青い鳥の絵 4
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「リシャールはレナの前だと自然と笑うな」
書類を読みながらぽつりとこぼせば、決裁済みの書類を片付けていた側近がクラウスのつぶやきを拾って顔をあげた。
「すっかり仲良くなられたようですね。今度美術館へ一緒に行くお約束をされたとか」
「ああ……。私はリシャールを部屋から連れ出すだけで一苦労なのに、彼女は驚くほどあっさりあの子を外出させることができるようだ」
もちろん二人だけで外出させるわけにはいかないので、クラウスもついて行くつもりでいる。しかし何というか、リシャールとレナの間には二人だけの独特の世界があるように見えて、なぜかクラウスは疎外感を感じてしまうのだ。
「クラレンスが見たらやきもちを焼きそうだな」
「おや、閣下もでは?」
「……そうだな」
クラウスやクラレンスが必死になってリシャールとの距離を縮めようとしているのに対して、レナは僅か半月でその偉業を成し遂げてしまった。
(いや、会ったその日からかもしれないな……)
どうしてだろう。何が違う。クラウスはこんなにも弟のことを心配しているのに、弟が心を許したのは実の兄ではなく他人の伯爵令嬢だ。
「……リシャールはああいう女性が好きなのだろうか」
「はい?」
側近が驚いたように振り返ったが、クラウスは真剣な顔で顎に手を当てた。
「十二歳差か……だが、リシャールにはあのくらいの女性がいいかもしれない」
「か、閣下? 落ち着いて下さい。リシャール殿下はまだ十歳ですよ」
「十年たてば二十歳だ。今から決めておいても早すぎることはないだろう」
「……ええ………?」
「私はリシャールには幸せになってほしい」
「いや、そうは言いましても……いくらなんでも十歳の殿下に二十二歳の女性は……」
「年齢差は問題ではない。リシャールが心を開けるかどうかが問題だ」
クラウスがきっぱりと言い切ると、側近は何か言いたそうな顔で黙り込んでしまった。
「そうと決まれば、レナ・クレイモランのことをもう少し調べた方がいいな。大丈夫だとは思うが、念のためだ」
「閣下……もう少し冷静にお考えになった方が……」
「私は冷静だ。だから調べると言っている」
「そう言う意味では……」
クラウスはサインをした書類を側近に渡しつつ、真面目な顔でこう言った。
「調べてくれ」
「…………ご命令なら従いますが、あとでどうなっても知りませんよ……?」
側近ははあ、と息を吐きだしたが、リシャールのことしか頭にないクラウスは。彼が何を不安に思っているのかさっぱりわからなかった。







