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第三十一話

 俺の体が炎に包まれ、朝比奈の顔がよく見えるようになった。引きつった笑みが張り付いている。


 少しあったかいくらいで、生命エネルギーが燃やされている気はしない。




「どうだあ⁉︎ これで手出しできねえだろ?」


「残念ながら、俺にそのスキルは効かなくなったみたいだな」




 俺が炎を振り払い、腕を青に変えると、朝比奈の表情は完全に怯えに変わった。


 もう少しだ。




「俺たちのレベル差は10以上開いた。どんな努力をしたところで俺には「守り」があるから、抜かすことはできない。次また正しくないことをしたら、どうなるかわかるよな?」


「正しいことってなんだよ! そんなズルみたいな力で脅すなんて……」


「自分の胸に手を当ててみろよ。それがお前の、お前たちのやってきたことだ。大人しく地球に帰れ」




 朝比奈は一瞬、縋るような目を俺に向けた後、視線を落とした。




「すみませんでした……なんでも言うことを聞くので許してください」


「もう何をして欲しいかは言ったぞ」




 これで少なくとも俺の前で同じことを繰り返したりはしないだろう。


 


(意外と従順な奴だな)


(これがこいつの正体だろうさ)




 コルの言う通り、自分より強い者には従順な奴だと思う。




 俺は地下牢を出て、看護師に朝比奈を冒険者ギルドに引き渡すから、しばらくの間地下牢に置いておいて欲しいという旨を述べた。




「事情は存じて居ないのですが、騎士団に依頼した方が良いのではないですか?」




 この国では騎士団が警察の役割をしているのだろう。それならそっちの方が良いだろう。




「そうですね。それならよろしくお願いします」




 診療所に戻るとサシャの父親が起き上がって居た。


 皆で輪になって話をしているみたいだ。




「クリハラ、アサヒナはどうでしたか?」


「騎士団に引き渡すことになった。これ以上誰もあいつに困らせられることはないと思う」


 


 おお、と歓声が上がった。朝比奈の嫌われようがすごいな。まあ、当たり前ではあるが。




「クリハラ……というのか、君の名前は?」


「そうです」




 サシャの父親に名前を確認された。皴が深く刻み込まれた顔には疲れと、安らぎが半々あるような気がした。




「クリハラ君、君にサシャを守る力が無いなどと言って悪かった。ありがとう、私達を助けてくれて」


「恩に着る」


「ありがとな」




 サシャの父親に次いで、ドワーフとサラマンダーも頭を下げた。




「いや、頭を上げてください。俺はやるべきことをやったまでですよ」


「まるで聖人だな」


「いやっ……」




 違うんだけどなあ。三人から向けられてくる尊敬の視線が、気まずい。悪いことではないし、何も言わないでおくか。


 


「素直に受け入れておきましょうよ」




 ココも同じ目をしている。




「わ、分かった」




 やっぱり慣れないな。




「騎士様が来られました!」




 地下牢まで案内してくれた看護師が、診療所に駆け込んでくる。


 焦っているというよりかは、恍惚としているような……。


 ここから王城に行くには数時間かかるはずだ。やけに来るのが早いな。




「騎士オーウェン様です!」




 そう言って、看護師は倒れ伏してしまった。




「だいじょ……」


「「「えええええええええ!」」」




 俺が駆け寄ろうとした瞬間に全員が絶叫した。




「オーウェンって、あの美丈夫のオーウェン⁉ この国では有名人なんですよ」




 ココも興奮している。


 美丈夫って、イケメンってことか。それで有名ってことなら、アイドル的な立ち位置なのかもしれない。街の平和を守っているならなおさらだ。


 




「強いのか? その騎士は?」


「いいえ、弱くて有名なぐらいです。歌は相当上手いですけどね」




 騎士じゃなくて、本当にアイドルみたいなやつだな。


 診療所にいるほぼ全員が外に飛び出して行ったので、俺とココも後を追う。


 外にはすごい人だかりができていた。若い女子が目立つ。


 ただその中にいても存在感を、というよりかは輝きを失わない人物がいた。




 すらりと首を伸ばした白馬に載っている、金髪碧眼の男。ポニーテールにしている金髪は絹のようにさらさらとしていそうで、碧眼は大きく宝石みたいだ。白を基調とした騎士団の制服を着ている。顔は小さくて、何頭身あるんだ?


 とりあえず、少女漫画に出てきそうな男……いや、胸が膨らんでいるぞ。


 もしかして、めちゃくちゃイケメンな女なのか⁉




「おや、君だね? あの依頼を受けたという、S級冒険者というのは」


「……」


「ん? まあ、見とれるのはわかるけど、質問に答えてもらえると助かる」




 おっと、見とれていた。惚れてしまいそうだ。




「そうです。俺が依頼を受けていたクリハラです」


「うん、報告を聞かせてもらおうか。王からの使いで今日は来たんだ」




 そういうことか、朝比奈をとらえるために来たわけではなくて、依頼の報告を聞きに来たんだ。だからこんなに早く到着したんだ。王からの使いか……S級の依頼がどれだけ重要なのか身に染みる。


 会話をしているだけなのに、この騎士の言葉はすべて美しい詩みたいに聞こえる。

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