第六十六話
オーウェンさんは騎士団に状況確認をしている。それが終わったら、宝物庫を探すみたいだ。
その間に俺は片っ端から一階にある扉を開いていく。
地下に繋がっていそうな部屋は見つからない。女王は鍵穴の場所を教えてくれなかったから、それなりに分かりやすい場所にあるのだと思ったがなかなか見つからない。
机やソファのある応接室のような部屋しかない。来客は一階にある部屋に通されるのだろう。
「クリハラ君、場所が分かったよ。おそらく、カーペットの下だ。私が前に来た時は、このカーペットが無かったからね。よし、カーペットをめくってくれ」
動ける騎士たちが、赤いカーペットをめくっていく。少し荒い石の床が出現する。
「あった。あそこだね」
オーウェンさんが、螺旋階段のすぐそばの床を指さしている。
そこに小さく穴が開いている。改めてみればそれなりに目立つ。
鳳凰院がカーペットを敷いて、鍵穴を隠したのだろう。
「鍵を入れてみましょう」
オーウェンさんが恐る恐るその穴に鍵を近づけていく。
——突然、自分の身体が揺れたような気がした。
地震か?
オーウェンさんは鍵穴からバックステップで距離を取った。
岩が変形し、螺旋階段を囲むように円形の穴が開いた。
そして螺旋階段が回りながらその穴に入って行った。地下への階段ができた。
「……鍵を近づけるだけで良かったのか?」
いや、そんな仕組みになっているなら、鍵を持ち運ぶだけで危険だ。
地下への階段ができた理由は分からないが、行くしかないだろう。罠かもしれないが。
「オーウェンさん、私が行きます」
騎士団の面々が立候補してくる。危険な雰囲気を察したのだろう。だが、それをオーウェンさんが制する。
「いいや、僕が行くよ。クリハラ君も待っていると良い」
「そんなことさせられませんよ」
オーウェンさんは肩をくすめた。
俺たちは魔法で灯りを灯し、階段を下った。
扉があり、それを開くとまず目に入ったのは黄金だった。金の延べ棒やコインが西大付属にあった体育館くらいの大きさの空間に隙間なく積み重ねられている。花を添えるように宝石が散らばっている。武器の類や、書物の類もある。
「やあ、繰原君と……」
「僕はメトカーフ王国の騎士、オーウェンだ。お前は?」
黒髪の男は金塊の上に座っていたが、悠々と立ち上がった。
「ボクは、鳳凰院光也。そこの繰原君のマブダチさ。次世代の唯一神でもあるね」
「唯一神……そんなものがこの世界で存在できると思うのかい?」
「ボクの見立てでは可能だよ」
——鳳凰院
黄金の瞳は人によっては魅力的に見えるらしい。その瞳に惑わされたせいで破滅した人間も大勢いる。
まさに金貨みたいな人間。
俺は魅せられたわけではないが、破滅させられた人間だ。
学校ではあいつを目に入れないようにしていた。意識するだけで殺意が湧いてくるからだ。この世界に行くことができるようになるまで、問題を起こすわけにはいかなかった。
あいつも俺のことなんてどうでも良かっただろう。
俺がココにこの世界に連れてこられるまでは。
「じゃあ、繰原君と騎士オーウェン、歓迎しようじゃないか。ボクの隠れ家へ。良い空間だろ? バレなければそれに越したことはなかったんだけれどね、もう鍵も鍵穴も見つかった状態じゃあ隠れても意味が無いからね。こちらから案内したというわけさ」
俺は歯を噛みしめ、手を握りしめる。
「クリハラ君……大丈夫?」
オーウェンさんが心配して俺の顔を覗き込んでくれた。それで頭に上りかけていた血が引いていくのがわかった。
「だ、大丈夫です」
「顔色が悪そうだけど、まあ、色々準備したし、楽しんで行ってよ——強制服従カリスマ」
おもちゃを初めて買ってもらった少年のように鳳凰院は笑った。
おそらくスキルを使ったのだろう。
宝物の下から、武骨な岩が飛び出てくる。岩が完全に姿をさらす。人型だった。
「ゴーレムだ。気をつけろ。彼らは粉々になるまで動き続ける……しかもこれは……」
「騎士さんはご存じのようだね。これは伝説のゴーレムさ。普通は単調な動きしかできないが、高度な知能が魔法で構成されているため、複雑な動きが可能になった古代兵器さ。まあ、感情が邪魔して兵器利用はできなかったみたいだけどね。ただ、ボクのスキルと合わせれば敵なしじゃないかな。楽しませてもらうよ……ゴーレムたち、行け!」
「リョウカイ、ホウオウインサマ」
ゴーレムは甲高い声で喋ると、俺たちに向かって歩き始めた。イメージと違って俊敏に動いている。これが古代兵器たる所以か。
だが、関係ない。俺はあいつを殺せさえすればそれで良い。
俺の心はそれだけを訴えていた。




