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第五十四話

「いや、今までの奴らは同じ世界の出身者としての尻ぬぐいみたいなものだな。鳳凰院は、目の前にしたらそういう気持ちになるかもな」




 ココは顔を伏せる。




「そうですか。でも、クリハラには復讐が似合わない気がしますよ。ケルシャ村の人たちや、サシャたちを思い出してみてください」




 似合わない、か。復讐のためだけに生きてきたようなものなのにな。


 俺は言われた通りに、ケルシャ村の人たちとサシャたちを思い出す。グルードさん、ショーレム村長、メイドのルイさん。全員が親切で、俺に感謝してくれていた。


 サシャも父親も、俺に感謝しくれた。


 復讐しても誰も幸せにならないが、誰かを救えば幸せにすることはできるのかもしれない。


 この世界に来て得た力は、誰かを救うために使うべきなのかもしれない。




 きれいごとじみたことを俺は思った。




「そうかもしれないな……でも、鳳凰院のせいで誰かが苦しむなら、俺はあいつを止めるよ」


「それで良いと思います。そっちの方がクリハラに似合うと思いますよ」




 ココは屈託もなく笑った。


 こんな話をするだけでデートと言えるのだろうか? でも、俺の心臓あたりが暖かくなるような気がした。




 俺はお茶を飲もうとマグカップを持ち上げたが空だった。ココも同じだったようで、目を合わせて俺たちは笑った。




「今から何をしましょうか?」


「誘ってきたのは、ココだろ」


「そう言わずに考えてくださいよ……そうだ、この丘からは国の外が見渡せるんですよ。 見に行きませんか?」




 ココは考えてくださいと言っておきながら、提案してきた。


 メトカーフ王国の外か。この世界自体が新鮮すぎて考えたこともなかったな。見てみたいかもしれない。




「そうしよう」




 俺たちは家を出て、さらに丘を登った。メトカーフ大国は壁に囲まれているが、それよりも高いこの丘の頂上では地平線まで見渡せるみたいだった。


 


「クリハラ、登るのが速すぎますよ」


「そうか?」




 やっぱり、ココは体力が無いな。テレポートのスキルを持っているせいで、普段歩かないからかもしれないな。




 俺が顔を上げると、思いもよらぬ絶景が広がっていた。


 赤色の煉瓦でできた壁が遥か下に見える。あれが国境だ。その先には少し森が続き、やがて巨大な湖が現れる。そのさらに先には奇妙なねじれた建物がいくつも並んでいた。


 あれが隣国か。


 沈みかけた太陽が湖面に反射して美しい。


 


「この景色を毎日見ながら過ごしてたのか。ちょっとうらやましいかもな」




 都会育ちの俺は、こんな景色を見る機会はほとんどなかった。




「ふふ、良いでしょう。心の支えでしたよ」




 自分の居場所を追われたココからすれば、世界が広いことが心の支えになっていたことは想像に難くない。異世界に行ってしまうぐらいなのだから。




「俺も希望が湧いてきたよ。自分の過去がこの世界に比べればちっぽけなものだったと思えそうだ……でも、両親だけはどうにか幸せになって欲しいけどな」




 過去を清算しても、大切なものは置いていけない。




「……ごめんなさい。私が連れてきてしまったばかりに」


「いや、俺が選んだことだし、どうにかして向こうに帰るよ」




 罪悪感を感じているのだろうココの頭に手を載せてやる。絹のように滑らかな髪が手のひらに触れた。


 振り払われるかと思ったが、ココはされるがままになっていた。


 しばらく、無言で景色を眺めていた。


 あのねじれた建物にはどんな生物が住んでいるのだろうか? エルフ? ギルドにいたエルフのお姉さんを思い出して、鼻の下が伸びそうになったが、どうにか堪えた。


 夜になるにつれて、ねじれた建物からは煙が上がり始めた。よく見えないが、煙突があるのかもしれない。




「妙ですね。この時期から暖炉を使うことはないと思うのですが」




 この世界に季節という概念が存在するのかは分からないが、まだ暖かい気候であるのは確かだ。


 この丘に長い間住んでいたココが言うのだから、相当な違和感なのだろう。




「祭り、とかじゃないのか?」


「いいえ。それなら見覚えがあるはずです」




 夕日が沈むと同時に、世界が暗闇に閉ざされた。


 だが、奇妙な建物の形はまだはっきり見えた。


 微妙に光っているのだ。




「あれは……火が上がってるんじゃないか? そういえば、アルルさんが隣国で戦争が起こったって言ってたような気が……」




 俺は昨日のアルルさんとの会話を思い出した。


 王城でもその話題はよく耳にした。




「でも、戦線はもっと遠いはずです。あそこまで侵略されたなら相当な速度ですよ」




 戦慄する暇もなく、危険を知らせる鐘の音が聞こえ始めた。


 あんなに遠いところから鐘の音が聞こえるはずがない。




——鐘が鳴っている、おそらく国境の壁付近だ。

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