第十六話
(何で知っているかって? 我々は循環の外にいるからね。まあ、気にしないでくれ。誰かにばらしたりなどせぬ故な)
(わかった、お前が周りにばらさないでくれるならいいんだ。いつか教えてもらうけどな)
(うむ……わかった。あと、お前、ではなくコルハジャだ)
やっぱりはぐらかそうとしていたのか。
隠し事をしようとしたり、尊大な発言をしたりすることが気になるが、こいつ以外に俺と契約をしようという魔石が無いのだからしょうがない。
(じゃあ、コルハジャ、契約しようか。)
(まかせよ。我は並の魔石より数段は格上だ、できぬことは何一つない!)
ごっこ遊びをしている子供みたいだ。
(おい!我には聞こえておるぞ!)
俺は無視して、瞼を開いた。店内の光がまぶしくて目を細める。
「えっとー、選んでもらいましたかー?」
「ああ、こいつですね」
高価そうな魔石はガラスケースに展示されているが、俺の指さした魔石は、かごの中に積み上げられた色も形も綺麗じゃない魔石に埋もれている。
見えないが、感覚で分かる。
コルハジャはどうやらジャンク品に混ぜられているらしい。
「クリハラ、そのあたりは予備に使ったりする魔石ですよ」
「わかってる。でもこいつしか契約してくれないみたいなんだ」
かごの中には大体親指の爪ぐらいの大きさの魔石が乱雑に入れられているが、一つだけ異彩を放つのがあった。
ゴルフボールぐらいの大きさで、半透明の紫色だ。金色の線で謎の幾何学模様が刻まれていた。
「あー、それならー無料にしましょうー。ちょっとうわさに聞いたことがある魔石ですねー。元々は高級だったのに、売れなかったり返品されなかったりでずっと売店にあるとか聞いたことあります―、それで大丈夫ですか?」
コルハジャのやつは、何でもできると息巻いていたが、あれはどうしても売れたさから出た見栄なのだろうか。
ジャンク品置き場に戻したくなったが、俺にはこいつしかいない。別の売り場で買うのも、アルルさんの好意を無下にしているみたいではばかられる。
「いやですけど、これにします」
アルルさんは首をかしげていたが、コルハジャに紐を通して、俺の首にかけてくれた。心の声を聞かれていそうで落ち着かない。魔石だらけのこの世界でそんなことを気にしていたら生きてはいけないのだろうけれど。
俺たちは、会計を済ませると、今後の方針について話し合った。
サシャとその父親をどうにかして助ける方向で一致した。
だが、助けるにしても俺のレベルが上がらないとどうしようもない。ココのレベルは32らしいが、直接相手に攻撃できるスキルを持っていないから対抗しようがないそうだ。
「それでしたらー、こんなのどうでしょう?」
アルルさんは紙を一枚俺たちに見せた。
☆緊急依頼 B級案件 シープローチの駆除
原因不明だが、シープローチの大量発生につき駆除を依頼する。
目算50頭
ケルシャ村近郊。村長を訪ねること。
報酬は10万タル
「シープローチはレベルが高いわりに攻撃力よりも防御力が強いモンスターですから、レベル上げには最適ですー……それにしてもシープローチはあのあたりで大量発生しないはずなのですが……まあ、ラッキーですねー」
シープローチがどんな生物かは分からないが、サイホーン然り、羊シープとゴキブリローチの組み合わせなのじゃないだろうか。
「10万タル……」
「ココ?」
ココの目が輝き、口からよだれを垂らしている。
「クリハラ、受けましょう! 初期投資は絶対に無駄にしたくないですからね! 私も協力しますしね!!」
すごい意気込みだな。
報酬がどうであれ、やるしかないが。
「やろう」
「承知しましたー。ケルシャ村の場所はご存じですか?」
俺は勿論知らないのでココの様子を伺う。
「ケルシャ山の近くにあるのはなんとなくわかりますが、詳しいところまでは」
「ではこちらを」
アルルさんは地図を手渡してきた。
説明によると、冒険者ギルドから東に歩いて数時間の場所にあるようだ。
「行けると思います。日が暮れる前に行ってきます。早く片付けて、サシャたちを助けて、次の仕事に取り掛かりましょう」
「お、おう」
ココはペコリと礼をして外に走って行った。俺も売店で買った諸々を袋に詰めて、その後を追った。
(あの娘、金に異常な執着を示しているな……気をつけろよ相棒)
すぐにコルハジャがしゃべりかけてきていることに気が付いた。
(お金はまあ、くれてやってもいいさ。あと、お前を相棒にするかはまだ決めてない)
(おぬし、契約の意味を知っておるのか⁉)
小さくなりつつあるココの背中を追いかける。庭にいる冒険者たちが野次を飛ばしてきた。
「お、痴話喧嘩か?」
「ヒューヒュー、わかいねえ!」
どの世界でも色恋沙汰が好きなやつが多いな、としみじみ思った。