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雨ごいの姫  作者: 朝寝雲
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 ケガがほぼ治った頃、セナはミトの村に連れていかれた。

「姫さまお帰りで。そちらの方は?」

 多くの老人たちがミトたちを出迎える。

「うん。セナっていうんだ。私が命を救ってあげたの。仲良くしてあげてね」

 老人たちは困惑の表情を浮かべる。

 ミトは気にする様子もなく、

「こっちへ。私のうちへ行こう」

 と、セナを誘う。老人たちのだれかが、

「またやっかいごとを・・・」

 とつぶやいたのを、セナは聞いた。

 老人たちの輪を抜けてしばらくして、レンガ造りの家にたどり着く。

「ここが私の家。素敵でしょう? みんなに頼んで造ってもらったの。さ、入って」

 彼女に招かれるまま、家へ足を踏み入れる。ベッドに机。そして壁一面に数々の、雨が降っている様子が描かれている絵が飾ってある。

 絵に注意を向けているセナの様子に、

「すごいでしょう? 全部私が助けてあげたんだよ。雨を降らせてあげるとね、みんなとっても喜ぶんだ。だからその様子を帰ってきたら絵にして残しておくの」

「それは・・・すごいね」

「そうだ! セナの絵も描かないとね。死にかけて、必死で雨で渇きを癒してる姿を。ちょっとおもしろいね」

 きゃは。きゃは、っと、ミトは笑う。

 セナは毒気を抜かれたように、ミトの笑う姿を見つめる。

 看病してもらっているときから感じてはいたが、このミトという女性、どこか変わったところがあるようだ。だが、命の恩人に変わりはないので、

「それは笑える絵になりそうだね。完成が楽しみだよ」

 と言っておく。

「うん。楽しみにしておいて! じゃあさっそくとりかかろうかな。あ、私忙しくなるから、村にいる人を適当につかまえて、何したらいいのか聞いたらいいと思うよ。この村若い人いないから歓迎されるよ」

 ミトはそう言ってがちゃがちゃと絵の準備を始める。

 しばらくその姿を見守っていたが、ミトは集中していてセナのことなどすっかり忘却のかなたといった様子なので、あきらめて家を出る。

 ミトの言う通り村には若い人の姿はなく、いるのは老爺、老婆しかいない。それら老人たちがセナのことを遠巻きにしてヒソヒソとなにかささやきあっている。

 僕は歓迎されていないようだな。嫌でもわかる。

 セナはそう考えて、苦笑する。

 一人の老爺が近づいてくる。

「若い人。姫さまに助けられたそうだが、それを恩に思うなら、一日でも早くこの村を出ることだ。わしらはわしらでやっている。よそ者はじゃまなのだ」

 言われたセナは、肩をすくめ、

「そのようですね。実はケガもだいぶいいので明日にでも出発しようかと」

「話のわかる御仁で助かる。姫さまには内緒にしときなされ。絶対に止めるでしょうからな。後でわしらの方から伝えておきます」

 セナは老爺との話を終えると、村を一応ざっくりと見て回り、ミトの家に戻る。驚くことに絵は完成していた。

 ミトが嬉しそうに絵を示して、

「どう? いい絵がかけたでしょう? でもやっぱり私、ユーモアのセンスがないみたい。なんか寂しい雰囲気の絵になっちゃうのよね」

 ミトの言うように、雨の中、傷だらけの男が仰向けに倒れて雨を浴びる様が描かれたその絵は、見るものを悲しい気分にさせる絵だった。

「あははっ。笑える絵が完成しなくて残念だったね」

 セナは笑ってみせる。

「そう。こればっかりは実力不足。この私をもってしても無理なものは無理なのよね」

 ミトがはぁ、とため息をつく。ところで、とミトが言う。

「キミ行くところあるの? ないならこの村にいればいいよ。みんな歓迎してくれたでしょ? そうしなよ。若い人がいないからつまんないんだ、この村。決まりね」

 セナはミトの言葉に苦笑したが、

「そうだね・・・しばらくやっかいになるよ」

「やった! あらためてよろしくね、セナ!」

「ああ、よろしく。ミト。」


 セナはあてがわれた家から夜明け、一人そっと抜け出る。

 丘の上から村を見下ろす。心の中でミトにありがとうと、さよならを告げ、セナはその村を後にした。

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