表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

推理2

 探検するなら先ずは情報収集から。と言う事で、俺達はパーティー東さんに詳しい動画内容を聞きに来ていた。

 こちら東さん達の客室に、三人でお邪魔している。向かいにはパーティー東さんとマネージャーの人。流石にちゃぶ台が狭く感じる。


「実は俺も詳しくは聞いてないんだ。全部アイツ……。ホットチキンがやってたから」


「あれ? 動画撮影してる時は、東さんが詳しそうな雰囲気出してたけど」


 鰐真が不思議そうに聞く。


「あれは台本だよ。ホットチキンが作った台本をそのまま読んでただけなんだ。

俺もアイツに聞いたんだ、宝探しって何だよって。そしたら『何も知らない方が新鮮な反応が出来るだろう?』って」


 ニューチューバーは近年確立された個人でも営める広告収入の職業だ。インプレッションが金になるのだ。面白くなる手段があるならば、それを試さずにはいられないのだろう。


「佐藤さんはどうですか? ホットチキンさんと打ち合わせとかされたり?」


 佐藤さんとは、パーティー東さんの隣に座っている男性。ホットチキンさんとパーティー東さんのマネージャーをしているそうだ。

 彼もまた、パーティー東さんと同じ様に目元を赤く腫らしている。


「実は私も聞いていないんです……。俺が全部やるから任せておけ、安心して温泉にでも浸かってこい、って」


「お二人とも、ここで何をするかは聞いてない……と」


 大鳥さんは主導的に二人に質問をして、手帳にあれこれメモをしている。

 俺はというと、偶にお茶を次ぐだけで、ただテーブルの隅っこで四人の話を聞いていた。


「あぁそうだ、これがありました。動画の冒頭を撮った時の台本です。手書きをコピーした簡単なものなので、読みづらいんですが。参考になれば」


ーーーーーーーーーーーーーー


【六花邸宝探し 台本】


『〜中略〜


「いやいやチキンさん。もしかしたらお宝が埋まっているかもしれませんよ? 実はですね、この場所にはとある伝説がありまして……」

「えぇ? 伝説?」

「そう。この地には、実はお宝が眠っているかもしれないんですよ〜!!」

※大げさに脅かす。大げさに驚く。

「え、えええっ!? お宝!?」

「こちらに、六花邸の伝説に詳しい方をお呼びしております! どうぞ!」

「こんにちはー」

「どうも! こんにちは! こちらの方は六花邸の歴史について教えて下さる綱川 蒔子 (つなかわ まきこ) さんです! 本日は宜しくお願いします!」

※拍手

「よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします。六花邸の電設というのはですね、昔この地に神が降臨したという言い伝えがありまして」

「へぇー! 神様が、今俺達が立っている場所に!?」

※足元を見てリアクションを取る

「ええ。それで、この地は昔禁生地として立ち入りを禁じられ、祭られていたんです」

「そんな立派な場所に、俺達宿泊しちゃって良いんですかね?」

「良いんですよ! 実はその伝説には裏がある、そうですよね綱川さん?」

「はい、そうなんです。その神というのは、昔戦から逃れてこの地に辿り着いたやんごとなき身分の方だという説があるんです」

「えっ! 神様じゃなくて、王様ですか?」

「ええ。この地に建てられていた建物なんですが、神を祀るにしては祭壇の様な物が見当たらず、様式も神前ものというよりは人を持てなす為のものに近いと言われているんです」

「……つまり?」

「この地に居たのは存在を隠さなければならない身分の高い人間で、禁生地とされたのも追手から身を隠す為だという説が有力になっているんです」

「な、なんだって〜!?」

※大きく驚く

「つまり、そのお宝というのは……!?」

「そう、その身分の高い方が遺した、莫大な遺産が何処かに眠っているのではないか……? と考えられているのです」

「こ、この近くにお宝が〜!?」

「綱川さんご説明ありがとうございました。さてホットチキンさん。ここまで言えば、動画の企画は分かりますよね〜?」

「はい! もちのロンです!」

「「せーの、六花邸で昔の偉い人が遺したお宝探し、やってみた〜!!」」  』


ーーーーーーーーーーーーーー



「これは初耳だな。ここが偉い人の隠れ宿だった、と言う説か。まぁ昔の事なんざどっちでも良いが」

「受付の前に貼ってあった伝承とは違うよね」

「あぁ、女将さんもここは神の地だって言っていたな」


 俺達が見た後の撮影は、大まかこの様な流れで撮られたという。導ヶ丘の伝説、やんごとなきお方の隠匿地、遺された莫大な遺産……。

 ホットチキンさんは何処かからその情報を手に入れて、この動画の企画を思い付いたのだろう。

 この綱川という人にも話を聞きたい。


「綱川さんって、一緒に撮影に参加してた従業員さん?」

「ええそうです。俺達の……東側の客室を担当してらっしゃるそうです」


 客室は東側と西側に分かれており、東側は大きめの客室が二つ。ここにニューチューバー御一行は宿泊していた。そしてこの客室の担当が綱川さん。

 西側には一、二人用の普通サイズの客室が二つ。俺達と大鳥さんが泊まっている部屋だ。ちなみに担当は吉村さんという方だ。


「従業員にも話を聞きたいな、この後行こう」

「そだねっ!」


「ちなみにこの動画を撮った後、ホットチキンさんとお二人はどのような行動を?」

「ホットチキンは下見をするからと言って、俺達を置いて何処かへ出掛けて行きました」

「服装や荷物は?」

「服は動画を撮影していた時そのままで、荷物はあまり持たずに簡単なナップサックで出かけていきました」


 何処かへ気軽に出かけるような簡単な装備だ。そう遠くへは行っていないのだろうか。


「俺達は編集の確認をしたり、交代で風呂に入ったりしてました。

その後は朝になっても戻らないので、この辺りに詳しい従業員の方と一緒に探しに行って、そこで死体を発見した……という経緯です」


「夕方から夜にかけてはお互いに室内にいた……と。お時間どうもありがとう、参考にするよ。じゃあ」

「お邪魔しました!」

「失礼します」


 二人にお礼を言い部屋を立ち去る。大鳥さんを囲んで歩きながら話す。



「有益な情報だったな」

「大鳥さんの予想的中ですね。ホットチキンさんの言っていた、この旅館周辺にお宝が眠ってるって話はホントなんですかね」


 桜の舞う旅館で宝探し。ミステリーの舞台にでもありそうだ。


「知らん。俺は歴史に興味無いからな。この地に何があろうが知らん。重要なのは被害者が一人で出て行った動機だ」


 この大鳥という男。勝手に人の客室を覗いたと告白したり、一緒に探偵ごっこをするぞと言ったりと、大分変な人だと思っているが、思考の癖が俺と似ている。

 歴史に興味が無いと断言する所とか、話しかけてくる人間に変な威圧感を出す所とか。なんだか親近感を覚えてしまう。


「事前に宝探しの下見に行った、かぁ……。私達も海岸沿いを歩いてみたけど、そんな所見つからなかったよ?」

「それも詳しい人間に聞けばよかろう。次はほら、あそこの従業員に聞き込みだ」

「らじゃ!」


 東側の客室廊下を抜け玄関前に差し掛かる。受付の前には女性の従業員が二人居る。二人とも見覚えのある顔だ。


「あ、吉村さーん!」

「あら鰐真様、篠嶺様と、大鳥様も。皆さんお揃いでどうされましたか?

「聞き込み中です! 今お時間大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。どうなさいましたか?」

「今、皆のアリバイとか目撃証言とかを聞いて回ってるんです!」

「大鳥さんの助手ですけどね」

「あぁ、なるほど。大鳥様は探偵作家でいらっしゃいますものね」


 そんなやり取りを交わす相手は、俺達の部屋の担当をしている吉村さんだ。

 朝ロビーで集まった際、従業員の制服を着ているのは女将さん含めて三人だけだった。ならもう一人は……。


「すみません、貴方が綱川さんで合ってますか?」

「ええ、そうです。私が綱川です。何か御用でしょうか?」


「貴女はニューチューバーの方と撮影に参加されていましたよね? ホットチキンさんの言っていた、お宝探しの事について何かご存じですか?」

「……ごめんなさい、私は台本を渡されただけなのでよく分からないんです」

「綱川さんもか……」

「ええ。……ただ」

「ただ?」


 そう言って綱川さんは玄関近くに飾られている導ヶ丘の伝承に視線をやる。


「その、ホットチキン様が言っていた事が気になっていて……。

『伝説も語部の都合で書かれた物語だ、なら俺がもっと上手く語ってやる』と」


「物語……ですか」

「ええ。何やら考え事をしていらしたので、深くは聞いていないのですが」


 他にもアリバイなどを聞いてみたが、女将さんや厨房と頻繁に面識があり、彼女達に事件に関わる事は難しそうだった。


「私どもは、夜はこの旅館三階の宿舎に寝泊まりしております。従業員は昨晩、事務所で打合せの後、全員門限の確認後に戻ったと確認しております」

「そうなんだ」


 鰐真がうーんと考える様に顎に手を当てる。


「私ども以外の従業員は、料理人が二名と女将のみです。この時間なら朝食の片付けが済んでひと段落しているでしょうから、厨房に行ってみてはいかがでしょう」






一階 離れ 厨房にて


 俺達は吉村さんに案内され、離れの厨房に向かった。厨房では二人の従業員の男性が、食事の準備に取り掛かろうかとする所だった。


「どうも、六花邸の料理長をしております。三木 秀太 (みき しゅうた) といいます」


 少し訛りのある、背の高い男性が三木さん。


「こんにちは、私は清水 達彦 (しみず たつひこ)と申します」


 もう片方の三十代前半くらいに見える男性が清水さん、と名乗る。清水さんを見ると、鰐真が声をかける。


「清水さん! 先程はカメラを見つけて下さってありがとうございました!」

「いえいえ、見つかって良かったです。カメラは壊れていませんでしたか?」

「大丈夫でした!」

「カメラ? 見つかったのか」

「うん! 朝ね、清水さんが砂浜で見つけてくれたんだ!」

「なるほど砂浜か。ありがとうございます、清水さん」


 昨日夕食前に紛失してしまったカメラは見つかっていたようだ。二人で砂浜を散歩した。その時にカメラを置いてきてしまっていたのか。


「お役に立てて何よりです。所で、厨房にはどんな御用件で?」


《中略》


「聞き込み調査? うーむ、そう言われましても。私は殆どの時間を厨房で過ごしておりやすので、特に言える事もないんでさ。お客様と直接お話しする機会も少ないもんで。

 昨晩はお夕飯を提供した後、女将と明日以降の食材の打ち合わせをしておりました。もうすぐGWですもんで。その後は他の従業員と同じでさ」

「なるほど、特に変わった事は無しと。清水さんは?」


「僕は旅館の料理手伝いと設備の管理をやってます。昨日の夜は晩御飯の料理を手伝った後、温泉のボイラーなどを一通り見回ってから事務室の打ち合わせに参加しました。

 それと、周辺の管理やゴミ拾いでよく周辺を散策するので、今朝はホットチキンさんの捜索に同行しました」


「あぁ、ホットチキンさんの捜索に参加した従業員というのは清水さんだったんですね」


 パーティー東さんを先導して死体を探し出した人。つまり、第一発見者だ。


「ええ……。自分は毎朝、海岸のゴミ拾いをするのが日課でしたので。

砂浜に立って遠くを見ると、昨日は見なかった物が点々と流れ着いていました。もしかするとホットチキンさんの持ち物かもしれないと思い、近づいたのですが……。それがホットチキンさん本人だった、という訳です」


「なるほど……。ちなみに、骨が流れ着く事は以前にもありましたか?」

「骨が? とんでもない、人骨なんて海岸に流れ着いたら一大事ですよ。今までに一度もありません。どうしてそんな質問を?」

「それが、ホットチキンさんが……」


 清水さんにホットチキンさんの話していた伝承について説明する。

「導ヶ丘の新たな伝承、ですか。それは初耳ですね」

「自分の見立てでは、この辺りに髑髏や昔の遺留品が埋まっている箇所があると推察しているんですがね。心当たりはありませんか?」


「私はこの辺りに詳しいと自負していますけど、その様な場所は特に思いつきませんね……」

「んだなぁ。そんなものがあったら、温泉の工事をする時に出てきそうなもんです」

「温泉掘ったんですか?」

「ええ。地下水が良く出る土壌だったので、近くから引いて温泉にしているんです。ちなみに工事の時は特に何も出ませんでしたよ」

「そうか……」


「なぁ、清水さん。俺達はホットチキンさんの探していた伝承の場所を知りたいんだ。頼む! 協力してはくれないか!」

「伝承の場所ですか……。ですが、先程も言った通り心当たりは無いですし、昼食の準備も……」

「いいんじゃないか? 清水くんが着いているならお客様が遭難する心配も無いだろうし、昼食は俺一人でも大丈夫だろう」

「そうですか? では、お役に立てるか分かりませんが、この周辺を案内させて頂きます」

 大鳥さんが小さくガッツポーズをする。

「宜しく頼むよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ