第二十六話
扉の中は極彩色の光で満たされていた。ミラーボールの置かれたダンスフロアみたいだ。ダンスフロアになんて行ったことはないから、なんとなくのイメージだけれど。
色とりどりの光は部屋に埋め込まれた無数の魔石から発されているみたいだ。
遺跡の中心でサシャの父親がしゃがみこんで、大きな魔石に両手をかざしている。憔悴しているのがわかる。
「クリハラ! お姉ちゃん! 何でここに来たの?」
サシャが駆け寄ってきた。疲れは見えるものの、まだ取り返しのつかないことにはなっていないみたいだった。
「サシャと、お父さんを助けに来たんだ」
「そっか……そっか、ありがとう」
朝比奈が俺たちとサシャ間に割って入る。
「おいおい、あいつら、もう負けちまったのかよぉ、人選ミスだったかあ?」
「お前が人を選ぶ立場にいないってことだろ」
「うるせえよ。クリハラ、今は良いところなんだ。邪魔するな」
「なにやってんだよ?」
朝比奈は両手を大きく広げる。
「お前もここがどういう場所か知って来てんだろ? ならわかるだろ、主を復活させてオレのものにすんだよお!」
「復活って……ここはただの主を祭ってた遺跡じゃないのか」
「違う、ここは主を封印するための場所らしいぜえ。このひげオヤジもそう言ってたしな」
村長も数百年前のことだから詳しいことはわかっていないと言っていたし、そういうこともありうるのか。
村に魔法に秀でた人がいなければ、村人しか立ち入れなかった遺跡の詳細は分からなかっただろう。
それに、サシャの父親がそう言っていたなら間違いない。
「シープローチが大量発生したのも、この人のせいでしょうね」
主が刺激されることで、周辺のモンスターも活性化したのだ。
朝比奈たちも、今までもこの遺跡でコソコソと作業をしていたということか。そこで依頼が来たのをいいことに正面から入ろうとして断られたから、門番たちを脅して無理やり遺跡に入ったのか。
「やめろって言ってもやめないだろ?」
「当たり前だ」
「っは……もうすぐ封印が解けるぞ。これで娘を開放してくれるのでしょうなあ」
「そうか、わかった。勿論約束はまもるぜえ。仲間だもんなあ」
主が復活したら、シープローチだけでなく他のモンスターも活性化してしまうかもしれない。止めなければ。
「サシャのお父さん、やめてださいよ。何が起こるかわかりますよね」
「娘の命には代えれませんし、もう止められませんよ」
「クリハラ、これだけの魔石とつながった状態で中断すると、命にかかわります」
「止める方法はないのか?」
「ない、でしょうねえ。失敗はしないでしょうし」
見守るしかないのか……。
「クリハラ、主を復活させたらだめなことがあるの?」
サシャに聞かれる。
「いや、大丈夫だよ」
サシャは知らないほうが良いだろう。
「効果を表せ」
サシャの父親が、しわがれた声でそう言った。
その刹那、魔石たちがまばゆく輝き、遺跡が揺れ始めた。
バランスを崩しかけた、ココを腕で支える。
主が復活するのか。
(コルハジャ、「寿司には肉を米に載せたものもある」、この知識で俺たちを守ってくれないか?)
(急いでいるみたいだな。任せろ、バリアを張ってやろう)
「効果を表せ!」
透明の膜が朝比奈以外を包むのがわかった。気が利くじゃないか。
遺跡の天井が崩落する。
朝比奈も自分で瓦礫から身を守っているみたいだった。
壁まで崩れ落ちると、青空と、山肌が丸見えになった。
——広場が入った時よりも遥かに低い位置にあった。
「ク、クリハラ、怖いです」
「確かにこれは仕事の範疇に収まってないな」
これは調査どころじゃない。こうなる可能性を見越してS級の冒険者に依頼していたとしたら、正解なのかもしれないが。
(誰だ! 深き眠りから呼び起こした無礼者は⁉)
地響きのような声が聞こえた。あまりの音量に耳を塞いだが、心に直接話しかけられていると気が付いて、すぐにやめた。
「オレだぜ」
朝比奈が返答する。
(この小僧が? 魔石を操るのが上手いとは思えんぞ?)
「じじいにオレが命令したんだ。お前を従えるためにな」
(はっ。愚かなことよ。吾輩を呼び起こしただけでは飽き足らず、従えようとしているのか。もう少し自分の力を自覚するべきだな、小僧)
「なら、実力を見せてやろうじゃねえか。永遠の炎エターナルフレイム」
朝比奈が、遺跡の床に手を触れると、そこから炎が広がって行った。なるほど、この遺跡自体が主だったということか。
朝比奈を倒して、サシャ達を助けることが目的だったが、先にこの主をどうにかしないと、全滅の可能性もあるな。




