第三十八話
タルマハジャ教は元々メトカーフ王国に昔から根付いている宗教で、浅く広く、信仰されていたらしい。日本人が普段から信仰しているわけでもないのにピンチで神頼みするような感覚だろう。
ところが、最近になって新しく宗派が作られ、過激な活動をするようになったらしい。神を盲信し、魔物が関連する遺跡や遺物を荒らしまわっているそうだ。それによって、被害も出ているらしく、騎士団を動かさざるを得なくなったそうだ。
「それで、冒険者ギルドにケルシャ山を調査するように頼んだんですね」
王は大仰にうなずいた。
「そうじゃ。どうやら、全く関係のない阿呆が荒らしておっただけみたいじゃがな」
朝比奈は自分のためにしか動かない男だ。宗教になんて入らないだろう。
若者の間で普及し始めた新派は拡大し続けているらしい。
「新派は「新生タルマハジャ教団」と名乗っておってな、教義は『信仰による新たな神の選出』らしくてのう、傲慢にも神になろうと若者たちが入団しておるらしい……嘆かわしい限りじゃ」
神を信仰しているにもかかわらず、神になろうとしているのか? 矛盾している気がするが……。
「定期的に神候補の選出を行っているらしくての、それを勝ち抜けば入団できるそうなんじゃ。じゃから……」
「それを勝ち抜いて、入団すれば良いんですね」
「そう、クリハラ君達なら可能なはずじゃ。選出されるのが二名らしいからの、ちょうど二人が勝ち抜けば良い」
ココのスキルは強力だが、戦闘には向いていないな。勝ち残れるか?
「場所は大胆にも城下町にある、遊技場じゃ。その地下で行われるらしい。日時は三日後の日が沈んだ直後じゃ。詳しい場所はオーウェン君から聞いてくれ……重いな」
王は巨大な王冠を外して、膝の上に置いた。
選出の方法は分からないらしい。
俺たちは王城に三日間置いてもらえることになった。
あてがわれた客室は、ギルドのそれとは比べ物にならないくらい広く、ベッドはふかふかだった。
その間、オーウェンさんに稽古をつけてもらい、剣の腕はだいぶ上がった。戦いで団員を選出するのかもしれないし、鍛えておいて損はないだろう。
ココは部屋から出たがらず、オーウェンを特に避けているみたいだった。理由は聞いたがはっきりとした答えは返って来ない。これだけ行動を共にしているんだし、雇やといと雇やとわれの関係とはいえ、そろそろプライベートなことも教えてくれれば良いのにな。
当日、俺たちは庶民的な格好に着替えて、遊技場に向かった。長ズボンに長袖を羽織り、腰辺りで革ベルトを締めた。久しぶりの制服以外の格好だ。
ココもスーツを脱いで、ゆったりとしたワンピースに着替えた。
「……なんですか。欲情しているんですか」
「違うって、ただ、似合ってるなと思って」
ココは顔を赤らめた。俺も言ってしまってから恥ずかしくなって、顔を伏せた。
普通の格好をしたココはただの女の子だった。いや、可愛い町娘といった感じだった。今まで、意識していなかったが立派な異性なのだ。そう思うと、今までどうかかわってきたのか忘れてしまう。
ぎこちないまま、俺たちは王城を出た。
とはいってもすぐに遊技場には到着した。
どこにでもこんな町はあるんだな、と思った。
ネオン、ではないが光る石で装飾された看板が夕空に生えていた。胸元を大胆に出したお姉さんたちが店の前で客引きしており、酔っぱらいたちが騒ぎ立てていた。
悪くない空間だと思う。良い面つらして人を虐げる人種よりも、欲望のままにふるまっている人間の方が見ていて気持ちが良い。
だが、俺たちの目指していた場所はそんな光のせいでできた影みたいな場所だった。
建物の合間に現れた地下へと続く階段の先だ。何があるかも見通せない。
くすんだ「チョモラム酒場」と書かれた看板が置かれている。
俺たちはそこを降りて、扉に手をかけた。
タキシードを着た肌の浅黒い筋肉質な男に出迎えられた。
「いらっしゃいませ。ご用は?」
酒場に用なんて一つしかないと思うのだが、ここはただの酒場じゃない。
「新生タルマハジャ教団の件で」
「かしこまりました。しばらく待ち時間がございますので、お待ちください」
中に入ると、見たこともない世界が広がっていた。
誰もかもがグラスを掲げて、ケラケラ笑っている。キセルをふかしている人も多い。ぷかぷかと煙の輪が飛んだ。
酒瓶がバーカウンターに並んでオーロラみたいに照明を反射して輝いている。
地球では見たことのないゲームや賭け事に興じている人も多い。
学校の体育館くらいの広さはあるな。
空いていた唯一の二席に俺たちは座った。
よく見てみれば、ここにいる人たちはほとんど俺たちと変わらない年ごろだ。
「ドリンクはいかがなさいますか?」
バーカウンターにいる、お姉さんが俺たちに話しかけてきた。
ドリンクって、お酒はまだ飲めないしな。
「お茶、ありますか?」
「あ、私も」
「……承知しました」
メトカーフ王国、とくに歓楽街では未成年飲酒は珍しい事じゃないのかもしれない。
ココもお茶か。金に執着する割に良い身分の出なのだろうか?




