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一人で生きていくためには 2

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 朝食を終えてしばらくしたころ、伯母のベティがやって来た。

 ベティはレナと同じ赤みがかった金髪に青い瞳をしている。母はそれは見事な金髪だったのだが、どうやらレナは、クレイモラン伯爵家の血を濃く受け継いでしまっているようだ。


「レナ、今日はとてもいいお話を持って来たのよ」


 応接室に通すと、ベティは上機嫌でそんなことを言った。

 しかしすでに父から事情を聞いていたレナは憂鬱になって、伯母が大切そうに抱えている釣書らしい紙の束を見やる。


(いったいいくつ釣書を持って来たのかしら。伯母様って妙に顔が広いのよね……)


 ベティはアレックスに弱いので、見合いを断ったときの彼女の怒りを考えて弟に側にいるように言ったのに、土産のお菓子をもらった途端、薄情な弟はダイニングへ消えてしまった。今頃お菓子の包みを開けて、一人で楽しんでいることだろう。育ち盛りの十二歳の弟は、朝昼晩の食事だけでは腹が満たされないらしい。

 ベティは鼻歌でも歌い出しそうな様子で、釣書を応接間のテーブルの上に並べていく。


「今日はね、あなたに縁談を持って来たの。好きなのを選んでちょうだい。右からダルモア伯爵令息、アーサー子爵令息、次が……」

「伯母様」


 このままだと押し切られそうな勢いを感じて、レナはベティの言葉を途中で遮った。


「伯母様、ごめんなさい。とてもいいお話だと思うけれど、わたしには結婚するつもりがないの」

「何を言っているの⁉」

「ごめんなさい。いろいろ……そう、懲りたのよ」

「懲りたって、六年も昔のことでしょう? いい加減に昔のことは忘れて、前を向かなくちゃ。今日持って来た釣書の方たちは、みんなとってもいい方よ?」

「いい方でも、ダメなの。……それに伯母様、アーサー子爵令息はアレックスと同じ十二歳じゃないの。さすがに無理があるわよ」

「あら、十歳差くらい珍しくないわよ」


 それは男性が年上の場合に適用されることで、女性が上の場合は、せいぜい二、三歳が普通だ。もちろん中にはあるかもしれないが、レナは、さすがに弟と同じ年の子供と結婚はできない。


「ともかく、このお話はなかったことにしてほしいの」

「レナ……」


 ベティはこれ見よがしなため息をついて、真剣な顔をしてレナに向き合った。


「いい、レナ。あなたが嫌でも、こればっかりはそうはいかないの。まだアレックスが十二歳で、想像したことはないかもしれないけれど、よく考えてみて? アレックスがこの家を継いだ時に、あなたはどうするつもりなの? あなたがいつまでもこの家に居座っていたらアレックスが困るのよ。弟のお荷物になりたいの?」

「それは……」


 レナはハッとした。

 確かにそうだ。アレックスはクレイモラン伯爵家の次期当主として、いつか結婚するだろう。家庭を持ったアレックスに、レナがいつまでも張り付いているわけにはいかない。少なくともアレックスがクレイモラン伯爵家を継ぐときには、レナはこの家から出て行かなければならないのだ。


(考えていなかったわ……)


 アレックスはまだ十二歳だが、来る日のためにレナにも準備が必要だ。


「そうね、伯母様……」

「わかってくれたの? よかったわ。じゃあ、続きだけど――」

「わたし、仕事を見つけるわ」

「そうそう、次はバーバリー伯爵の……って、なんですって⁉」


 ベティが叫んだが、レナはあんぐりと口を開けた伯母に向かって、真剣な顔をして繰り返した。


「仕事を探すの」


 こうしてはいられない。一人で生きていくため、手に職を得るのだ。


「ありがとう伯母様。伯母様に教えてもらわなかったら、わたし、いつまでものんびりしていたと思うわ!」


 レナはベティの手をぎゅっと握りしめたけれど、ショックが大きすぎたらしい伯母は、ぴくりとも動かなかった。




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