第三十二話
俺はオーウェンに遺跡自体が主であったことや、主がモンスターを生み出せる魔石の塊であったことを説明した。
「思ったよりも調べられているみたいだね、やるじゃないか」
思わず照れそうになったが、何とか堪える。
「いや、主を呼び起こした奴がいたんですよ」
朝比奈の悪行も一から説明する。
「なんと……悪逆非道! そいつは今どこにいる」
オーウェンは腰に携えたサーベルを握りしめた。
「いや、もう捕まってます。オーウェンさん、引き取ってもらえませんか?」
「そうなのか……わかった。勿論だ。主はどうなった?」
「俺が魔石を砕いたので、もう何もできない状態だと思います」
「うん、若いのに立派だな。騎士団にスカウトしたいぐらいだ」
オーウェンは俺にウィンクをした。恋する乙女の気持ちが分かってしまいそうだ。それを見た各所で悲鳴を上げて倒れる人が続出している。
俺は地下牢に案内して、朝比奈を引き渡した。ぶつぶつと何かを呟いていたがよく聞き取れない。完全に怯えきっていて抵抗するそぶりも見せないが、一応スキルの説明をしておく。
「それは厄介だが、僕の手にかかれば問題ないよ」
オーウェンは爽やかに笑った。この人は弱いんじゃなかったっけ? 信頼感は半端ないが。
一人称が僕なのか……悪くないじゃないか。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「うん、わかった。君の功績も国王にしっかり伝えておくから安心してくれ」
「それは別に大丈夫ですよ」
「まあ、謙遜するな。君のしたことはそれほど価値のあることだ。評価されるべき人が評価されないとな」
恋愛的にではないが好きになりそうだ。こんな感じの兄がいればいいのになあ、と思ってしまう。
「わかりました、そういうことならよろしくお願いします」
評価されるべき人がされるべきだという考えには大いに賛成できる。
「ところで、君はどんな武器を使って戦うんだい?」
「武器は使わないんです」
「魔法使いなのか」
「いいえ、拳闘士ですよ」
オーウェンは目を見張った。
「それは珍しいな。それでS級の冒険者なのだからよっぽど訓練を積んだのだろう。どうだ、主との戦いで疲れていなければ僕とお手合わせ願えないだろうか」
……そうきたか。
珍しい戦い方をする相手と戦う経験を積みたいのだろう。ストイックだな。
俺はあらゆる武器が使えないから、拳で戦ってるんだけどなあ。
そうだ、武器の使い方はプロに教えてもらうのが一番じゃないか。
「実は俺、剣士になりたくて。手合わせをしたら剣を教えてもらえませんか?」
「剣士になりたいのか! いいだろう、それは僕の専門分野だからね。じゃあ、外に出てやろうか」
俺たちは外に出て、朝比奈を白馬に縄で括り付けると、人目につかない場所に移動した。こっそり様子を見ているひと(ココ)がいるが、それぐらいは気にしないでおこう。
「貸してくれてありがとうね。お礼に全力で行かせてもらうよ。スキルは使わないよ」
ギルドの売店で買った練習用の木剣をオーウェンに貸した。
真剣で斬られたら冗談では済まないからだ。
「こっちも全力で行きます」
背筋を正されるような気分になる。こっちもスキルは使わない。
オーウェンは木剣を上段に構えると、すさまじい速度で間合いを詰めてきた。
逆に俺も接近する。間合いが広いと、拳は届かないが剣は届くので不利だからだ。
よし、これで剣を触れないはずだ。この隙に攻撃だ。
「ぐはっ」
思いっきり膝蹴りをされて、距離を突き放される。
俺が痛みから回復する間にも剣戟は繰り出される。
何とか躱して、蹴りを放つがギリギリ届かない。
片足が浮いている間に足払いをされて俺はひっくり返ってしまう。
全く弱くないじゃないか……。だが、この戦い方は敵が人間であることが想定されている。まさしく武術としての剣術だ。
モンスターと戦えば通用しないだろう。攻撃のパワーはそこまで高くない。
オーウェンの戦い方は俺と真逆だ。
転んだ俺にとどめを刺すために、オーウェンは駆けてくる。一か八かだ。
立ち上がるふりをして手でも腕でもなく頭から飛び出した。
頭突きだ。
「何っ!」
頭に固いものがめり込むのが分かった。
次は前傾姿勢になって、倒れてしまった……あれ? 衝撃に身構えたが、まるでクッションに受け止められたみたいになった。
なんだこの弾力は……。
「……クリハラ君、あ、あの」
顔を上げると、人形のように美しい瞳が目の前にあった。
「うおっ! すみません」
オーウェンは今までの凛とした態度が嘘のように顔を赤らめている。
もしかして、さっきの柔らかい感触は……。
「こういうのは、ナシだろう。僕はただの騎士だ。求められても困る……」
壮大な勘違いをしてないか? この人?




