青い鳥の絵 3
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リシャールの読み通り、公園にはクラウスもついてくることになった。
まさかクラウスが本当についてくるとは思わなかったレナは馬車の中で始終ドキドキしっぱなしだったが、クラウスはリシャールのことにしか興味がないようで、しきりに弟を気にしていた。
エルビスがこっそり教えてくれたことによると、リシャールが外に出かけたがるのは本当に珍しいことらしい。彼はあまり自分の部屋の外へ出たがらないのだという。
(十歳くらいの男の子って、むしろ率先して部屋の外に出たがるものだと思うけど、リシャール殿下はずいぶんと内気な方なのね)
話している分には、溌溂とした年相応の男の子と言う感じがするのに、不思議なものだ。
馬車が公園に到着すると、人の邪魔にならないように、隅の方へ移動する。川の側の公園はとても広いので、人の姿はまばらに見える。これなら安心して鳥を探すことができるだろう。
「あ、あそこに白い鳥がたくさんいますよ! 鳩ですかね?」
さっそく見つけてレナが指さすと、リシャールがさっとスケッチブックを取り出した。
誰かが餌をまいたのか、白い鳩が一心不乱に地面をついばんでいる。
リシャールの横でレナもスケッチブックを開くと、それを見ていたクラウスが目を丸くした。
「そうしていると、姉弟に見えるな。行動がそっくりだ」
絵を描かないクラウスは退屈だろうと思ったのだが、スケッチするリシャールを見ているだけで満足なようだ。
白い鳩のスケッチを終えると、別の鳥を探して公園を歩く。
結果、四種類の鳥のスケッチを終えて、リシャールが満足そうな顔をした。
「たくさん描けたよ。ついでに川の様子もスケッチして行こうかな」
「いいですね! 行きましょう!」
「こら、走るなよ?」
レナとリシャールが手をつないで川の方へ向かうと、クラウスがあとを追いかけて来る。
そうして、日が傾くまでたくさんのスケッチをして城に戻ると、時間を見て、クラウスが申し訳なさそうな顔をした。
「契約の時間をずいぶんオーバーしてしまったな。すまなかった。特別手当を出しておく」
「いえ、お気遣いなく! 楽しかったですから!」
「そういうわけにはいかない。これも契約だ」
さすがクラウス。きっちりしている。
家まで送ると言われたので恐縮しつつも同じ馬車に乗り込むと、リシャールの前以外ではいつも厳しい顔をしているクラウスが、ふと表情を緩めた。
「今日のリシャールは楽しそうだった。あんなに楽しそうな弟を見たのは久しぶりだ。ありがとう」
レナはふと、以前から感じていたクラウスとリシャールの間にある、少し他人行儀な空気のことが気になったけれど、踏み込んで良い問題ではない気がしてただ微笑む。
「君がいると、リシャールはよく笑うようだ。できることならずっと、君にはリシャールの側にいてほしい」
「もちろん、お望み頂けるなら……」
「そうか。助かる」
クラウスは一度口を閉ざして、そして意を決したように言った。
「君から見て、リシャールのことで何か気づいたことはないだろうか。何でもいいんだ」
「気づいたこと、ですか?」
クラウスとの関係性には触れない方がいいだろう。
レナは考えて、それから答えた。
「部屋からお庭を見られるのは好きみたいですが、お庭に下りるのは嫌いなようです。何かあったのでしょうか?」
クラウスはハッとして、それから眉尻を下げた。
「そうか……。いや、心当たりはあるが、こればかりはどうしようもできないのかもしれない」
これも踏み込んでいい問題ではなかったようだ。
レナは、どこか傷ついたような顔をして窓の外に視線を向けたクラウスの横顔を、ただ黙って見つめたのだった。







