第六十五話
俺たちはエルフたちから鳳凰院の場所を聞き出して、そこに行ければそれでよい。相手に負けを認めさせればそれで十分だ。できる限り怪我を負わせるわけにはいかない。
迫り来る美丈の剣士たちの正面に立った。オーウェンさんに習った通りに戦う。だが、相手の攻撃を避けたと思えば、水が流れるように次の攻撃が迫ってきていた。なかなか対処のしずらい動きだ。
「習った動きばかりじゃ、剣が上手いとはいえないよ。相手の動きを読んで臨機応変に動かないとね」
オーウェンさんは剣のつかで相手の腹を突いたり、蹴りをかましたりしながら、相手を無力化していっていた。
「わかりました! やってみます!」
剣を初めて習った時のことを思い出すなあ。
攻撃を避けることだけに集中して、相手の動きを読む。右下に斬りつけて体を右回転させて、また振り下ろして、突く。ただそれだけを繰り返している。相手の動きに動揺していたが、相手には意表を突く気が全くない。
美しい顔に似合わず、目に光がない。やっぱり鳳凰院に従わされているだけなのかもしれない。
俺はオーウェンさんに習って、相手に隙ができるのを見計らって剣のつかで腹をついた。そうすると、相手のエルフは蹲って動かなくなった。
それからは同じようなことを繰り返した。
オーウェンさんは俺よりも素早く、多い人数を無力化していた。残りはルーナリアの女王のみだ。
流石だ。モンスターを倒すときには自分との差を感じなかったが、対人戦になるとレベルが違う。
「王よ。この騒動の主犯の場所を教えてはくれないか?」
「死んでも言いませんよ」
女王は全く動じない。
「そういえば、お孫さんがいらっしゃいましたよね。彼は元気にしてますか?」
孫⁉︎ 孫がいるのか⁉︎ 控えめに言って二十代後半程度にしか見えない。
「元気ですけどそれが?」
「彼は今のこの国を見て笑いますかね?」
女王の余裕の表情は崩れなかったが、目から水がこぼれ出していた。涙だ。
「泣いてますね……」
「もうひと押しだよ……女王よ、民にも家族がいます。そこに貴賤はないはずです。あなたらわかるはずだ」
女王は数秒固まると、肩を振るわせ始めた。
「私は、私は何をしていたんでしょう……あの極悪非道に屈するなんて。ごめんなさい目が覚めました」
今までのぼんやりした雰囲気と違い、凛としていた。
鳳凰院による洗脳が解けたみたいだった。
鳳凰院はカリスマ性で人を惹きつけてはいたが、ここまで不本意なことをさせられる程だったか?
「そうだ、孫を人質に取られて、仕方なく洗脳されることにしたんです! 助けないと!」
「洗脳される、とはどういうことですか?」
オーウェンさんが問う。
「あやつのスキルです。カリスマ、と言っていましたかね。強制的に相手を従わせるんです。心まで変えてしまいますから、自力で抜け出すのは困難です」
「なるほど、厄介な力ですね」
あいつが使っているならかなり厄介なスキルだな。鬼に金棒だ。
「鳳凰院は今どこに?」
「あやつは宝物庫にいます。この塔の地下です」
「やられた……! 確かにそこも安全だ。行こうクリハラ君。場所がわかった以上やることは一つだ」
「そうですね」
宝物庫か。灯台下暗しも良いところだ。そこに篭ればかなり安全だろう。
「王、我々に協力要請をしてください」
「そうね。メトカーフ王国騎士団に、王として協力を依頼します」
「この騎士オーウェンが承った。お孫さんは僕にお任せを」
オーウェンさんが一礼した。俺もそれに倣う。
俺たちは階段を駆けた。
「あ、これ! 洗脳される前に隠しておいたんでした。これをあなたたちに」
女王は胸元から大きな鍵を取り出して、オーウェンさんに手渡した。
「これは?」
「宝物庫の鍵です。仕事は完遂するように」
「もちろんです」
俺たちは階段を下った。
「しかし、あの王は凄まじい意志力を持っているね。兵たちは生気を根こそぎ奪われたような感じだったのに、洗脳を解く事ができる上に、鍵を隠しもち続けるとはね」
「そうですね。王はなるべくしてなっているんですね」
俺は豪快に笑うメトカーフ国王を思い浮かべる。
「何か言いたい事があるのかい?」
「いやっ、なんでもないです」
王を少しでも侮辱するような事を言うと、オーウェンさんがかなり怒る。言わないほうが良さそうだ。
階段を下り切ると、モンスターの死骸が転がっているのが見えた。
手当されている騎士もいるが、ほとんどが無傷だ。
「さて、宝物庫はどこかな?」
俺とオーウェンさんは目を凝らした。




