仕事もらいました 6
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本日は21時にも投降します!
会議が終わるや否や、クラウスは会議室を飛び出した。
兄のジョージル三世が用事があるようだったがそれすら無視してリシャールの部屋に急ぐと、部屋の前にリシャールの側近のエルビスが立っていて、クラウスを見つけて「しー」と口元に人差し指を立てる。
「どうした?」
小声で訊ねると、エルビスは目尻に皺を寄せて笑って、部屋の扉をほんの僅かだけ押し開けた。
クラウスがその隙間から中を覗き込むと、リシャールが満面の笑顔を浮かべてレナと話している姿が見える。クラウスでさえ久しく見ていない弾けんばかりの笑顔だ。
(な……)
クラウスがあんぐりと口を開けると、エルビスが小声で「私が戻って来たときはすでにあの様子でした」と教えてくれる。
(いったいどんな魔法だ⁉)
クラウスは自分の目が信じられなくて手の甲で目をこすってみたが、目の前の光景は消えなかった。
「お話が合うようですね。あの方のお人柄もあるのでしょうが」
「そ、そうか……」
リシャールが会いたがっていたから連れて来させたが、レナ・クレイモランと言う女性は、思っていた以上にリシャールにいい影響を与えるかもしれない。
(私でもリシャールの笑顔を引き出すのは至難の業なのに……)
小さな嫉妬を覚えてしまうのは、弟を喜ばせるためにクラウスがいつも四苦八苦しているからだろう。
周囲に気を遣いすぎるリシャールが、純粋に喜ぶ姿というのは本当に稀なのだ。喜ぶふりはよくするが、そのくらいはさすがに兄なので見分けがつく。
「何の話をしているのだろうか」
「それはわかりませんが……きっと絵の話ではないでしょうか」
「そうかもしれないな」
絵をたしなまないクラウスにはわからない会話かもしれない。
「あのような方がリシャール様のお側にいらしてくれれば、リシャール様も少しは肩の力が抜けると思うのですが……」
「私もそう思う」
レナ・クレイモラン。
彼女は思っていた以上の拾い物だったかもしれない。
クラウスはちらりと自分の側近を振り返った。
「今からいう書類を至急揃えてくれ」
今日この一日だけでレナを手放すのは非常に惜しい。
(リシャールのためには、彼女が必要だ)
彼女こそ、リシャールの傷ついた心を癒してくれる存在かもしれない。
クラウスはそう確信していた。