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 客室に戻ると既に料理が準備され始めていた。


「あ! タメくんどうだった?」

「受付と遊戯室には無かったよ。従業員にも知らせてくれるって」

「そっか〜。うーん……。探して来てくれてありがとね! ご飯食べよ!」

「おう」


 俺も鰐真の向かいに座った。机の上には既に料理と鍋が並んでおり、お出汁や海鮮のいい匂いがする。


「カメラを探しに行ってくれたキミにはこれを進ぜよう。タメくんの大好きな……エビ!」

「やった」


 鰐真が甘海老の刺身を箸で摘んで俺の取り皿に乗せる。

 机の上にはまだまだ料理が運ばれて来る。


「わーい! 凄く豪華だねっ! あ、これとかおいしそ!」

「俺の分要るか?」

「いや、この料理の量を見るに完食が危ぶまれるので……」

「確かに、旅館のご馳走って量出るもんな」


 海が真後ろにあるので魚介類が多めかと思ったが、肉や野菜や果物も満遍なく出る。普通に美味しい旅館のご飯だ。

 俺が鰐真から頂戴した甘海老を眺めていると、鰐真がお肉を頬張りながら教えてくれる。


「この辺ってあんまり漁業が盛んじゃ無いんだって。どっちかっていうと農牧とか林業らしいよ」

「そうなんだ。もっと刺身とか魚料理が多めかと思ってた」

「ね、不思議だよねえ。あれかな、此処って昔は祀られてたみたいだし、遠慮してるのかも」

「なるほどな」


 腹がはち切れそうになりつつも、何とか料理を完食する。夜は部屋に備え付けの風呂に交互に入り、遊戯室から拝借した二人用のテーブルゲームで遊ぶ。


「あー負けた! タメくんホントこういうの上手いよねっ!」

「ふふん。勝負事に手を抜かないのが俺の主義だからな」

 その分勝負はしない主義なのだが。

「次はこれやろ! この橋落としゲーム!」

「よし、望むところだ!」


 コンコン、と部屋の戸がノックされる。

「はーい!」


 返事をした鰐真が部屋の出入り口に向かう。何やら従業員の人と話をしている様だ。数分立ち話をして部屋に戻ってくる。



「行方不明?」

「なんでも、撮影中に行方が分からなくなったんだって」

 昼間見かけたニューチューバーの人が夕食の時間を過ぎても帰らず、今も戻らないそうだ。携帯にかけても繋がらないのだとか。

「どうしたんだろうね。遠くまで探検して遭難しちゃったのかな」

「かもねぇ」

「今頃お腹ぺこぺこだろうなぁ。それでね、もしかしたら夜中に帰って来るかもしれないから、今日は受付前の扉を施錠しないんだって」

「旅館って鍵閉めるもんなのか?」

「ホテルは夜中でも出入り自由って感じだけど、旅館は門限あるところ多いよ。本当は22時に鍵が閉まるんだって」

「そうなんだ。一応戸締まり確認しておくか」

「この辺田舎だから、泥棒とか変な人も居ないと思うけどね。旅館の人も鍵をしっかり閉めておいてくださいねって言ってた!」


 俺は立ち上がると窓や露天風呂に繋がる引き戸を確認してから鍵を閉める。


「廊下側の扉も閉めたよ! これでよし! ゲームの続きしよっ!」

「よしきた。手加減しないからな」

「望むところぉ!」


 結局、二人で日付が変わる時間まで遊んだ。旅の疲れもあり布団に入った瞬間眠ってしまった。




 翌日。鰐真は既に起きていた様で、隣の布団はもぬけの殻だった。顔を洗ったり、お手洗いに行っているのだろうと思い、暫く布団で目を閉じた。

 ……三十分くらい経っただろうか。鰐真は戻って来ない。寝ぼけながらも起き上がり、部屋の中を探す。

「わにまぁ……。いるかぁ……」

 声を掛けながらトイレや風呂を覗いてみるが、居ない。外に出て行ったのだろうか。屋内用のスリッパを履き、鍵をかけて部屋の外へ出る。


 受付の前まで来ると、何やら人が集まっており騒がしい。女将さんが受付で電話をかけている。


「はい、すぐに警察を……。ええ、えっ? 来れるのは明日……ですか? そんな……。はい、はい……、分かりました。お願いします」


 チャリン、と受話器が置かれる。女将さんはため息を吐くが、俺がやって来たことに気が付いて姿勢を正す。


「おはよう御座います、篠嶺様」

「おはようございます。……何かあったんですか?」

「ええ、その、昨日お戻りになられなかった方が……」

「あぁ、あのニューチューバーの人。その人が……?」


「海岸に打ち上がっていたんです。人の腕や骨が」



 砂浜に移動すると遠くに数人が集まっており、その中に見覚えのある白髪が見える。


「おーい鰐真ちゃん。俺が寝てる間に何があったんだ?」

「あ、おはようタメくん。揺さぶっても起きないから置いて来ちゃった! 足元のこれ見て」


 そう言われて指差す先を見ると、何やら千切れた服の様なものと、そこから人の手の様なものが見える。随分と皮膚はボロボロで、爪と形状から辛うじて人の手だという事が分かる。


「それと、こっちも」


 そして、その周辺には同じくバラバラになった骨も落ちていた。肋骨や頭蓋骨などの形状がら見て人骨に見える。波打ち際に押される様に散らばるそれは、海から流れ着いた様に見える。


「なるほど人の腕と無数の骨、か。それで女将さんが警察を呼ぼうとしていたのか」

「そうそう。ニューチューバーの人がまだ戻ってないらしいから、その人じゃないかって」


「皆様すみません、お待たせいたしました。警察に連絡したのですが、到着が明日になってしまうそうで……。現場の保存のために、皆様には本日旅館に留まって頂きたいのです。申し訳ございません」


 辺りに集まった従業員と宿泊客がざわつく。


「鰐真ちゃん、どうする? こっそり抜け出しちゃうか?」

「タメくんったらめっ!」

 小声で鰐真に耳打ちするが、怒られてしまった。


 昨日から行方不明のニューチューバー。砂浜に打ち上がった腕だけの死体とバラバラの白骨。

 警察が来るのだから自分には関係無いと、呑気に海と反対側に立ち並ぶ桜を見やる。桜は昨日よりも散る量が増えている。旅館の玄関先にも花びらがふわりと落ちていた。

 桜の木には死体が埋まる。桜の木は死体を喰らう。そんな噂が一瞬頭に浮かぶ。


 だが、砂浜に上がった彼らには桜の木には届かないな。と、思いながら客室へ戻った。

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