第三十話
「クリハラ! クリハラ! 目を覚ましてください!」
重い瞼を開くと、涙目のココが見えた。
俺はどこかに横たわっているらしかった。
「ん……だ、大丈夫だ、ここは?」
「よかったぁ。ここはケルシャ村の診療所ですよ。避難が済んだので、助太刀しに行ったら倒れているクリハラを見つけたんですよ!」
そうだ……俺は主の魔石を破壊した後に倒れてしまったんだ。
周りでは白い服に身を包んだお姉さん達が俺をみている。看護師的な立ち位置の人だろうか?
元気が出てきたぞ。
「主はどうなった?」
「止まってましたよ。もう大丈夫そうです。サシャ達も無事です」
ココの視線の先を辿ると、ベッドに横たわっているサシャやドワーフ、サラマンダーの姿が見えた。
よかった。全員助かったんだな。
朝比奈の姿はない。
「朝比奈は?」
「地下牢に閉じこめてます。まだ目を覚ましてはいませんが」
これで懲りるとも思えないし、目が覚めたら色々わからせてやらないといけないな。あの巨大なゴリクラブを倒したおかげでレベルもだいぶ上がっているだろうし、スキルも一段階進化したから、朝比奈に負ける要素が一切見つからない。流石に、俺の生命エネルギーを燃やし尽くせないだろう。
「後で俺が懲らしめてやるから、よく見張っておいてくれ」
「はい、わかりました。あの、意外でした」
ココの感情は相変わらず、灰色の瞳からは読み取れない。
「何が意外だったんだ?」
「そこまで身を挺して、人を守ると思っていなかったので……」
俺は血も涙もない鬼か何かだと思われていたのか?
「俺は自分が正しと思うことをやっているだけだ。朝比奈のやったことで、人が危険に晒されるのは気に入らない」
ココはふわりと笑った。
「素直じゃない人ですね」
「素直すぎると思うけどな」
何が言いたいのかよくわからないな。
「まあ、とりあえず、クリハラが無事で嬉しいってだけですよ」
「ココも無事そうでよかった……どうして俺にこだわるんだ?」
ネクタイを直して、少し考える仕草をする。
「そうですね、私が選んだ人である以上、クリハラの活躍は私の活躍でもありますから。私も嬉しいんです」
俺の働きで発生する金だけではなく、俺がえる名誉にも関心があったとは。いや、逆にギルドの報酬は名誉の度合いを表しているから好きなのか?
「そういうもんか、ただのビジネスパートナーだと思われていると思ったんだがな」
「クリハラとお姉ちゃんはやっぱり、ぱーとなーなの?」
いつの間にかサシャが俺たちの間に入り込んでいた。
ベッドに顎を載せて、ココと俺を交互に見ている。
「期待してるところ悪いけど、サシャの思うような関係性じゃないぞ、俺たちは」
「そうですよ」
「えー、残念だなー」
サシャはキャッキャと笑う。
「お父さんは大丈夫だった?」
「うん、生命エネルギーを使いすぎて寝込んでるけど、大丈夫だって。クリハラとお姉ちゃん、助けに来てくれてありがとうね。いつかお礼するから」
「お礼はいいよ、やりたいことをやっただけだから」
この子と父親が無事で何よりだ。物おじせず、他人を優先して考えられるこの子が救われて本当に良かったと心から思う。地球にいた頃の俺だったら、助けられずに悔しさを噛み締めることしかできなかったはずだ。
後は朝比奈をどうにかするだけだ。
「あいつが目を覚まして、暴れています!」
看護師の一人が駆け込んできて、叫んだ。
行かなければ。
立ち上がると体の節々が痛んだが、まだ動ける。もう動けるようになった。
「クリハラ、まだ動かない方が良いと思います」
「でも俺がやらなきゃ」
「……気をつけて」
看護師に朝比奈が閉じ込められている地下牢にまで連れて行ってもらった。看護師は怪我をしたまま動いていることが気に入らないみたいだったが、事情を説明するとわかってくれた。
暗く、鉄格子の向こう、一つの松明しか明かりのない空間に朝比奈はいた。
赤色は以前よりもくすんで見えた。
「おい、俺を出せよお! お前らに良い思いをさせてやれるぜえ!」
「朝比奈、お前は馬鹿なのか? 力が強いから、逆らうと怖いからって理由で人は仲間になったりしないんだ」
「はあ? クリハラか。じゃあ、今まで何で俺にみんな従ってたんだよお」
ギラギラした目に松明の光が反射する。
「従ってないさ。あのドワーフとサラマンダーはわざと負けたんだ、サラマンダーに関しては俺のレベルを上げるために、手を抜いてくれていたしな」
朝比奈は俺に手を伸ばして突っかかろうとしてくるが、鉄格子にぶつかって激しい音がなった。
「なん……だと……! ふざけるなよお!」
「学校の奴らだってそうさ、表面上では従っていたかもしれないけど、みんな嫌っていたさ。鳳凰院だって、お前のその滑稽さが面白くて仕方がなかったはずだ」
「鳳凰院さんが……、そんなわけねえ!」
鳳凰院の名前を出した途端にこれか。あいつのカリスマ性はそこが知れないな。
「朝比奈、鳳凰院はお前のことをこう呼んでいたのは知っているか?「中身空っぽの発泡スチロールー」」
「嘘だああああああ! 黙れえ! エターナルフレイム!!」
朝比奈は指を鳴らす。
やめておけばいいものを。俺とのレベル差はそんなものじゃ埋められないぐらい開いたんだからな。




