第五十五話
丘を駆け上がってくる男が見えた。
「丘の魔女さん。助けてください、謎の軍団が攻めてきてます」
「だから、魔女じゃない……。分かりました。そっちに行きます」
ココは丘の魔女として知られているみたいだった。確かに似合うな。
詳細は分からないが、何かしらの勢力が攻めてきているのは確かみたいだ。
「ココ、行こう」
「ええ」
俺たちは丘を駆け下りて、壁の方に向かった。
なだらかな下り坂が続いて、突然壁が立っている。痩せた木がところどころ生えている。坂の上で戦闘が起こっている。門を抜けられたみたいだ。
衛兵が対抗していたが、全く歯が立っていない。
軍勢は全員が金色の鎧を纏っており、刀を持っている。形は人間だが、鎧の陰のせいか顔は全く見えない。
軍勢の剣術が卓越していることは見ていればわかる。
見た目は日本の武士でしかない。
(コル、俺のいた世界にもほぼ同じ見た目をした戦士がいたんだ。そいつらは武士と呼ばれていた。この知識で、彼らを助けられないか? )
(承った!)
「効果を表せ!」
衛兵と軍勢との間にある地面が隆起して壁ができた。
「今のうちに逃げろ!」
「わ、わかった。ありがとう!」
動ける衛兵たちは走って逃げ始めた。怪我をして動けない衛兵を助けようと駆け寄る。
「大丈夫か?」
「う、うう……うううう!」
急に衛兵が跳ね起きると、身体が黒く染まり、鎧が木に生える葉っぱのように体の周りに現れた。持っていた槍が刀に変形していく。
俺は一気に距離を置いた。
刀はどうやら、教科書やらアニメやらで見慣れた日本刀と同じデザインのようだ。
淀川の時のゾンビと同様に、軍勢の日本刀で斬られると軍勢と同様になってしまうのかもしれない。思ったより厄介だ。
「こいつらは……なんなんですかっ」
「こいつらは、そうだな……武士だよ」
「ブシ? ですか?」
「俺のいた世界に似たような戦士がいたんだ。そいつらは武士と呼ばれていた。ココ、このことを王城に知らせてきてくれないか?」
「その方が良さそうですね。分かりました。気を付けてくださいよ——瞬間移動テレポート」
ココの身体が一瞬で消えた。
さて、どうしたものか? 壁にある門から大量に武士たちは押し寄せてきているみたいだ。門さえ塞ぐことができれば、騎士団が派遣されてくるまでの時間は稼げるはずだ。中に入ってしまった奴らを全員倒すか。
俺は衛兵によって倒された武士の落とした刀を拾い上げる。今日はデートのつもりで来ていたから剣は持ってきていない。
だが、刀一本でどうにかできる数じゃないのは確かだ。一撃も食らうことはできないしな。
遠くから弓や銃で撃ちぬくことを考えたが、俺の腕じゃまず当たらない。苦手分野だ。
火であぶってみるか? 近くに燃え移ってしまうような民家はないしな。
俺は近くに落ちていた木の枝を拾う。
(コル、武士の持っていた刀は、日本刀と呼ばれていて、その切れ味から近接武器では世界最強と呼ばれていたんだ。この知識で火をつけてくれ)
(最強と呼ばれていたのか……興味がわくな。よし、分かったぞ)
「効果を表せ」
木の枝の先に火が付く。
俺はそれをもって、近くにいた武士に近づけた。
武士は後ずさるが、火に近い部分がドロドロと溶けていった。
なるほど、隣国で火事が起こっていたのは火をつけられたんじゃなくて、こいつらに火をつけるためだったのか。
(コル、ここら一体を焼き払ってくれないか?)
(了解。火をつけたついでにやってやろう)
地面にはくるぶしあたりまでの草が生えている。枯れているものも多いし、燃え広がるだろう。
俺の目の前に巨大な火の玉が現れ、武士たちの方向に火が広がり始めた。
彼らは逃げ惑うが、鎧と刀だけを残して溶けていった。
炎を上手く避けた武士は刀で斬る。だが、鎧のせいか全く攻撃が通らないので、炎がある場所に蹴り飛ばした。火が近くにあるお陰か抵抗はされなかった。
よし、これでだいぶ時間稼ぎができたはずだ。
しばらくして音もなくココが現れた。
「クリハラ、大変です。ここだけじゃなくて、広い範囲でブシが攻めてきているみたいです。だから、そこまで人数が割けないみたいです……え」
ココは燃える丘を見ているが理解が追い付かないみたいだった。
「炎がが効いたからここら一体を燃やしたんだ」
「私の、私の思い出が……」
「ごめん、でも」
「い、いや大丈夫です。私もここに拘っているわけにはいきませんからね」




