第三十三話
「いや、たまたま当たってしまっただけで、そういう意図は……」
オーウェンは胸を両手で隠して、顔を赤らめたままだ。
「いいんだ。隠さなくても……殿方はそういうことをするものだと聞いているからな。でも、まさか僕がそういうことをされるとは思わなかった」
この凛々しく、イケメンな美丈夫の騎士は、近寄りがたかったがゆえに、心がまだピュアなままなのだ。男からの好意に敏感になりすぎている。
今更否定しても彼女を傷つけてしまうだけだ。
話題をずらそう。
「そうだ! 剣を教えてくださいよ。約束でしょう?」
「剣……わかったよ。それにかこつけてまた破廉恥なことをたくらんでいるのだろう。でも、約束だからな」
非難されているみたいだが、どこか嬉しそうだ。
よし、と言ってオーウェンは立ち上がった。
「始めよう。もし僕の隣に立ちたいのなら、それなりの実力がないと認められないぞ……効果を現せ」
「よろしくお願いします」
オーウェンは魔法で木剣を出現させて、転がっていた木剣を俺に投げて寄越した。
キャッチして、構える。
「まず、実力を測ろう。全力でかかってこい」
声の質が変わった。真剣そのもので、隙が一切見当たらなくなった。さすがは騎士だ。弱いと言われているのはモンスター相手にも正々堂々戦うせいで負けているからな気がする。
剣の扱い方なんてわからないから、とりあえず全力で斬りかかる。
狙いよりも大きく右に逸れる。
「さっきの手合わせのときにも思ったことだが、力を使いすぎて、狙いが定まっていないし、逆に攻撃が弱くなってしまっている。だが、これほどのパワーとそれを振るい続けるだけの持久力は騎士でもそうそういないぞ」
なるほど、力を抜いてみるか。
頭の上をとりあえず狙う。力が乗った感覚がある。剣先がオーウェンの頭上に接近する。
だが、軽い力で弾き返されてしまう。
「こんな感じですか?」
「まだまだだが、方向は合っているぞ。次は別の場所も狙ってみろ!」
足や、胴、腕を狙う。おおよそ思った通りに剣を振ることができるが、全て弾かれる。
「はっはは、君の素直な戦い方は大好きだよ。でも戦いは心理戦だよ。おおきく振りかぶっているせいで、どこを狙っているか丸わかりだ」
予備動作でどこを狙っているのか勘づかれているのか。
確かに、オーウェンの流れるような剣戟は予測不能だ。
俺は真似をして、さまざまな場所を狙っていく。
剣で弾かれてしまうが、防御のタイミングがさっきよりも遅れ始めた。
「良いぞ。それでは僕から剣を教わったと丸わかりだな。後は駆け引きができれば、剣が使えると言っても良いだろうな。フェイントをかけてみるんだ」
オーウェンの口から「フェイント」という言葉を聞くとは思っていなかった。だけれど、その読み合いが上手い人を剣豪と呼んだりするんだろうな。
「じゃあ、やってみます」
俺は頭を狙うふりをして、予備動作なしで胴付近を横に斬ろうとしてみた。
オーウェンは剣を使わずに、体を宙に舞わせて、避けた。
「危ない、危ない。なかなか筋は良いかもしれないね。私の言ったことの精度を磨けば、君の冒険者ランクの依頼でも使えるようになるだろう」
「ありがとうございます」
危なげもなく避けていたくせに。
一休憩した後、俺はオーウェンに練習メニューを教わった。空手の形みたいなものだ。これを繰り返して実践で経験を積めば上手くなれるという。
教えてもらった後に二人で朝比奈がくくりつけられている白馬のいる場所に戻った。
村の娘達の視線が痛い。
「クリハラ、何をしていたんですか?」
ココが暗い目を向けながら聞いてくる。
「楽しいことをさせてもらったよ」
「いやいや、剣の稽古をつけていてもらっただけだ」
わざわざ紛らわしい言い方をしなくても良いのに。
「クリハラは私が雇ったんです。たぶらかさないでもらえますか?」
「むきになってどうしたんだ? 騎士にとって剣の稽古が楽しくないわけないじゃないか。ん、君、僕と会ったことがないかい?」
「……気のせいですよ」
「そうかい?」
爽やかな笑みで、オーウェンは白馬に跨った。
ふたりして何を争っているんだ。
「それでは、クリハラ。いつでも王城に遊びにくるといい。僕の名前を出せば入れてもらえると思うよ。こいつの処遇も任せてもらって構わない。名残惜しいが、また会おう」
「ありがとうございました。ぜひ行かせてもらいます! また会いましょう」
俺は心の中でオーウェン「さん」と呼ぶことに決めた。尊敬できる剣の師匠だ。
白馬は駆けて行ってしまった。
そろそろ、ギルドに戻ってアルルさんに報告するか。報酬もたんまりもらえるはずだしな。
「ココ、俺たちも帰ろうか」
「そうですね。私達にも仕事がありますし。王城にはしばらく行けそうにありませんね」




