第二十話
夜行性なら暗い間は、身体能力が高くなっている可能性が高い。目に見えない速度で動いたのだから、それは間違いないだろう。
俺は何度も触れようと手を伸ばすが、届かない。どうすればいいんだ。不器用な俺と相性が悪いぞ。
「……効果を現せ」
俺の背後でココがささやくのが聞こえた。
「眩しいな……」
ココは魔法で光を灯したみたいだった。暗視を使っているせいで光がものすごく眩しく見える。
俺はそれを傍目に黒い背中を追いかける。六本の脚が揺れうごいたかと思えばもう届かない場所にまで移動している。ココにテレポートしてもらって、追いつけないかと考えたが、逃げる先がわからない以上それはできない。
近づこうとすれば、脚を小刻みに動かして、どこかに消えてしまう。
かれこれ数十分は追いかけっこをしていたが、一向に追いつけない。
「よく疲れずにそこまで、走り回れますね。手伝いましょうか?」
「大丈夫だ……俺がやらなきゃ意味がないんだ」
朝比奈を倒すには、サシャ達を救うには、俺のレベルを上げるしかない。怒りはもちろんあったが、どうしようもなかった理不尽を覆せそうな今の状況に高揚がないかと言えば嘘になる。
選定試験が不正にまみれていたように、俺だけの努力じゃどうにもならないことが今までほとんどだった。
だからこそ、朝比奈を倒すための努力を惜しみたくはない。
シープローチが逃げた先にはココがいた。
「ココ! またそっちに行ったぞ」
「わかりました」
ココは手をかざすが、急にその対象の勢いが弱まって、動きが鈍った。そうか、夜行性なら光で照らしてしまえば、相手の本領発揮を防げるんだ。
反射的にスマホを取り出して、ライトを点灯させようとするが、サシャに灯りのつけかたを教えてもらったことを思い出した。スマホのライトなんて比にならない程の光量を魔石は出せる。
(おい、お前)
(なんだ、お前ではなく、我が名はコルハジャであるぞ)
(はいはい、コルハジャ)
(うむ。苦しゅうない。して何か用か?)
このやりとり、今後テンプレ化しそうだな。
(暗視をやめて、全力で光ってくれないか? 異世界の知識はそうだな……これはスマホと言って、遠い場所にいる人と会話することができるんだ)
俺は手に持っていたスマホをコルハジャに近づける。
(おお、これは良いな! 面白い! 今度くわしく説明してくれ)
(良いけど、その代わり魔法は使ってもらうぞ)
(承知した。では、暗視を取り消して、全力で光れば良いのだな、ほれ?)
ほれ、って。まあ、言いたいことはわかるけどさ。
「効果を現せ」
視界が暗転したと思えば、次の瞬間には白に染まった。目が慣れると、昼間みたいに物がはっきりと見えるようになった。
シープローチたちは俺の方を凝視したまま停止している。よし、動きが鈍った。
そのまま陽が沈む前と同じように殴っていく。効率を上げるために、両腕を使って二匹に対して同時に攻撃したりした。次々と倒れていき、もう立ち上がっている個体はいないみたいだった。
これで終わったのか?
疲れてはいるが、身体から沸き起こる力がいつもの数倍以上になっているような気がした。まだまだやれるが、終わってしまったのだから仕方がない。
「クリハラ、名案でしたね。さすがは1位です」
ココが立ち上がって拍手をした。
たまたま思いついただけで俺がすごかったわけじゃないけれど、まあ、嬉しいな。褒められることなんて今まであまりなかったからな。
「ぶっちゃけまだできたけどな」
汗一つかいていない。あのテスト対策の日々を思えば、ウォームアップみたいなものだ。
「それは……人間の域を超えていますね」
魔石の光がまぶしいのか目を隠しているが、俺に引いていることはわかる。
「なんにせよ、報酬がもらえるし、俺のレベルは上がっただろうから良かっただろ?」
「もちろん! 早くギルドに帰って、報酬を受け取りましょう!」
予想通り、ココは「報酬」の二文字に目を輝かせた。
「俺も早くギルドに帰って、レベルを確かめたいところだけど、まずは村長に報告しないとな」
「そ、それもそうですね」
意外な事実に思い当ったような顔をしているけれど、報告しないと村長も不安になるだろ。
いきなり倒れたシープローチの大群を見せるわけにもいかないだろうし。死んでいるかもわからないから、縛るのを村人に手伝ってほしいし。
(おい、コル、光を弱めてくれ)
(お前じゃなくて、じゃなくて、略すな! 我の名前はコルハジャだ! 分かった。弱めるぞ)
光が周りが見えやすくなる程度の明るさになった。発動には異世界の知識が必要だけれど、調整には必要ないのか。
略すのもダメなのか。コルハジャって心の中でさえ、言いにくいんだよな。
(高貴な名前に文句をつけるでない!)
俺は無視して、ココと共に村長の家に戻ることにした。
ここまでメイドのルイさんに案内されていたので帰り道が分からない。
「クリハラ様、見事な手際でした。ショーレム村長も大変喜ばれるでしょう」
気が付かない間に、畑の出口にルイさんは立っていた。
ずっとここから見ていたのか?
「拳でモンスターを駆除する冒険者なんて見たことがありませんよ。御見それしました。では案内いたします」




