第四十七話
目の前にいる巨大なゾンビだけならまだマシだが、周りには本物がうじゃうじゃいる。こいつらに一度でも噛みつかれれば、俺もゾンビになってしまう。
噛まれないように立ち回りながら、巨大ゾンビの攻撃をギリギリで躱す。体力的にはまだ大丈夫だが、このままじゃジリ貧だ。
淀川の額には汗の粒がいくつも浮かんでいる。スキルはただでさえ体力を消耗するのだから、三段階目を発動させ続けるとなると、意識を保つのもやっとなはずだ。あと一撃加えられれば、淀川は気を失うはずだ。
「くたばりなよ、クリハラ君。……効果を表せ」
魔法⁉︎ スキルのインパクトが強すぎて、魔法を使われる可能性を忘れていた。
俺の周りに炎のカーテンが発生する。
後退するが、いつの間にか角に追いやられていたみたいで下がることができない。
(コル、この炎消せるか。これがスマホだ)
俺は、コルに見えているのかわからないが、肌身離さず持っていたスマホをかざした。
(おお、これがスマホか。意外に小さいな。よし、任せろ)
「効果を表せ」
突然俺の頭上に雲が広がると、豪雨が降り注いだ。炎のカーテンは一瞬で消え去った。だが、巨大ゾンビの平手打ちが目の前にまで迫っていた。
さっきの魔法は、俺を焼くことが目的じゃなくて、攻撃を隠すのが目的だったのか。
避けられず、巨大な手のひらが俺を吹き飛ばした。
「……っかはっ」
息ができない。ステンドグラスを突き破って俺は外に放り出されてしまう。意識が飛びそうになるが、ガラスの破片が肩に突き刺さった痛みでなんとか耐えた。
呼吸がしづらい。肋骨が何本か折れたかもしれない。
立ち上がって教会の中をみる。
割れたステンドグラスの隙間から巨大ゾンビがこっちを見ている。
(コル、俺は童貞だ。ヒールしてくれないか?)
(大丈夫か? 死ぬでないぞ、相棒。それは異世界の知識なのか怪しいが、まあ良いだろう)
「ヒ、ヒール」
体が緑色の光に包まれ、痛みが癒えた。すごいな。異世界はよっぽど大きな怪我をしない限り病院送りにはならないで済むのかもしれない。
(回数に限りがあるからな、気をつけるんだ)
何回も大怪我はしていられないか。
俺は肩に刺さったガラスの破片を抜き取った。
痛い。
やっぱり避けるだけじゃなくて、攻撃を躱しながら淀川に接近しなくてはならないな。
脚に鞭打って、ステンドグラスに空いた穴に飛び込んだ。
巨大ゾンビの股をすり抜ける。このまま、淀川のいる場所まで突っ走る。
後10メートルくらいだ。
突然、視界が塞がれた。いや、巨大な壁が急に生えてきたみたいだった。薄汚れたその壁の正体はわかる。巨大ゾンビだ。
俺の後ろにいるやつは別だ。
顔を上げると、三体の巨大ゾンビが立ちはだかっていた。
幻想だから、無限に増やせるのか? それなら本当に勝ち目なんてない。
攻撃を躱し続けていたが、一発攻撃をくらってしまう。飛ばされた俺はハエ叩きのように空中でもう一撃くらった。
床に叩きつけられる。
そのまま受け身も取れずに連打される。もはや痛みが麻痺して何も感じなかった。
……動けない。
「じゃあね、クリハラ君。隠キャは隠キャらしく地面に這いつくばって死ぬのがお似合いだよ」
流石に死んだな、これは。
ごめん、ココ。お前は俺を使って自分の運命を変えようとしてたんだよな。
「騎士オーウェンだ! 狼藉を働くのもそこまでだ。覚悟っ!」
薄れていく意識の中でオーウェンの声が聞こえた。後は任せよう。
剣を振るう音と、戸惑いの声が聞こえる。淀川のスキルについては説明したが、実際に目の当たりにしてみないとその恐ろしさはわからない。それに三段階目なら尚更だ。
自分の体を揺すられるのがわかった。
「クリハラ君、いいのかい? 君の仲間が死にそうだし、僕は君の本当の気持ちをまだ知れてないよ。それに、君はまだ目的を果たしていない気がする……ヒール」
麻痺していた体に痛みが戻ってくる。そうだ、俺はまだ目的を果たしていない。一人の女の子を化け物にしてしまった、俺の人生を壊したあいつ、鳳凰院光也を倒すまでは死ねない。
体が燃えるような、怒りを感じて俺は目を開けた。
体が修復されて行くのがわかった。
「オーウェンさん、その通りです。まだ死ねません」
「良かった、クリハラ君その光は……」
俺の体が青の光を纏っていた。自分でなんとなくわかったが、これはスキルの三段階目だ。どんな能力なのかはわからないが、溢れる力をそのまま解放した。 目の前にいる巨大なゾンビだけならまだマシだが、周りには本物がうじゃうじゃいる。こいつらに一度でも噛みつかれれば、俺もゾンビになってしまう。




