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王国は人々で賑わっていた。
市が立ち、いろいろな品が売り買いされている。
セナは商人からリンゴを買うと、かぶりついた。口の中でじゅわっと果汁がひろがり、歯ごたえもいい。
セナは仕事を求め、掲示板の前に立つ。
なにか困りごとがあると、人々は掲示板に仕事内容と報酬、その他諸条件を書き込んで貼り付けるのである。
セナはおもにそれらの仕事を請け負うことで、生計を立てていた。
ただ、出世などには結びつかないので、いつまでもやっている仕事ではないだろう。
そう考えて先の大戦に参加した。
結果、大惨敗。あやうく命を落としそうになった。人生は思うようにいかないものである。
ケガはだいぶいい。あのミトという女性の手当てのおかげだ。セナはあらためて感謝する。
あの村を出てから、2週間ほどが経過していた。
彼女は怒っているだろうか? 最後の挨拶もせず、ウソをついて村をでてきてしまったのだから、怒られて当然だろう。
いつか村へ立ち寄ってお礼を言おう。セナはそんなことを考えた。
その頃までには、少しくらいは人に褒められるような仕事の一つや二つ、しておきたいものである。
セナは村一番の剣士であった。神童とも呼ばれた。
それで大きな夢を持ち、王国へと登ってきた。だが来てみると、自分くらいの剣士はごろごろいるのだった。
はじめての仕事で、自分は平凡そのものの剣士であると、痛いほど理解させられた。
だが、村のものたちに大きな期待を与えて出て来ただけに、なかなか村へ帰る気にもなれず、なんとかその日暮らしの生活を続けてここまできた。
いっそのこと村へ帰ろうか。村へ帰って剣を捨て、畑を耕して暮らすのもいいだろう。嫁でももらってのんびりと暮らすのだ。
それはなかなか魅力的な考えに思えた。
自分にも意地がある。そう考えて今までそんな考えをふり捨ててきたが、大戦で死にかけてその最後の意地も折れてしまった。
はぁ・・・
とため息をつき、意識を掲示板に戻す。
仕事選びは重要だ。下手に高い報酬の仕事を選ぶと、それだけ死の危険が高まるわけで、あっさり命を落としかねない。
かといって報酬が低くて簡単な仕事を選んでも、体力の無駄使いになってしまう。
自分にできる仕事で、なおかつ報酬もそこそこいいものを選ばなければいけない。
二流剣士の悲しさである。
とはいえ、仕事選びさえ間違えなければ実入りのいい仕事はなくはない。
腐っても神童とまで呼ばれたセナである。一流どころの仕事には手が出ないが、そこらへんを避ければ、逆にセナにも十分請け負える仕事はある。
一流どころは王宮剣士になったり、貴族や富豪のおかかえ剣士になったりするものなので、このような掲示板に張り出される仕事はセナでも手が出せるのだ。地雷を避ければであるが・・・。そして地雷は多い。
セナは掲示板の依頼を注意深く眺めていく。
その時、横に気配を感じる。ローブをかぶった、おそらくは女性が新しい依頼を掲示板に貼り付けようとしていた。
セナはその様子を眺めるともなく眺めていた。
視線を感じたのであろう女性がこちらを向く。そして、
「ああーー!!」
と叫ぶ。
「セナ! セナじゃない。なんでこんなところに? てゆーか急にいなくなったんだもん。心配したじゃない」
セナは絶句した。その女性は見間違えようもない、自分の命の恩人であるミトその人であった。