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第四十五話

 俺はオーウェンさんと別れると、教会に戻った。


 痛む心を無視してゾンビたちを斬って、襲われている人たちに逃げる隙を与える。


 


 日はすでに沈んでおり、街灯のみにてらされた街がやけに不気味だ。唸り声と腐臭で満たされている。


 教会からはゾンビが続々とあふれ出してきていた。増え続けるのか。淀川からすればイージーモードでゲームをプレイしている気分なんだろうな。


 俺は剣で道を切り開いて、教会の中に入った。


 円卓の上で淀川はくつろいでいた。


 ココは空中で固定されてぐったりしている。生贄である以上、殺されはしていないはずだ。




「あれ、戻ってきたんだ」




 俺に気が付いた淀川が立ち上がる。神々の円卓に立つなんてずいぶんな傲慢さだな。いや、すでに神にでもなった気分なのか。




「やっぱりお前を倒す方が、手っ取り早いからな」


「無理だってば。幻覚ハーメルン」




 ゾンビの数が急に増えた。おそらく、俺はゾンビの幻覚を見ている。


 


「どう? この状態で私に近づける?」




 俺は足に力を入れて、思いっきり淀川のいる場所に走る。幻覚はすり抜けることができるが、本物のゾンビにはぶつかってしまう。咬まれる前に、そいつらを押しのけて前に進む。淀川に触れることさえできれば俺のスキルを発動できるはずだ。




「そんなめちゃくちゃな……!」


「めちゃくちゃなやり方しか俺は知らないからな」




 ゾンビが一斉に俺を見て口を開ける。




「「「ここから去れ」」」




 かすれた声でゾンビたちにそう言われた。羊の幻覚にそそのかされたときと同じように後退してしまいそうになるが、何とか堪えて前進する。精神の問題は精神で解決すれば良い。事前に予測しておけば、そこまで精神に影響を及ぼされることはない。


 無理やり足を動かして淀川に近づく。


 幻覚のゾンビが俺のことを見ているお陰で、本物との区別がつくようになった。本物を避けて進めば良い。




「来るな! 来るな!」




 整った顔が歪んだ。


 淀川が後ずさるが、もう遅い。俺はそこそこ身体能力が高い。一気に跳躍して、俺も円卓の上に乗る。


 剣で淀川を斬りつける。


 刃やいばが到達するその刹那せつな——




「エナジーコピーの2段階目!」


「弐式にしき!」




 淀川と俺がほぼ同時に叫ぶと、俺の手から剣が消えた。


 ゾンビたちのうめき声や外から聞こえる警鐘の音が消える。真っ白な空間に二人きりになった。


 俺はスキルの2段階目、「相手の性質をコピーする能力」を発動した。特別な素材でできているため、剣で相手を触れるだけでスキルを発動できる。


 それにしても2段階目って、ダサいな。カッコ良い名前を考えとかないとな。


 


 弐式、か。淀川も2段階目のスキルを発動したと見て良いだろう。




「ははっ、残念だね。クリハラ君にもう勝ち目はないから。トラウマを一生見続けることになるよ。ここは心象風景を映すシアターだよ……なんで私までここにいるんだ?」




 この空間に閉じ込められた者は、自身のトラウマを見せつけられることになるのか。でも、俺の目論見通りみたいだぞ。


 俺は自分の身体を眺める。何より目に入るのは大きく膨らんだ胸。細い腕と脚。視界の隅に見える金髪。




「おい、俺のことが見えるか?」


「見えっ、私⁉」


「そうだ。お前をコピーさせてもらった」




 ゴリクラブと戦っている時に、腕がカニの鋏はさみになったのと同様に俺は、淀川の身体をコピーしたのだ。対象の身体に触れることと攻撃を受けることが発動条件だと思っていた。ビンゴだ。


 俺自身が淀川に近くなっているので、淀川のスキルが本人にも作用して、二人でこの空間に閉じ込められたというわけだ。


 かなりこの世界の仕組みも分かってきたぞ。


 生命エネルギーは本人かどうかを判定するマイナンバーみたいな要素もあるんだ。




「陰キャに自分の姿を真似られるなんて不快ね」


「そうか?」




 俺は自分の胸を揉む。マシュマロみたいに柔らかいな……これが本物……記憶に刻んでおこう。


 オーウェンさんの時は慌てていて、堪能する暇はなかった。




「やめなさい! でも、どっちにしろ絶望に落ちるんだから良いか。それくらいは許してあげる」


「わかってないみたいだな。絶望に落ちるのはお前の方だ」




 真っ白な空間が学校の教室に変わった。なんだか懐かしいな。俺も通っていた教室だ。夕日が射しており、風に吹かれたカーテンが揺れている。


 中心には淀川と一人の男が立っている。


 それを見る俺と淀川。この教室には計3人の淀川がいることになる。




 これは淀川の記憶の中だ。




「ねえ、光也。私の気持ちにもう気が付いてるんでしょ」




 記憶の中の淀川は男に言った。


 男は振り返る。


——こいつは、鳳凰院光也だ。


 すべてを吸い込んでしまいそうな真っ黒な髪に金色の瞳。整いすぎて人間味のない顔。


 俺とは違って、すべてが完璧な外見だ。



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