第五十二話
「お、おはようございます」
「お、おはよう」
心なしか、ココの髪はいつもより整っている気がする。どこか艶やかで毛先が揃っている。服装はスーツを着ておらず、黒を基調としたフリルの多めな服を纏っている。ゴシックというのだろうか?
俺もこの世界で手に入れた一張羅いちょうらを着ている。お互い初対面みたいだ。実際の初対面は、お互いに対等な人間だとすら認識していなかったのだろうけれど。
なんとなくお互いに気まずくて、いつも通りに喋れなかった。レストランに入って、朝食を注文する。
運ばれてきたワニチキンのサラダを、一定のリズムで口に運ぶ。
ココはカジョの実を突きながら、ガジョマルを飲んでいるみたいだ。好きすぎるだろ。
デートって、男から提案するものだとどこかで聞きかじったことがある……、切り出すか?
「ココ、行きたいところとかあるか?」
提案するつもりが、希望を聞いただけになってしまった。
「ふえ、い、行きたい所ですか? あの、私の家に来ませんか?」
「い、家、か。家……」
女子の家に遊びに行ったことなんてないな。お家デートってやつか。かなりハードルが高い。
それこそ遊園地や映画館なら、話題にも困らなさそうだし、どうにかなりそうだが。
「ダメですか?」
濡れた目で、上目遣いで、顔を覗き込まれる。
どうやら、どうしても家に来て欲しいみたいだ。
断れない。
「良いよ、そうしよう」
「は、はい」
俺たちは無言で朝食を食べ終わると、そのままギルドを出た。
ココの案内で、俺たちは街を進んで行く。王城からどんどん遠ざかっていって、建物自体がなくなっていく。ケルシャ村付近みたいに、畑や牧場が広がっている。見たことない生き物が飼われていて、動物園に来たみたいだ。
「あれは、どんな動物なんだ?」
突起がいくつも生えたサボテンみたいなスライムが草を食べている。
「あれはミルクスライムですよ。見た目は気持ち悪いですが、あの突起から出てくるミルクは絶品ですよ!」
お気に入りだったのか、体を前のめりにしてココは説明してくれた。
「牛みたいなもんか」
「うし、ですか?」
一度話し始めると、俺たちはいつも通りに話し続けることができた。妙な緊張感がなくなったどころか、むしろ楽しかった。
巨大な森が現れ、それを抜けて丘を登ると、ポツンと小さな家が建っていた。
「ここです。到着しました」
「これが、家なのか? 不便すぎないか?」
周りには何もない。
「そうでもないですよ。ここなら結界を張っているので人は来ませんし、食べ物は森にたくさんあります」
格好から勝手に都会暮らしだと思っていたが、意外に野性的な暮らしをしていたらしい。
丘の上に建っている家は灰色の石を積み重ねてできたもので、曲がった煙突が付いている。
俺たちは扉の前に到着する。
「ふう、疲れましたね」
「じゃあ、入って良いか?」
「ダメです! 片付けるのでちょっと待ってください」
ココはカギを開けて中に入ると、すぐに扉を閉めた。
それから十分程度ものすごい物音が聞こえ続けていた。
扉が開くと、頭にちいさな埃を載せたココが出てきた。
「……どうぞ」
「……お邪魔します」
俺はココの頭についている埃を取ってやる。
「ひえっ、何するんですか?」
「埃がついていたから……」
「あ、ありがとうございます」
中は控え目に言って、散らかっていた。
10畳くらいの空間に、色とりどりの布を縫い合わせてできたパッチワークが敷き詰められており、その上には机が載せられており、椅子が一脚置かれている。
なんに使うのかよく分からない道具と本が部屋の隅に山積みになっている。そのあたりに埃が舞っていることから、部屋の中にあるものをとりあえず隅に寄せたのだ問わかる。
典型的な片づけが苦手な人の部屋というかんじだ。
期待していたような女の子の部屋ではないが、まあ、何も言うまい。
「あの、汚くてすみません」
「一緒にかたづけようか?」
「いや、良いんですよ。ちょっと待ってください、お茶出しますから」
ココはよくわからない道具を取り出して、魔法で火をつけた。お茶を作っているのだろう。
俺は一脚しかない椅子に腰かける。
「お待たせしました」
「ありがとう」
ココは机にマグカップを二つ置いた。
「椅子がありませんね……効果を表せ」
ココは光でできた椅子を魔法で作ると、その上にココは座った。
お茶を口に含む。紅茶みたいに甘い香りが口の中に広がった。
「今日はなんで家でデートしようと思ったんだ?」
「仕事の関係じゃなくなった以上、お互いのことは知っておいた方が良いと思ったので。ここなら、落ち着いて過去の話もできますしね」
ココは自分の過去について語り始めた。




