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雨が降る。
彼女、ミトの求めに応じて雨が降る。
それは待望の雨だった。人々は歓喜する。これで作物が育つ。飢え死にしなくてすむ。
ミトはそんな姿を眺めて、ニコリと笑った。
セナはそんなミトの横顔を眩しく見つめる。
ミトは美しい女ではなかったが、セナの目には好ましい容貌にうつった。特に雨を求める時の彼女の祈りの姿からは、目を離すことができなかった。
ミトとセナは二人で旅をしている。雨を求める人のいるところにおもむき、その願いを叶える。
セナがミトと出会ったのは戦場の跡地だった。
その時、セナは息も絶え絶えに地面に倒れ伏していた。血が流れる感覚がある。どこかの骨が折れているだろう感覚も。そしてなにより喉がからからに乾き、水を欲する。
もうダメかもしれない。そう感じていた。
その時、ぽつりと頬に感覚が生じる。そして、それは顔のいろいろな場所にぼつりぼつりと生まれ、目に入ったそれにセナは目を閉じる。
雨。
セナは口を開けその天の助けのようなソレで渇きを癒す。
ふと横を見ると、女性が、きれいな背筋を伸ばした正座に、胸の前で手を合わせ、顔は空を仰ぎ何かを唱え続けていた。
彼女が何をしているのか、セナにはわからなかったけれど、美しい、そう感じた。そしてセナは目を閉じ、気を失った。
目が覚めた時、誰かが自分を覗き込んでいるのがまず目に入った。
「あ、起きた!」
女性は嬉しそうに言う。
セナは手を握ったり開いたりしてみる。動きがぎこちない。思いきって起き上がろうとするが、倦怠感のようなものが全身をつつんでおり、体がうまく動かない。
「だめ。まだ動かないで。あなたいろんな所をケガしてるよ」
そう言うと、女性はセナの体を押しとどめた。
「安心して。命に別状はないから。でも回復するまではけっこうかかりそう」
きみが・・・
声をだしてみる。大丈夫、話すことはできそうだ。
「きみが助けてくれたの?」
セナが尋ねる。女性はうなずく。
「そうだよ。すごい戦いがあって、終わった後、私だれか助けられる人がいないかって見に行ったの。でもダメだった。みんなみんな命を終えていた。絶望してたんだけど、あなたを見つけた。助けられてよかった」
女性は本当に喜んでいる顔をしていた。
命を救われた。その実感がセナの中にじわじわと湧いてくる。
「私ミトって言うの、あなた名前は?」
「僕はセナ。助けてくれてありがとう。思い出してきた。雨の中できみが必死に祈ってくれていた姿を。僕のために祈ってくれていたんだね」
ミトはあははっと笑い声をあげる。
「あれね。きみのために祈っていたのは、それはそうなんだけどね。たぶんきみの想像とはちょっと違うんだ」
ミトの言葉にセナは不思議な顔をする。
セナの顔を見たミトは得意げな顔をした。
「私ね、雨を呼べるんだ」