第五十六話
「……それと、この現象は会議文書によって引き起こされたものみたいです」
「会議文書がまた盗まれたのか?」
王城で管理されていたはずじゃないのか。
「いいえ、誰かが、別種族が保有している会議文書を使用したんじゃないかとのことです。会議文書はそれぞれの種族用に存在しているみたいなんです」
他の種族用の会議文書が複数存在していたのか。俺たちは人間だから、人間用の会議文書を管理するだけで安全が確保できたんだ。
「じゃあ、これは別種族が会議文書を使って攻めてきてるってことか」
ココはかぶりを振る。
「このブシ達の見た目が完全に人間です。エルフが会議文書を発動したときは「ダークエルフ」が現れたらしいですから」
「そうなのか……じゃあ」
「ヨドガワの時と同様に、人間が途中で発動者に成り代わったと考えれば納得がいきますね」
ダークエルフか……見てみたいな、じゃなくて。
他の種族が発動して、人間が成り代わったのか。
発生したのが武士なら、成り代わったのが日本人だと考えるのが順当か。
この世界に残っている日本人は、俺、朝比奈、淀川、鳳凰院だと考えると、成り代わったのは鳳凰院か。
「たぶん、武士を発生させたのは鳳凰院だな」
「私もそう思います。どうしますか?」
心配そうにココは俺に聞いた。
「今までと同じだ。止めるだけだよ」
「そうですか。それなら、良いんです」
「ココ、何か心配なことでもあるのか?」
「いいえ……どうします? ブシ達の発生源に鳳凰院がいると思います」
淀川もゾンビの発生源から動けなさそうだったから、今回も同じだと考えよう。じゃないと目途なんてつけようがない。
「とりあえず、隣国の方向から攻められている以上、あの国に向かうのが良いのかもな」
「そうですね。向かいましょう。この国を守るにしても、発生源を止めないとどうしようもありませんから、あっちはエルフの領土ですね」
俺は日本刀を腰に差した。
エルフの危機は俺の危機だ。
「行こうか」
「ええ、行きましょう」
剣や防具を冒険者ギルドに取りに帰る時間はない。ココは長距離をスキルで移動したばかりだし、もう一度スキルで長距離移動はできないだろう。
俺たちは一度ココの家に戻って、非常食や装備を袋に詰める。
そして魔法で火を消しながら、門を通過した。
門の先は森が広がっており、暗闇に金色の甲冑が目立つ。思っていたよりも武士は多くない。声もなく、ただ門を目指している。
門付近に集まっていた武士たちが一気に流れ込んできたから、数が多く思えたのだろう。
俺たちを見つけ次第、襲い掛かってきたので、木の棒の先に火を灯した松明で追い払った。
普通のモンスターは刀で斬り伏せていった。
木々の隙間から、月光を反射する湖が見えてきた。
「あのう、たす、たすけて、貰えませんか……」
背後から声が聞こえた。
振り向いて松明を向ける。
「ひい! た、食べないで。何でもしますから」
背の高い美麗な少女が立っていた。
紫色のヴェールを纏っており、谷間や手足の見える煽情的な服を纏っている。肌は浅黒いがつややかだ。耳が長く、尖っており、髪は黒髪だ。
胸が豊満で、思わず目を向けてしまいそうになる。
「大丈夫か? 武士に襲われたのか?」
「ぶ、ぶし……?」
ココが俺の袖を引く。
「クリハラ、気を付けてください。ダークエルフです。凶暴な性格で知られています」
念願の……。感動に目が潤みそうになるが、ぐっとこらえる。
浅黒い肌に尖った耳、確かにそうみたいだ。おおよそ人間とは思えないぐらいに整った美しい顔。
ココが可愛い顔をしているとすれば、ダークエルフは美人だ。
「でも、どう見ても、凶暴には見えないぞ。俺たちに怯えてるみたいだし」
「確かにそうですね。話だけでも聞いてみますか?」
ダークエルフはがくがくと震えて自分を抱きしめていた。
「あの、どうしたの?」
自然と迷子になった子供に話しかけるような口調になってしまう。
「た、食べないんですか?」
「食べないよ」
「そ、そうですか……良かった。あのね、名前はチョン・ルーフっていうの。みんなはルルって呼んでるよ」
さっきとは打って変わって、ほわほわした口調でダークエルフは自己紹介をした。
「俺の名前は繰原だ。それで、どうしたんだ?」
「えっと、えっとね。ルルは逃げてきたんだけどね、いつの間にかここにいたの」
ルルはたどたどしく説明した。
「黒い人たちに襲われたんですか?」
ココが俺の代わりに質問をしてくれた。
「うん。そうなの」
「かなりの距離だな。よくここまで来れたな」
「ダークエルフは体力が人間の数倍はありますからね」
「それはすごいな」
「クリハラも似たようなものだと思いますけどね」
さすがに別種族よりも体力があることはないと思うけどな。
「俺たちは今から、そのエルフの国に行こうと思ってるんだけど一緒に行くか?」
「え、いいの?」
体力があるなら足手まといになることもないだろう。
「いいよ」
「ありがとう、クリハラさん! でも、帰っても、もうみんな燃えちゃってるかも」
「お母さんとお父さんは?」
どうしても子供の相手をしているような気分になってくる。
ルルの表情が急に暗くなった。
「途中ではぐれちゃって……」




