表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】憧れの冷徹王弟に溺愛されています  作者: 狭山ひびき
冷徹王弟殿下の素顔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/36

青い鳥の絵 8

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

 怒りが収まらないままソルフェーシア伯爵家に到着すると、出迎えた伯爵夫人が目を丸くした。


「これは閣下。主人はただ今留守ですが……」

「今日は伯爵に用があって来たのではなく、アンリエッタに用事があって来ました」

「まあ、あの子に?」


 伯爵夫人は不安そうにクラウスを見たが、仕方なさそうにメイドの一人にアンリエッタを呼んでくるように伝える。

 応接間に通されて少し待っていると、幼いアンリエッタがメイドに抱き上げられて部屋に入って来た。

 床に降ろされると、少しふらつきながらアンリエッタがスカートをつまんで挨拶をする。


「ごきげんよう、かっか」


 本当に、しつけがよく行き届いている娘だ。クラウスは感心しつつ、母親の隣にちょこんと腰かけたアンリエッタに視線を向けた。


「突然すまない、アンリエッタ。先日ジョルジュ殿下から絵をもらったと思うんだが、その絵は今どこに?」

「おへやにかざっています」

「そうか……」


 クラウスはわずかに逡巡したが、可愛い弟のためだと言い聞かせて、できるだけ怖がらせないように声のトーンを考えながらアンリエッタに話しかけた。


「大変申し訳ないのだが、先日ジョルジュ殿下が贈った絵は、ほかの人のものだったんだ。返してもらうことはできるかな?」

「あら、まあ……それは大変ですわね」


 伯爵夫人が頬に手を当てて、それからアンリエッタを見た。


「アンリエッタ、お返しして差し上げてもいいかしら?」


 アンリエッタはにこりと笑うと、大きく頷いた。


「はい。ほかのかたのものをもらったら、どろぼうになりますからね」

(本当に聞き分けのいい子だ。十分の一でもいいからジョルジュも見習ってくれないだろうか)


 もっとごねられることを想定していたのに、あっさりとアンリエッタが絵を返してくれて、クラウスは逆に申し訳なくなってくる。


(幼い子供からプレゼントを取り上げるなんて……)


 自己嫌悪に浸りながら、しかし弟の大切な絵は取り返してやらなければならないと、クラウスはそっとアンリエッタの頭を撫でて眉尻を下げる。


「代わりのものをまた持って来るから。ありがとう、アンリエッタ」

「はい!」


 アンリエッタから絵を受け取って、クラウスはチクチクと痛む胸を抱えながら城へ戻ると、急いでリシャールの部屋へ向かった。

 部屋にはレナの姿もあって、二人そろって仲良く絵を描いている。

 レナはクラウスの存在に気付いたが、相変わらず集中しているリシャールはまったく気づいた様子もなく、一心不乱に筆を動かしていた。


「クラウス様、どうされたんですか? ……その絵は……」


 レナが静かにソファまで移動してきて、クラウスが持っている絵を見て目を見開く。


「君の大切な絵だろう? 取り返してきた」

「ええ⁉」


 驚きの余り声を上げると、レナの声に反応したリシャールが顔を上げる。


「兄上?」

「ああ、リシャール。集中しているところ悪いな」

「いいけど……その絵、どうしたの? 確かそれ、もうアンリエッタに届けられているはずだよね? まさかアンリエッタから奪い取ってきたの?」

「う……」

「いくらなんでもそれはないよ、兄上」


 リシャールがあきれ顔を浮かべると、クラウスはバツが悪そうに視線をそらせる。


「た、大切な絵だと聞いたから、ついな……」

「そうだけど……、ちょっと待って!」


 リシャールは部屋の中から白い鳩を描いた絵を持って来るとクラウスに渡した。


「どうせ頭に血が上って暴走したんでしょ? 兄上は怒ると冷静になるように見えて、全然冷静じゃなくなるんだから、あんまり怒らないようにしないと駄目だよ。とりあえず、これ。レナの絵みたいに可愛くないけど、お返しにこれをあげてくれる? ちゃんとアンリエッタに謝るんだよ?」

「……すまない」


 これではどちらが兄かわからないなと思いながら、クラウスはリシャールから絵を受け取った。

 それから、アンリエッタから回収して来た絵を、そっとレナに差し出す。


「陛下や王妃がすまなかった。同じようなことが起こらないように注意しておくから、許してほしい」

「いえ、わたしは……。こんなつたない絵のために、わざわざありがとうございます」

「いや。……可愛らしくて温かい絵だと思うよ」


 クラウスはレナの絵に視線を落として、小さく笑う。


「それから……、陛下が乗り込んできたとき、リシャールをかばおうとしてくれたんだろう? ありがとう」

「……兄上、僕に甘すぎる気がするよ」


 見ると、リシャールが顔を赤くしてそっぽを向いていた。

 クラウスは珍しく照れているリシャールの顔に驚いて、それからもう一度心の中で言った。


(本当にリシャールがいろんな表情を見せてくれるのは君のおかげだろう。ありがとう、レナ)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ