推理3
俺達は探索に必要な物を取りに、事務所へ移動していた。
「これはこの旅館周辺の地図です」
清水さんがコピー機から地図を取り出す。地図には館から桜並木、砂浜までの道が簡単に描かれていた。
「この波線の向こうはどうなってるんだ?」
「そこは暫く海岸線が続いて、陸側も切り立った崖と森林になっています。20キロほどその様な風景が続きますが……。行きたいですか?」
「いや、分かった。とりあえず今日はこの周辺を回ってみよう」
「わかりました。準備しますので、少々お待ちください」
そう言って清水さんは事務所の中から、非常袋と簡単な装備を持って来て俺達に手渡す。
「では、行きましょうか」
俺達は四人で階段を降りて玄関へ向かう。室内履きから動きやすいスニーカーに履き替え外に出る。
玄関を出て右を曲がると目の前には海と砂浜が広がっており、先程見た地図の先まで見通すことが出来る。
波線で省略されるのが納得出来る程には、舗装されていない道と砂浜がずっとずっと先まで続いている。
ちなみに陸の上の道は少し進むと草むらにまみれており、人の通る道としては機能していなかった。
俺達は石段を通って砂浜に降りる。
昨日は何処まで歩いただろうか。
ずっと同じ景色が繰り返し、砂を踏む音と耳に当たる潮風、海の音が音を支配する。
砂浜は光を照り返し、先に歩く彼女の姿を露出して暈す。付けた足跡も、帰る頃には波と風が消している。何かを話しながら、二人で砂浜を夢の中の様に歩いた。
ふと、そんな昨日の風景がフラッシュバックして、延々と続く砂浜を見つめた。
「さて、とりあえず死体の所まで行ってみるか。もう一度現場をじっくり見てみよう」
今朝見たのと同じ様に、砂浜に腕とバラバラの白骨が転がっていた。遺体に触れないように、しゃがみ込んで観察する。
「なんかふやけてきてるね、腕」
時間が経過しているからか、波のかかる部分の皮膚がしわしわしている。
「留華様、遺体を見ても大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。ホラーとかスプラッタ映画よく見るの」
「そうなんですね」
大鳥さんも腕をよく観察している。俺はする事も無いので、大鳥さんの動きを観察していた。
「腕の断面が何かに切断された様に千切れているな。骨ごと砕かれてる」
そう言って断面を指差す。素人目では全く分からないが、推理小説を書いている大鳥さんには知識があるのだろう。
「じゃあ、誰かに殺されたって事?」
「いや、一つ考えが浮かんだ。俺は事故だと思うね。ここはもう良いだろう、戻るぞ」
そう言って来た道をもどる。
綺麗な砂浜だ。大鳥さんは辺りの地面を軽く見回してから尋ねる。
「清水さん、この周辺のゴミ拾いをしてると言っていたが、今朝はどうしました?」
「ええ。毎朝やっているので、今朝も捜索ついでに簡単に拾っていました」
「それは見たいな、何か大事なものが見つかるかもしれない。
……日課かもしれんが、事件が解決するまでは控えた方が良いと思うぞ。余計な疑いをかけられる」
「まだ捨てていませんので大丈夫ですよ。それに、現場保全の為に明日以降のゴミ拾いはしないように、と女将からも言われています」
離れの厨房傍に向かうと、ゴミ置き場があった。そこには生ゴミや生活ゴミと分けられて、砂浜で拾ったゴミがまとめられていた。
「海藻に流木、ペットボトルに発泡スチロール、ロープに網に……。期待はしていなかったが、普通の海のゴミだな。次だ次」
そう言って俺達はゴミ捨て場から出る
「次って何処に行くんですか? 桜並木の方は、途中の休憩所までって話ですが」
「桜の木の下に死体が埋まっている、とかいうがな。桜は事件に関係無いだろう。この死体は海から見つかったんだ。ならば水周りを探すべきだ」
「水回り? もう砂浜は探したから、……海の中?」
鰐真がうーんと唸る。
「海の中も見てみたい気はするが俺はカナヅチなんだ。……まぁそれは置いといて、腕は何かに切断された様な断面をしていたんだ。自然ではあり得ない、何かしらの大きな人工物が怪しい。
ならば、行く所は一箇所しか無いだろう?」