第七十一話
鳳凰院の右手に収まっている主から眩い光が発される。眩しすぎて前が見えない。
体を犠牲にして力を貸してもらうと言っていたが、死んでしまうのではないか?
光が収まると、鳳凰院姿が消えていた。円卓の上には主がポツンと載っている。
「うわ、なんだ! 俺の魔石が!」
騎士の一人が胸元を手で押さえている。その手から水色の半透明な物体が飛び出して、主に張り付いた。
魔石が主に引き寄せられているんだ。
それから騎士団の、全員の魔石が吸収されてしまった。ココも奪われてしまったみたいだ。
俺も慌てて胸元を抑えるが、コルハジャは微動だにしていない。
(コルは引き寄せられないのか?)
(我は魔石じゃないからな。魔石に扮した魔物なんだ! すごかろう)
コルハジャは魔石に化けた魔物だから吸収されないみたいだ。
神たちも固唾をのんでその様子を見守っている。神は現実世界に直接手出しができない。俺もどうしたらよいのかが分からない。
すると、俺の後ろから流星群のように無数の魔石が飛んできた。俺はそれを避けようとしたが、魔石の方が人間を避けて主の方へ飛んで行っているみたいだ。
その勢いは止まることを知らず、主は大きさを増してゆく。
「クリハラ、このままじゃ教会が破壊されてしまいます、一旦逃げましょう」
「そうだな。全員教会の外に出てください! 押しつぶされてしまいます!」
騎士団もその可能性に気が付いたみたいで、教会の外に走り始めた。俺たちも外に続く。
外には大勢のエルフがいた。光の柱を見に来たのだろう。今は自分の魔石が教会の中に吸い込まれたことで混乱に陥っている。
無数の魔石が人々の間を縫って、教会に吸い込まれていっている。
「エルフたちを避難させてください。お願いします」
「ああ、わかった」
俺は騎士団の青年に、エルフを避難させるように言った。手際よく騎士団全員で遠くまでエルフたちを誘導していった。メトカーフ王国の騎士団はこの国でも知られているらしく、エルフたちは大人しく誘導に従っていた。
神々もいつの間にか外に出ており、教会を眺めていた。
教会から異音が聞こえ始めた。すでに中が魔石で満たされて一杯一杯なのだろう。
俺は飛んでくる魔石を掴んでみたが、すさまじい力で引っ張られて、俺まで教会の中に飛んで行ってしまいそうになる。
「さて、私が選んだ勇者さんっ、巫女さんっ。この状況を解決できるのは君たちしかいなくなったねっ。よろしく頼んだよ。これはズルかもしれないけどっ、私の守りを再上限まで使ってあげるっ」
いきなり身体に力が湧いてくるのが分かった。
ココも自分の身体を見つめている。同じ現象が起こっているのだろう。
「これでレベルは999になったはずだよっ」
「あ、ありがとうございます?」
999? アルルさんの話ではレベル100ですらほとんどいないみたいだったが?
「あらあら、タルマハジャさん、神としてちょっと干渉しすぎじゃないの?」
人魚の神がタルマハジャ神に言った。
「いいんだよっ。私はもうすぐ引退するからねっ」
「あ~、なるほど、そういうことね」
神が人にここまでの力を与えるのはやりすぎなのかもしれない。
「タルマハジャ神、もうすぐ引退するんですか?」
「タルで良いよっ。そう。私は引退する。どういうことかというとねっ、ホウオウイン君を私の後釜にすれば、現実世界に手出しができなくなるからそうさせるんだっ。神とは言っても、ほとんどバランスの調整くらいしかできることが無いからっ。少なくとも、私達に下した命令は無効になるっ。異世界への扉は私達の意思とは関係なく開きかけちゃってるけどねっ」
俺と違わないくらいの年齢には見えるが、神を呼び捨てにするのは違和感があるな。
なるほど、今も「鳳凰院グループの命令に従え」という命令と「地球とこの世界を繋げ」という命令は今も有効なんだ。俺が「鳳凰院の言うことを聞くな」という命令を下したのは、それらの命令が下された後だったのだから。
「だからねっ、ホウオウイン君が神にさせられても抵抗できないくらいにして欲しいんだっ」
「分かりました」
——俺が応えた瞬間、教会が崩壊した。石の塔の下部が崩壊し、上部が崩れ落ちてくる。
(コル、全員をバリアで守ってくれ)
(了解!)
透明なドームが俺とココと神々を囲うように展開する。
落ちてきた岩や瓦礫はバリアがはじいてくれた。そのお陰で誰も怪我をしなかった。
教会の中からは大きくなった主——ではなく、人型の魔石の塊が出てきた。虹のような美しさはなく、数々の色の魔石が重なってどす黒い色をしていた。ただ、その中でも、人間に置き換えると目にあたる部分には金色の魔石が集まって目立っていた。
あれが、身体を失った鳳凰院だということは分かる。
背丈は巨人の神より少し高いくらいだ。




