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第十八話

「ああ、君たちが……冒険者ギルドから来てくれた人たちかね、ずいぶん若いねえ」


 出迎えてくれた村長は、長老も兼任していそうなお年寄りだった。長い白髭を蓄えており、背中は曲がっている。だが、体つきはしっかりしており、この村の豊かさを感じさせる。

 俺たちが通された応接室には、高価そうな調度品や絵画があり、黒の机を挟んで、四つソファが並んでいた。

 座ると、クッションがふわりと体を包み込んでくれる。

 ルイさんはガジョマルを用意して、机においてくれた。カフェで飲んだ、酸味のある青い飲み物だ。

 ココがすぐに手を付けた。


「好きかね? ガジョマル」

「はい! それはもう大好きです!」


 ココが身を乗り出してそう言うと、村長は満足げに表情を緩めた。


「良かった、良かった。この村の特産品がガジョの実でねえ、それはそれは若い子たちがよく飲んでくれるから、我々は豊かな生活ができてるんじゃよ、じゃが……」

 

 村長は眉を顰める。

 俺は話の続きを促した。


「シープローチ、ですね」

「そうじゃ、長い間この村にわしはおるが、こんなことは初めてじゃ、山の主が怒っておるのじゃろうか」


 そういえば、山に生物を治めている主がいるとかいう話をココもしていたような気がする。

 作り話なのか、実際にそうなのかが分からない。俺にとってこの世界自体が作り話みたいなものなのだから。


「山の主はのう、この世界が循環しはじめた直後にケルシャ山に降り立ったと言われておる……。生物たちが溢れかえって、人間達の居場所がなくなるのを防いでくださっておるのじゃ。山の方には祭壇があっての、」

「ショーレム様、とりあえずはシープローチの話を」

「ああ、そうじゃった、そうじゃった」


 面白そうだったので聞きたかったが、ルイさんに止められた。話の本筋からは外れているから、それで正しい。


「あと一時間もしたら奴らは現れる。共食いをするほど食い意地の張ったモンスターじゃから、わしらだけじゃどうにもならんくてのう。冒険者ギルドに依頼したというわけじゃ。倒せそうかい?」

「一度戦ってみないことにはわかりません。なので、成功報酬でおねがいします」


 事実見たこともないのだから、どうなるかは分からない。


「いやいや、戦ってくれただけでもいくらか渡す用意はある。頑張ってくれ。今は裕福な生活が送れておるが、このままじゃ、わしらは食っていけなくなる」


 そう言われると、断れない。

 村長が手を差し伸べてきたので、俺はそれを握って上下に振る。握手の文化がこの世界にはあるみたいだった。

 村長の真剣な目に吸い込まれそうだった。彼が長を務めている理由が分かった気がした。


 俺たちはルイさんにガジョの木がある畑に案内された。ミカン畑のように等間隔に2メートルぐらいの高さの木が並んでいる。青い握り拳くらいの実がなっているが、無事なのは高い場所ばかりで、低い場所に成っていたはずの実はすっかりなくなっている。

 皮が地面に残って、若干腐った匂いがすることから喰い荒らされたことがわかる。

 村人はすでに避難しているのか、誰もいない。

 西日がすでにまぶしくなってきていた。


「では、よろしくお願いします」

「はい!」


 ルイさんは村長の家に戻って行った。

 俺はギルドでココに買ってもらった、アーマーとグローブを身に着ける。


「ココは危ないからさがっててもいいぞ」

「私はいつでも逃げられるので、心配してもらわなくても大丈夫ですよ」


 ココはスーツにフリルスカートといういつもの出で立ちなので心配になる。

 スキルで、瞬間移動すれば逃げられるのだろうが。


——その時、ゴソッと何かがうごめく音がした。

 

 黒い塊が何匹も近くにいることが分かった。

 背は俺の腰よりも低い。黒い毛に覆われており、何本かの脚が、六本長く、横に広がって生えている。

 顔は羊と全く同じような間抜け面。

 やっぱり、羊とゴキブリだったのか。気持ち悪いが、羊とゴキブリの両方を知っていることもあって、さらに不気味に思える。

 むしゃむしゃとガジョの実をむさぼっている。どこから出てきたのか、その数はどんどん増えている。


 恐る恐る、近づいて、木からシープローチを引き離そうと引っ張ってみる。ものすごい力で踏ん張っておりびくともしない。

 全力で殴ってみる、だが、柔らかい毛に力を吸収されて全く痛がっている様子はない。


「シープローチの平均レベルは30程度と言われています。スキルを使わないと攻撃がほぼ無力化されます」

「わかった」


 俺は畑を荒らすこいつに怒りを込めて、手で触れる。青い光が手にやどり、自分に力が湧いてくることが分かった。

 そして触れた手をそのまま頭の上にまで上げて振り下ろす。


「メェェェェェェェェェェェ!」


 シープローチは雄たけびを上げると、走って逃げた。あのまま逃がすわけにはいかない。俺は追いかけようとするが、

 数十頭はいるだろうシープローチが俺の方をどす黒い目で見つめていた。仲間意識とかあったんだな。

 こいつら全員を一度に相手はできないぞ。

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