青い鳥の絵 2
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「レナってさ、クラウス兄上のことが好きでしょ?」
リシャールが唐突にそんなことを言ったのは、レナが城へ通うようになって半月ほど経ったころのことだった。
「ぶはっ」
リシャールと休憩を取っていたレナは、口に含んでいた紅茶を盛大に吹き出した。
エルビスが笑いながら、紅茶が飛び散ったテーブルを拭いてくれる。
レナが恐縮して「すみませんすみません」と頭を下げると、リシャールがくすくすと笑った。
「レナっておもしろいよね」
「どこがですか!」
「うーん、感情が全部顔に出るところ? ただ兄上は鈍感すぎるから、たぶんちっとも気づいていないんだろうけど」
「で、殿下、それは……」
「別に兄上には何も言ってないよ? ただ、レナは本当に兄上が好きだなあーってしみじみ思っただけ」
「うぅ……」
十歳の子供に指摘されるとは思わなかった。
(好きっていうか、憧れなんだけど……)
六年間ずっと憧れてきた。そしてここに来てリシャールに微笑みかけるクラウスの笑顔にときめいている自覚もある。しかし、リシャールに気づかれるほどわかりやすかっただろうか。
リシャールはキラキラと瞳を輝かせて、ずいっとレナの方へ身を乗り出した。
「ね、協力してあげようか?」
「きょ、協力ですか? そんなわたしなんかが恐れ多い! わたしはクラウス様を見ているだけで幸せなので、とんでもない!」
「えー、いいと思うんだけどな」
「お、お気持ちだけで。それからこのことはどうぞご内密に……」
「レナがそう言うなら、まあ……」
少し不満そうな顔で、リシャールが頷く。
「それより殿下、次は何を描きますか?」
一枚の絵が仕上がり、キャンバスはまた真っ白なものが用意されている。
リシャールは「うーん」と首をひねって、動物にしようかなとぽつりと言った。
「動物ですか?」
「うん。鳥とか。そうそう、クラウス兄上はあれで可愛いものが好きなんだ。鳥とか花とかね!」
「まあ、そうなんですか?」
思いがけずクラウスの好きなものが聞けて、レナはつい身を乗り出してしまった。
「うん、だからさ、鳥の絵を描いて兄上にプレゼントしようよ」
「それはいいですね!」
「もちろんレナも描くんだよ」
「え……でも、わたしの絵なんて……」
「いいから! 兄上、絶対に喜ぶから! ね?」
現金なもので、クラウスが喜ぶなら描こうかなという気になる。
「じゃあ、鳥をスケッチしよう。でも、窓から鳥が見つかるかな……」
リシャールが窓外を見やって難しそうな顔をする。確かに、窓から鳥を探すのは至難の業だ。
レナは考えて、ポンと手を打った。
「南の川の近くの公園なら、鳥がたくさんいますよ!」
「公園……」
「お嫌ですか?」
「うーん……そうだな。たまには行こうかな。エルビス、兄上に許可を得てくれる?」
「かしこまりました」
エルビスが嬉しそうに笑って、急ぎ足で部屋を出て行く。
ややして、クラウスが慌ててリシャールの部屋に飛び込んできた。
「公園に行くのか、リシャール」
その慌てぶりにレナは目を丸くしたが、リシャールはこうなることがわかっていたようで、苦笑を浮かべて「うん」と頷く。
「すぐに手配しよう。少し待っていろ」
そう言ってクラウスが部屋から飛び出して行くと、リシャールはやれやれと肩をすくめた。
「あの様子だとついてきそうだね。兄上ってば、仕事はいいのかな……」