第十九話
虚ろな目で俺を見つめてくるシープローチたちは、相手が敵か味方かを見分けているみたいだった。
まだ、攻撃はしてこないのか? こいつらの攻撃力は低いはずだから、そこまで性格もアグレッシブではないのかもしれない。
一方的に攻撃するのはそこまで気が乗らないが、まさかこのまま放置するわけにもいかない。
手近なシープローチに手を触れて、エナジーコピーをする。そして一発殴ってみた。また鳴き声をあげて走って逃げて行った。
「こいつらに、仲間意識とかあるのか?」
「私も詳しくなくて、あまり知りません。ただ、そこまで仲間を守ろうという意思が感じられませんね」
村長も共食いをするモンスターだって言ってたしな。自分を守るために警戒しただけだったのかもしれない。このまま、逃げたシープローチに追撃するか。
また、俺は近くにいたやつにスキルを使って、殴ってみた。逃げる前に、二発目を叩きこむ。シープローチは弱弱しい悲鳴を上げて倒れた。
これならやれそうだぞ。
同じことを繰り返している内に十匹は倒すことができた。
たまに反撃してくる奴がいたが、躱すのにたいして手間取らなかった。
目算、あと30頭。
同じことを繰り返すのは俺の得意分野だ。
続けて20頭目。
20頭目は一発で倒すことができた。こいつだけ弱かったのか?
「クリハラ、レベルがかなり上がったみたいですね」
なるほど、だから一発で倒すことができたのか。
ココはギルドで買った食料をむさぼっている。遠足じゃないんだぞ。と言いかけたが、その食糧を狙ってシープローチが近づいてきていた。
「ココ! そっちに行ったぞ」
「大丈夫ですよ」
ココが迫りくる黒いモンスターに手をかざすと、俺の目の前にそいつが飛んできた。いや、瞬間移動テレポートしてきた。
「うおっ! 押し付けるなよ」
俺はそいつを殴り倒した。
ココのスキルは倒せこそしないものの、便利だな。勝てないが、負けることもない。勿論、依頼は完遂するつもりだが、俺のレベルを上げるという目的もあるので、ココの対応はそれで正解だ。
日がだんだんと落ちてきて、あたりが暗くなって視界が悪くなり始めた。
(おい、我の存在を忘れてないだろうな)
甲高い声が頭の中に響いた。普段は大人しいから良いが、喋られ続けたらノイローゼになりそうだ。
(うるさいわい。我の力が貸せそうだから言っておるのだ)
(なんだよ。魔法を使ってこいつらを倒しても、レベルは上がらないだろ)
(うっ、確かに。だが、別にファイヤーボールを放ったり、レーザービームを出したりするだけが魔法じゃないぞ、例えば『暗視』とかな)
(あんし?)
(そうだ! 暗闇でも目が見えるようにする魔法だ!)
これ以上暗くなられると、シープローチの毛が黒いこともあって、戦いどころじゃなくなってしまうだろう。それは良い提案だ。意外と使えるじゃないか、こいつ。
(いいなそれ、やってくれるか?)
(契約? 忘れてないよな?)
異世界の、つまり地球の知識をコルハジャに授けるかわりに、魔法を使ってもらうのが契約だ。
(ああ忘れてないぞ。これなんかどうだ。米を固めたものの上に、生魚を載せた寿司って食べ物があるんだ。これがとてつもなく美味い。寿司というんだ。これでいいか?)
頭に浮かんできた自分の好物を教えてやる。
(こめ、は穀物の米か。それに生魚って……ほんとに美味しいのか? 人間が生魚を食べている所をあまり見たことが無いぞ。まあ、いい。契約通り暗視を授けてやろう)
今更ながら、この世界で寿司が食べられないことに気づかされて、ちょっとした絶望が俺を襲った。
コルハジャは不平不満を漏らしながらも、知識欲が満たされたことで満足したみたいだった。
……何も起こらない。
(おい、早くしろよ)
(「効果を現せ」と言わねば!)
その言葉は絶対必要なのか? まあ、ココもサシャも言っていた詩、真似しておくか。
胸元から紫の魔石を取り出して、握る。
「効果を現せ」
暗かった視界がだんだん明るくなっていく。おお、これが暗視か。ちょっと待て、明るくなりすぎてないか?
(間違えた。目自体を光らせてしまった。アブナイ、シツメイサセルトコロダッタ)
(失明⁉ やっぱりやめてくれ)
コルハジャはやっぱり売れ残っていただけあって、魔法がへたくそなのか?
(あ、こうやるのか)
プラモデルの説明書を読んでいるようなコルハジャの納得とともに視力が回復した。まるで昼間のように視界が明瞭だが、朝でも昼でも夜でもないような、トリックアートを見ているような感覚だ。
見えれば、このまま依頼はこなせそうだ。
次からコルハジャに魔法を使ってもらうときにはリスクを考えないとな。
(おい、久しぶりだからちょっと戸惑っただけでなあ……)
(はいはい、集中するからちょっと黙ってて)
(なっ、我はこれでも魔物の中ではそこそこの地位で……わかった。もうふて寝するもん!)
魔物は寝るのか? 言ったっきり静かになったので本当に寝てしまったのかもしれない。
さて、残り三十匹、さっさと終わらせますか!
俺は一番近くにいる、シープローチに殴りかかる。
だが手ごたえは無く、そいつは隣の木のガジョの実をむさぼっていた。
——避けられた
もしかして、こいつら夜行性なのか?




