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セナはミトに引きずられるようにして、店に入った。飲食を扱うその店は、ちょうど昼時でなかったため客もあまりおらず、店主が退屈そうに新聞を眺めていた。
「で、どういう事なの?」
ドリンクを注文し一息つくとミトがきりだした。心なしか怒っている様子。セナの頬を一筋汗がつたう。
どうしたものか。まさか老人たちに邪険に扱われたのでいづらくなったとも言えないだろう。それにおそらくそれはセナの本心でもないのだ。
この女性と長くいることは自分にとって致命的なものになる。そんなような感覚を覚えたのを、看病してくれるミトを見上げながら感じたのを思い出す。
それはセナの中でもうまく言葉にできない感情。それゆえこうして面と向かって問い詰められても、返答のしようがない。しかたなしにセナはお茶を濁した答えを返す。
「ミトにこれ以上世話になるわけにはいかないと思ったんだ。ケガの面倒をみてもらって、これからの生活もやっかいになるなんて申し訳ないって。でもキミはそう言っても気にしないでって言うと思ったから。だからそっと村を出たんだ、本当にごめん」
ミトは険しい顔をしてその言葉を心中で咀嚼していた様子だったが、急にパッと顔を明るくした。
「そっかあ! 本当に気にしないでよかったのに。むしろいなくなられた方が心配したよ。村のみんなに聞いても朝方に村を出るのを見かけた、ミトにありがとうと伝えてくれ、そう言っていたって。いったいどうしちゃったのって感じ。でもよかった、こうしてまた会えたから」
そう言って笑う。
まさか、この説明で納得されるとは。セナはますますミトという女性がわからなくなってくる。
「あ、それでさ! 掲示板見てたじゃない、セナ。てことは仕事できるんだよね。じつは私、依頼を頼もうかと思ってたんだ。それをお願いすることってできないかな?」
「仕事?」
「そう。ある村までの護衛を頼みたいんだ。やっぱりあんな大きな戦いがあったあとで、治安も悪くなってるって聞くし。私は大丈夫だって言ったんだけど、村のみんなが遠出するなら絶対条件だって、そう言うの。セナなら気心もしれてるし、安心でしょ?」
セナは心の中でやれやれと首を振る。
このお嬢さん、ずいぶんと自分を信頼しているようだが、助けられていうのもなんだが、僕が本当は危険な人物だったらどうするのだろう。それに依頼をするにしても相手の力量も確かめずに決めてしまっているし。
危なっかしいなあ。
セナはしかたなし、とうなずく。
「いいよ。その依頼を受けることにする。よろしくミト」
「やった。よろしくね、セナ」
だがミトは、あ! と何か思いついたような顔をした。そして、
「よ・ろ・し・く・ね! 今度こそは!」
手に力をこめて強調して言う。
セナは苦笑いして、
「ごめんってば。本当の本当に今回は大丈夫」
そう言うとミトが笑った。つられてセナも笑う。これが二人の旅の始まりだった。