第四十八話
力が溢れかえるのと同時に消費されていくのが分かる。すさまじい生命エネルギーの循環だ。何が起こるのかは分からないが、「力さえあれば、俺の方が正しい」という心の中の主張が、この現象を起こしていることが分かる。
「クリハラ君、何をするつもりなんだ! くたばれ! 早くくたばれ!」
淀川が叫ぶと、巨大ゾンビが一斉に俺を平手打ちしようとする。だが、それは叶わなかった。
同じく巨大ゾンビがその手を受け止めたからだ。
四匹に対して、四匹が対抗しているような構図だ。
俺はなんとなく、自分のスキルが生み出したものだと分かった。
(これは……相手のスキルをコピーしたのか? 前例が無いな)
コルハジャによると、そういうことらしい。名前はエナジーコピーにでもしよう。
「淀川、レベルはいくつだ?」
「レベルは79。あんたよりも絶対に高い。それよりも、何でクリハラ君が私のスキルを使えるの?」
残念ながら俺の方が高いみたいだな。
「お前のスキルが、陰キャの俺でも真似できる程度だったってことさ」
「ふざけるな!」
俺のレベルは100以上。対等な勝負なら負けるはずがない。巨大ゾンビ同士で戦わせておいて、俺が淀川と直接渡り合えば良い。渡り合うといっても、もう淀川には何もできないはずだ。
俺はゾンビたちの首を斬り落としながら、淀川のいる円卓に向かう。
「来ないでよ」
俺は淀川に剣の切っ先を向ける。
「やめて、殺さないで。私は光也に復讐したかっただけなの」
「知ってる。でも、淀川のやったことは、どうしようもない悪だよ」
剣を鞘に戻す。
「わかってくれるの?」
負けを確信した淀川は弁明を始めた。
俺は淀川の綺麗な額にデコピンをした。
「痛っ……」
淀川は額を抑えて、そのまま失神してしまった。
淀川も悪いが、根本的な原因は鳳凰院にある。
湧きだしていたゾンビはドロドロに溶け始めた。巨大ゾンビ達はいつの間にか消えていた。
魔法陣が徐々に消滅していく。
俺は浮かんでいるココの真下にまで走って、落下する身体を受け止めた。
割れたステンドグラスから入ってくる、街灯りだけが俺たちを照らしていた。
「うお、重っ」
「重いって、言いました?」
疲弊はしているが、不敵な笑みで俺のことを見つめていた。
「言ったけど、人類の中では軽い方だと思ってる」
「ふーん。なら良いんです。あの、ありがとう……ございました」
「当たり前だ。ココは大切な仲間だからな」
ココの目からは涙がこぼれだしていた。
「なっ、なんでですか。私は使い捨てられる巫女なんですよ。それに、私の承認欲求を満たすためだけに、業者だって嘘をついて、貴方をこの世界に連れてきて、働かせて……それなのに、それなのに」
なんとなくそんな気はしていたけれど、やっぱり業者なんかじゃなかったんだな。ココの言い方だと悪いように聞こえるが、希望を失った俺にチャンスを与えてくれたとも言い換えることができる。金なんてどうでも良かったし、何より二人でこの世界を見て回るのが楽しかったのだから。
俺の人生は今まで、黙々と復讐心を胸に抱きながら、一人でトレーニングをするだけだった。誰かが傍にいてくれるだけでも嬉しかったのだ。
「俺はココと一緒に何かをするだけで楽しかったんだ。それだけで報酬は十分だよ。お金は全部ココに渡しても良いぐらいだ」
「馬鹿ですよ、クリハラは。普通の人なら、怒りますよ」
「似たもの同士なんだよ、俺たちは」
「……そうかもしれませんね。あの、これからは友人としてやっていきませんか?」
潤んだ瞳で見つめられる。
なぜか俺の心臓の鼓動が早まった。
「そ、そうしよう。俺たちは友達だ」
「はい」
ココはとろけてしまいそうな極上の笑顔を見せると、俺の胸に突っ伏して、寝息を立て始めた。
生贄として、生命エネルギーを根こそぎ使われていたのだろう。
俺はココを床に寝かせて、オーウェンさんの方を向く。
「あ、報酬は全部私がもらって良いんですよね? 言いましたからね」
言い返そうとすると、ココはまた眠ってしまった。
体を回復させるよりも金を優先させるとは……。今日ぐらいは言い返さずにそっとしておいてやろう。
「クリハラ君、大丈夫かい? 君もかなりのダメージを負ったはずだ」
「大丈夫です。スキルが覚醒したせいか、身体が修復されたみたいです」
「頑丈だな……さて、外がどうなったか確認してこようか。後で事情聴取をされると思うが、クリハラ君は、王城に行って休んでくれ。そこの娘とは部屋は別々でな」
言われなくても、そうするというか、医務室でココは治療されるだろう。
どうしてそこまでココにオーウェンさんは執着するんだ。




