中の書籍に加筆修正したものが収録されています。

恐れ入りますが、修正内容につきましてはそちらの方でご確認いただけますと幸いです。



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